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婉貞

 私、そん婉貞えんていが龐美帆さまという名を初めて耳にしたのは初平元年の暮れのことと記憶しております。

豫州よしゅう潁川の南、荊州けいしゅう襄陽じょうようの豪族のご令嬢で、面白い文章をお書きになると旦那さまは仰せになりましたが、妹と違って字が読めない私とは世界の違う方だと思いました。

「龐家の令嬢を娶ろうと思う」

 旦那さまが司馬しば家を介して龐家へ使者を遣わした時には驚いたものですが、今まで色街に繰り出すことはあっても結婚される気配がまるで無かった旦那さまの変貌を祝福したいという気持ちが湧いてきました。

旦那さまの学問所のお師匠さまが仲介したのは、その方の親類が龐家の方と親しく、婚期を逃しそうな妹君がおられたからでした。
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