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エミと麻由美

「…いや、姪っ子」

「…姪?」

「兄さんと、福井さんの子ども」

「えっ? お前、兄貴なんかいたっけ?」

 自分に酔っている訳ではないが、鈴原は中学生の頃から性格が悪かった。

学年イチのサディストだと噂されていた。

この、他者を見下したような話し方は健在だった。

中学校ですら学区の南端と北端に住んでいるようなもので、小学校が違ったので、僕の兄のことなど知る由もない。

「ああ」

「ふーん」

 告別式の開会は、午前10時。

まだ、時間は十分にあった。

娘のエミは、姪の麻由美や福井さんの年の離れた姉の3人の子どもと遊んでいた。

僕らが話すには、丁度いい状況だった。

「3年前の同窓会。ほら、お前が急に来れなくなったやつ、あったろ?」

 鈴原が、ぽつりぽつりと話し始めた。

3年前の同窓会。

中学校卒業後10年の節目だということで招待状が届き、出席する予定だったが、ブラジルから立て続けにイギリスに飛んだ時期だったのでやむ無く欠席していた。

「百合子が麻由美ちゃんを連れて来たんだよ。最初、出席を取るついでに近況報告し合ったんだけど、あいつ何て言ったと思う? 『今は東京でホステスやってます』って言ったんだよ。あいつ」

「まあ…嘘は言っていないな」

「でもさあ、そんなの、百合子の柄に合わねえだろ」

 中学生の頃の福井さん。

友人はそれなりにいて、付き合いが悪いという話も聞いたことがないが、真面目な優等生というのが根底にあった気がする。

間違っても修学旅行中のバスで化粧を咎められたり、不純異性交遊の末に妊娠したという噂が立つような同級生ではなかった。

これは川上佐紀子さんを引き合いに出しているわけではなく、当時実際にそのようなことがまことしやかに語られていたのだ。

尚、僕らの同級生は出産には至っていないものと思われる。

「俺、身を粉にしてというより、百合子が自分を犠牲にして麻由美ちゃんを育てているようでさあ、見ていられなかったんだよ」

「…そりゃあ、まあ、逞しくなったとは思うが」

「そういう話じゃねえ。勢い…て言っちゃ勢いだけど、同窓会から半年くらいして、百合子に結婚しようって言ったんだよ。そしたらあいつ、『気持ちだけ受け取っておくよ』なんて言いやがった」

 ここからしばらく、鈴原が語る福井さんの話が続いた。
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