小橋さんと福井さん
2018年10月中旬の日曜日、僕は福井さんと姪と共に鎌倉にいた。
彼女の母校──つまり、川上さんやマリちゃんのそれでもある女子校の文化祭が開かれていたからだ。
「あれ、福井さん、家族連れ?」
「もう福井さんじゃないか。今は何ていうの?」
彼女が学び舎から旅立ってちょうど5年。
私立のせいか、在学中にいた教員は定年を迎えていない限りまだ教鞭を振るっているようで、抱っこ紐で抱かれた姪について質問攻めに遭っていた。
「福井で大丈夫ですよ。名前、変わっていないので」
隣の人は娘の叔父で、今日は用心棒で連れてきました──と、福井さんはぬけぬけと言い放つ。
事実なので否定のしようが無いものの、もう少し気の利いた説明はできないのか、と腹の中で密かに突っ込んでいた。
「リリー! 優良物件捕まえたじゃーん!」
特に印象に残っているのが、福井さんの1つ年上の先輩の1人。
部活動が違ったようで、一人だけ下の名前で呼ばれていた。
「いや、優良物件捕まえたと思ったら逃げられちゃって」
「えー?」
背は福井さんよりやや高く、マリちゃんよりやや低いといったところか。
丸顔の色白だったが、北方というより南方の雰囲気を漂わせた人だった。
「ま、いいや。お邪魔したら悪いし、また後でねー!」
2~3年経って、福井さんはこの女性の結婚式に招かれ、姪を連れて参列していた。
結婚後の名を他他拉 幸愛 さんといい、中国系──満州族出身と思われる日本人と結婚された。
福井さんは勘当された当時、左手でボストンバッグとブランケットを乗せたスーツケースを押しながら右手でキャリーケースを引き、スリーウェイバッグを背負っていたらしい。
本人によると荷物の内訳はボストンバッグに普段の衣服、キャリーケースにノートパソコンを含む日用品、スリーウェイバッグに貴重品を入れ、一番の大荷物であるスーツケースには兄からの手紙と礼服類を詰めていた。
通常の家出ではまず持ち出さないであろうが、幸か不幸か、これらが役に立つ日が複数回あった。
よい方向に役立ったのが他他拉さんの結婚式である。
「お腹空いたけん、休憩室入ろっ」
時刻はちょうど12時頃で、軽食を提供する休憩室はどこも満員だった。
もっと多かった気がする、と彼女はぼやきながら行列に並んだ。
そろそろ注文が取れるという時、また福井さんの知り合いが現れた。
「ユリちゃん?」
彼女の母校──つまり、川上さんやマリちゃんのそれでもある女子校の文化祭が開かれていたからだ。
「あれ、福井さん、家族連れ?」
「もう福井さんじゃないか。今は何ていうの?」
彼女が学び舎から旅立ってちょうど5年。
私立のせいか、在学中にいた教員は定年を迎えていない限りまだ教鞭を振るっているようで、抱っこ紐で抱かれた姪について質問攻めに遭っていた。
「福井で大丈夫ですよ。名前、変わっていないので」
隣の人は娘の叔父で、今日は用心棒で連れてきました──と、福井さんはぬけぬけと言い放つ。
事実なので否定のしようが無いものの、もう少し気の利いた説明はできないのか、と腹の中で密かに突っ込んでいた。
「リリー! 優良物件捕まえたじゃーん!」
特に印象に残っているのが、福井さんの1つ年上の先輩の1人。
部活動が違ったようで、一人だけ下の名前で呼ばれていた。
「いや、優良物件捕まえたと思ったら逃げられちゃって」
「えー?」
背は福井さんよりやや高く、マリちゃんよりやや低いといったところか。
丸顔の色白だったが、北方というより南方の雰囲気を漂わせた人だった。
「ま、いいや。お邪魔したら悪いし、また後でねー!」
2~3年経って、福井さんはこの女性の結婚式に招かれ、姪を連れて参列していた。
結婚後の名を
福井さんは勘当された当時、左手でボストンバッグとブランケットを乗せたスーツケースを押しながら右手でキャリーケースを引き、スリーウェイバッグを背負っていたらしい。
本人によると荷物の内訳はボストンバッグに普段の衣服、キャリーケースにノートパソコンを含む日用品、スリーウェイバッグに貴重品を入れ、一番の大荷物であるスーツケースには兄からの手紙と礼服類を詰めていた。
通常の家出ではまず持ち出さないであろうが、幸か不幸か、これらが役に立つ日が複数回あった。
よい方向に役立ったのが他他拉さんの結婚式である。
「お腹空いたけん、休憩室入ろっ」
時刻はちょうど12時頃で、軽食を提供する休憩室はどこも満員だった。
もっと多かった気がする、と彼女はぼやきながら行列に並んだ。
そろそろ注文が取れるという時、また福井さんの知り合いが現れた。
「ユリちゃん?」