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小橋さんと福井さん

 小橋さんは口数は多いが、鈴の鳴るような声でゆったりと話す人で、上品な印象を与える人だった。

「百合子の従姉の、小橋こばし真紀子まきこと申します。こちらで社会科の講師をしております」

「僕は福…百合子さんの小学校と中学校の同級生でして…」

「まあ、そうですか…。で、ユリちゃん、今のお名前は何と仰るの?」

「今も昔も、ずっと福井百合子いうよ」

「まあ、それなら、結婚は…」

「この人、マミのお父さんと違うけん、結婚さんつもり」

「マミちゃんっていうの?」

「布のアサに自由のユウにウツクしいで、麻由美いうの」

「ああ、若村わかむら麻由美まゆみさんのね」

「そげそげ」

 麻由美ちゃん、真紀子おばさんよ、と小橋さんは姪に優しく話しかけた。

期待を裏切らず、子ども嫌いな人ではないらしい。

「叔父さまと大喧嘩して家を飛び出して帰らなくなったっていうのはお聞きしたんだけど、今はどうしているの?」

「高田馬場におるよ」

 小橋さんの質問に、福井さんがのらりくらりと答えていた。

僕は購入したカツサンドとココアのパックを飲みながら、傍観した。

「麻由美ちゃんのこと、叔父さまはご存知なの?」

「知っているも何も、それで追い出されたけん。クリスマスカード出してそれっきり。しゃんことより、皆お変わり無い?」

「無いわよ。大きなおじいちゃん、おばあちゃんも元気みたい。それにユキさんも」

「そら、そら」

 あわや修羅場といった空気であったのに、小橋さんの穏和さに福井さんののらりくらりとした雰囲気が相俟って、最終的には他愛もない会話で盛り上がっていた。

小橋さんもまた、この女子校の卒業生であるらしい。

 僕らは休憩室から出ると、帰路についた。
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