エミと麻由美
質素ながら満ち足りた生活を送っている僕らに、衝撃的な報せが飛び込んだのは、年末の大掃除をしようかという頃だった。
「ユリちゃんが…」
土曜日の朝だった。
小橋さんから連絡を受け、エミに黒いワンピースを着せ、本郷にある教会に着いた頃には既に日が沈んでいた。
福井さんの親兄弟、祖父母、更には長崎から上京してきたという曾祖父母も揃っていた。
話を聞けば曾祖父は明治30年代生まれで、存命中の日本人としては最高齢とのこと。
車椅子で、2人の看護師の付き添いがあったとはいえ、よく飛行機に乗れたものだ。
11月に5歳になったばかりの麻由美は事情が呑み込めておらず、しきりに母親を起こしていた。
「麻由美ちゃんの風邪が移って、2週間くらい前から熱を出していたらしいんだけど…」
小橋さんが僕に気づき、部屋の隅で話し始めた。
「そう。でも仕事の期日が迫っていて、そのうえ麻由美ちゃんの面倒も見なきゃいけないから、病院にかかる時間が無かったらしいのね。それで月曜日、麻由美ちゃんを幼稚園に送った帰り道で倒れて、近所の人が救急車を呼んでくださったんだけど、肺炎を起こしていて、入院させたら2日後に…」
本来なら死化粧が施される所だが、福井さんには花嫁化粧が施されていた。
天に召されれば麻由美の父親がいる。
子どもの頃から百合子は花嫁に憧れていたから、せめて最期に夢を叶えてやりたい──という彼女の父の言葉でそうなったらしい。
未婚のまま身籠った娘を勘当した父親と、同一人物とは思えなかった。
彼女の母はちょうど僕の兄が亡くなった時のマリちゃんのように、柩にすがって哭いていた。
存命だった父方の祖父母は嫁を慰めながら、溢れる涙を抑えられる様子ではなかった。
彼女の姉もまた、取り乱して家族に慰められていた。
兄は、表情を失くした人形のように立ち尽くしていた。
まるで、5年前の僕のようだった。
「エッちゃん、おかあさん、起きないのー」
姪と娘は従姉妹同士に当たるとも知らずに、ずっと互いを離さなかった。
「ユリちゃんが…」
土曜日の朝だった。
小橋さんから連絡を受け、エミに黒いワンピースを着せ、本郷にある教会に着いた頃には既に日が沈んでいた。
福井さんの親兄弟、祖父母、更には長崎から上京してきたという曾祖父母も揃っていた。
話を聞けば曾祖父は明治30年代生まれで、存命中の日本人としては最高齢とのこと。
車椅子で、2人の看護師の付き添いがあったとはいえ、よく飛行機に乗れたものだ。
11月に5歳になったばかりの麻由美は事情が呑み込めておらず、しきりに母親を起こしていた。
「麻由美ちゃんの風邪が移って、2週間くらい前から熱を出していたらしいんだけど…」
小橋さんが僕に気づき、部屋の隅で話し始めた。
「そう。でも仕事の期日が迫っていて、そのうえ麻由美ちゃんの面倒も見なきゃいけないから、病院にかかる時間が無かったらしいのね。それで月曜日、麻由美ちゃんを幼稚園に送った帰り道で倒れて、近所の人が救急車を呼んでくださったんだけど、肺炎を起こしていて、入院させたら2日後に…」
本来なら死化粧が施される所だが、福井さんには花嫁化粧が施されていた。
天に召されれば麻由美の父親がいる。
子どもの頃から百合子は花嫁に憧れていたから、せめて最期に夢を叶えてやりたい──という彼女の父の言葉でそうなったらしい。
未婚のまま身籠った娘を勘当した父親と、同一人物とは思えなかった。
彼女の母はちょうど僕の兄が亡くなった時のマリちゃんのように、柩にすがって哭いていた。
存命だった父方の祖父母は嫁を慰めながら、溢れる涙を抑えられる様子ではなかった。
彼女の姉もまた、取り乱して家族に慰められていた。
兄は、表情を失くした人形のように立ち尽くしていた。
まるで、5年前の僕のようだった。
「エッちゃん、おかあさん、起きないのー」
姪と娘は従姉妹同士に当たるとも知らずに、ずっと互いを離さなかった。