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マリちゃんと福井さん

 福井さんが亡くなった時、5歳だった姪の麻由美は駒込駅近くのマンションに暮らす小橋さん夫妻に養女として引き取られた。

娘のエミとは法律上の親戚ではないが、血縁上は従姉妹同士である。

福井さんが生きていた時と変わらず、たまに会っては仲良く遊んでいた。

福井さんの3回忌が終わった次の春に小学校に入学するはずだった姪は、小橋さんのご主人の転勤に伴いアメリカのロサンゼルスに引っ越していった。

「マミちゃん、バイバイなの?」

「そうだね、今までみたいに簡単に遊びには行けないね」

 当時のエミはやっと5歳になろうかという時期で、2歳年上の従姉の引っ越しにいまいち合点がいかないようで、空港まで見送りに行っても状況を完全に理解したわけではない様子だった。

「そっかー」

 時期は前後するが、福井さんの死後まもなく、僕は彼女の親兄弟と共に遺品の整理でアパートを訪ねた。

大学生の頃借りていた高田馬場のアパートでは常に溢れていた物が、不気味なほどに片づいていた。

真新しいクローゼットの上段には家出時に持ち出したと思われるジャケットとコートが一着ずつと礼服、下段にはわずかな下着と普段着が収納されていた。

不自然な空間には、きっと麻由美の服を入れていたのだろう。

あれほど散らばっていた大学ノートは1冊もなく、メモ類は整然としていた。

大量の蔵書も、必要最低限に留められていた。

幼い頃から睡眠の供にしていた猫のぬいぐるみは柩に入れられて運命を共にしたが、インテリアにしていた大小さまざまなぬいぐるみが学生時代の状態を保っていたことが不可思議だった。

「これ、ユリが作ったんだっけ…」

 福井さんの母は、末娘の遺品のぬいぐるみではなく、その下に敷かれている平らなクッションを手に取った。

エンジに近い濃い赤の反物を接ぎ合わせて作られたそれは、まるでレッドカーペットのようだった。

子どもの遊び道具になると考えたのだろうか、はたまた自分の趣味が前面に押し出されているのか──。

 とにもかくにも、僕は彼女の部屋が妙に整理されていることについて驚きを隠せなかった。

その3年半前に亡くなった、マリちゃんの部屋が散らかっていたことと同じくらいの衝撃だった。

日常的に整理整頓をする人と、しない人。

最終的に部屋が散らかっているのは、前者だった。

何が起きたのか、どのような心境の変化があったのか、今となっては誰にも分からない。
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