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婉容

「ひどいわ。奉孝さまったら、お戻りにならないと思っていたのにっ」

 光和7年に発生した黄巾の乱以来、治安が悪化していつ再び戦乱が起きると予測がつかない中で、郭家だけは小さな別の国のようでした。

主人の帰宅を大人しく喜ばない妻など、この国のどこを捜しても奉孝夫人くらいでしょう。

人柄は正直でも、お心はまったく素直とはいえなかったのです。

「そちらこそ、この寒い中、北に行った主人の帰りに『ひどい』は無いだろう」

「勝手に出かけた方が何をぬけぬけとっ」

「君のほうが一枚上手だよ、美帆。北に向かう度に宿に書簡が届いていて、土産物の催促をしてくるのだから。…まったく、手に入れない訳にはいかないじゃないか。尤も北は戦乱続きだから、大した物は手に入らなかったがね。ああ、収穫といえば、袁刺史が──」
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