元生徒副会長は迎え入れる
堀部side
「……うそ、つき」
ズキズキと痛む頭を押さえながら、木に飛び移って移動する。何が、近道は無いだ。努力を続けても、弱者は強者に負ける。
結局、俺は触手を手にしても、強者には勝てなかった。
「……キレイ事も、遠回りもいらない。負け惜しみの強さなんて……反吐がでる」
ふと、視界に携帯ショップが目に映る。そうだ、全てはココから始まった。酷い頭痛に、顔が歪む。動こうとしても、足元が覚束ない。
クソッ、何もかもイライラする。
顔を顰めながら、怒りをぶつけるように触手で携帯ショップを破壊する。
「……勝ちたい」
粉々になった窓から侵入し、触手でスマホを握り締める。忌々しい。力さえあれば、俺も、あの人も、誰にも負けなかった。
一歩踏み込むと同時に、軽い吐気が込み上げてくる。
まるで俺の身体じゃないようだ。鉛のような重さに、重心が傾く。
「勝てる、強さが欲しい」
砕け散ったガラスを踏みつける。パキン、と小さく音が鳴る。俺に踏まれた破片は、少し力を加えるだけで簡単に粉々になった。
そうだ、これだ。
こんな力を、俺は望んでいる。グルグルと視界が回り、暗黒に蝕まれていく。
「やっと、人間らしい顔が見れましたよイトナ君」
「…兄さん」
呑まれそうだったその時、声が聞こえて靄が薄れる。誰だ、俺の邪魔をする奴は。頭が割れそうで、俯いたまま視線を向ける。
にじり寄るように歩いて来るのは、兄さんだった。その後ろには、E組の連中が続いている。
「拗ねて暴れてんじゃねーぞ!テメェには色んなことされたがよ、水に流してやるから大人しくついてこいや」
「煩い、勝負だ」
お前に許されなくても、どうでもいい。そう言ってやりたいのに、喉から言葉が上手く出ない。僅かに、触手を動かすのがやっとだった。
そして、長々と御託を並べた後、兄さんは勝負を承諾した。
そうだ、それでいい。
俺は、兄さんに勝つことで、俺の強さを証明できる。僅かに笑みを浮かべて、移動しようとした――その時。
「……っ!?」
視界が白く染まり、降り注ぐ粉で触手が溶けていく。なんだ、これは。咳込んでいると、大きな網が俺を包む。
「さあ、イトナ。君の最後のご奉公だ」
上から俺を見下すシロ。俺を裏切った、嘘つき。
走行する車が動く度、地面に叩きつけられて視界が霞む。薄れ行く意識の中、真っ直ぐな水色の瞳と目が合う。
ああ、俺はただ。