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露わけ衣

「今日は何が入りましたの?」

「へえ、活きのいいワラサが来ましたよ。それと、いつものニワトリの卵に、ニンジンに、ダイコンに…」

「ワラサって、お魚? 何が作れますの?」

「そうですねい…もう少し大きくて、ブリになると煮て食うのが旨いんですが、まだ脂が乗りきっていねえで、この時期は照り焼きにして食うがいいと思いますよ」

「まあ、照り焼き? それならわたくしにもできそうだわ。ありがとうございます」

 料理人に混じって、夫の夕食を作ることは楽しかった。

牛乳があればプッチングや、暑い日にはミルクセーキなる西洋菓子も拵えた。

「君は本当に料理が好きなんだね」

「ええ! 今日はビスケットを焼きました。カヒーと一緒に召し上がってくださいな」

 身分の高い女性が厨房に入ることが珍しい中で、嬉々として厨房に入る妻に、夫は目を細めた。

住民も、日頃から通信筒を落とすためや、田浦から発着する航空機が敬意を表すために低空飛行することを除けば若夫婦を微笑ましく感じていた。

朗らかで人柄もよく、仲睦まじい夫婦。

日曜になれば質素な服に身を包み、自動車で出掛け、夕方になると農民を畑から家に送り届けていた。

近隣の子どもたちは彼女の料理や菓子、人形類を目当てに別邸に通った。

その気前の良さは、京都にいた少女時代からのものだった。
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