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 母が僕を身籠っていた頃、父は730里余り離れた冀州きしゅうぎょうに行くことになった。

父は旅に出たと話していたが、婉貞と杏によると冀州のえん刺史ししに仕官を求めに行ったというのが真相らしい。

「お嬢さまも一緒に行きたいと仰有って、お止めするのが大変だったのですよ」

 杏が遠くを見ながら語った話に出てくるのが、僕の知る父と母とは思えなかった。

物心ついたのは今もいるきょの屋敷で、陽翟ようてきの家ですら覚えていない。

聞いた話では、当時は父と母、それに古くから父に仕える老女の婉貞と母の侍女の杏の四人でひっそりと暮らしていたらしい。
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