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福井さんとマリちゃん

 従兄から聞いたそれを、僕は初め信じようとはしなかった。

「マリーが死んだ。引き取りに行く」

 従兄は手早く2人分の航空券を取り、イギリスに入国したのはイギリス時間で5月27日の朝だった。

バスでウィンザーの北、スラウの町を通るウェグサム通り沿いの病院に行き、霊安室に案内されて初めて死因が知らされた。

「お前、今の聞き取れたよな?」

「はい」

 現地の医師は、心不全で亡くなったと説明した。

僕らが目を見開いたのは、そこではない。

心不全に至った、経緯のほうだ。

医師はマリちゃんは後産の進みが悪く大量に出血し、輸血をしたものの容態は芳しくなく、つい4日前に脳症を起こし、2日後の一昨日、5月25日に心不全で亡くなったと確かに言った。

この説明からは、彼女が最近出産したことが分かる。

 僕らは日本でいう新生児室に案内された。

看護師は1台の保育器の前で歩みを止めた。

保育器に、Born in May 14 2019, the baby of Marie Furukawaと書いてあった。

僕は冷や汗が止まらなかった。

この子どもは──。

「彼女は、娘の父親について何か言っていましたか?」

 僕は迷わずに看護師に訊ねた。

「いいえ。検診の時も出産の時も、それらしき男性は見たこと無いし、本人もあまり話したがらなかったわ」

「それなら、DNA鑑定をしてもらえますか?」

 この時の看護師と従兄の呆然とした表情を、僕は一生忘れないだろう。
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