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露わけ衣

 彼女は主に、夫の勤務地に程近い鎌倉の別邸で暮らした。

決して、東京の本邸にいる姑とうまくいかなかった訳ではない。

夫の生活の拠点が、既に神奈川に移っていたのだ。

「いってらっしゃいませ。無事にお帰りになってくださいね」

 彼は日中はほぼ家を空けていたが、航空機で鎌倉上空を通るとき、通信筒を落としていった。

それを拾って、中身を読むのが楽しみだった。

結婚前に交わした手紙の匂いがした。

厨房には料理人が常駐しているが、料理上手で振る舞うのが好きな彼女を見込んで、夕食後には何を食べたいとか、趣味が高じて新しい映画を撮影したのでそれを観ようとか、とりとめもない日常の言葉が綴られていた。
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