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鈴原と福井さん

 同級生がざわついた。

百合子が書店の娘というのは周知の事実で、県内ではそれなりの規模を誇っているチェーン店だ。

言い換えれば社長令嬢で、私立の女子校に進学したこともあって裕福で真面目なお嬢さまというイメージと、シングルマザーのホステスが結びつかなかったのだ。

「えー、福井さん、どうして結婚しなかったのー?」

 誰もが聞きたくて聞けなかった疑問を、20歳で結婚して4歳と2歳の2児の母になっていたクラスメイトがずけずけと聞き出した。

俺ならあまりのデリカシーの無さに質問者を殴り倒すだろうと思われるものだったが、百合子は笑顔で答えていた。

「する人がいないからよー」

「誰の子どもー?」

「5年付き合って、フラれたカレー」

 同窓会がきっかけで、百合子の職場に足を運んでみた。

高田馬場駅近くのカフェバーで、俺の大学の通学路にあった。

こんなに近くにいたのに会わなかったのか、と愕然としながら店内に入ると、フィリピン系らしきママの陽気な声が聞こえた。

「いらっしゃいませーっ。あれー、初めての人だよねー?」

「あの、ここに福井百合子っていませんか?」

「フクイ、ユリコ?」

 話の早いママだった。

ユリちゃんなら、上にいるよー。呼んでくるねー。

そう言って、カウンターの中の階段を駆け上がっていった。

「ユリちゃん、お友だち来てるよー」

「はーい」

 階段を下りてきた百合子は、同窓会の時と様変わりしていた。

度の強い眼鏡の代わりにつけられた大きなマスクに、止まない咳。

歩行でさえ、一苦労といった様子だった。

「あー、スーさん」

「フクさん、風邪でも引いたの?」

「そげそげー」

 次に会った時、百合子はマスクと眼鏡を併用していて、何かを背負っていた。

ところどころ覗く管が、酸素ボンベであることを覚らせた。

それでも働き続ける彼女は、何かを急いでいる気がして、放っておけなくなった。

「たまには休めばいいじゃん」

「このだらず! 一度休んでみ、食いっぱぐれるけん」
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