「美帆は私の妻だから、客には自慢したいが、街では見せたくないんだ」

　早い話が、旦那さまの独占欲の最たるものです。

色街に通って不特定多数の遊女を買い、湯水のように賭博を打ち、大酒を嗜むというより浴びるような旦那さまが唯一執着したのが美帆さまでした。

街に出るな、と旦那さまに言われたら、普通の奥さまは従うものですが、美帆さまはそうではなかったことが飽きさせなかったのでしょう。

「婉貞、ちょっと市場を見てくるわね」

　美帆さまのご出身の襄陽とは異なり、潁川は黄巾の乱以来戦乱が続き、住民が次々に移住するほど混乱を極めておりました。

そのような中で、美帆さまは度々街中を歩いておられたのです。

なんと命知らずな、と私は阿杏と共に何度もお止め申し上げましたが、それならば食料や日用品の買い出しはどうなると一蹴され、最終的には旦那さまに叱られておられました。

今となっては、みないい思い出です。

というのも、旦那さまのお種を宿された頃から美帆さまが遠出なさることがなくなったからでした。