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兄と福井さん

 福井さんのお腹の子どもの父親は、当然の如く僕の兄だった。

僕の甥か姪に当たるのだ。

コーヒーを頻繁に飲みたかったし、血の繋がった親戚が従兄くらいしかいない僕にとって兄の血を分けた子は親しみを持てそうだったので、休日になると高田馬場に通うようになった。

 セレスティナの店は『ゆき』という名前だった。

店名の由来を聞いたところ、「ワタシ、ジャパゆきさんだからー」という答えが返ってきた。

午後からの営業で、20時までは喫茶店だがそれ以降はスナックバーでアルコールを提供するという、カフェバー形式の店だった。

福井さんは大学4年間に向島でアルバイトの芸者をしていたからか接客が好きだったようで、『ユリちゃん』という愛称で常連客に親しまれていた。

いつしか僕も常連客の1人になって、カラオケで歌ったり、ママやホステスとの会話で日頃の鬱憤を晴らすようになった。

 福井さんは2017年11月6日に出産した。

兄によく似た、可愛らしい顔立ちの女の子だった。

セレスティナから知らされた僕は、入院している彼女たちを見舞いに行った。

「笑えるくらい、似ちょるやろ」

 彼女の産院は小規模なものだったので、産後ある程度の日数が経つと親子が同じ部屋で寝起きすることになっていた。

僕が訪れた時はようやく寝ついたところだったらしく、初めて抱いたのは退院後のことだった。

生前の兄と僕はよく似ていると言われていたが、麻由美まゆみと名づけられた姪と似ているとも言われ、常連客ははじめ、僕の子どもだと勘違いしていたらしい。

とにもかくにも福井さんは、『ゆき』の2階の6畳一間を間借りして、母一人子一人の新たな生活を始めた。

独身貴族のセレスティナはまるで実の娘、実の孫のように可愛がっていた。

僕も、休日には彼女らの店に通う日々が続いた。
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