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兄と福井さん

「公務員は、アルバイト厳禁なんじゃないか」

「私、公務員と違うもん」

 カウンター越しでよく見えなかったが、小柄で痩せていた彼女が妙にふっくらとしていた。

大学を卒業して贅肉を拵えた、というより、妊婦のようだと形容したほうが相応しいだろう。

「今はどこに住んでいるんだい? 近所で見かけないってマサさんがぼやいていたよ」

「そら、おらんけんな」

 そう言いながら、福井さんは器用にコーヒーを淹れてくれた。

マサさんというのは実家の従兄の名前である。

砂糖はいくつ、と聞かれ、ブラックで、と答えると、大人なのね、という返事があった。

彼女は辛党のきらいがあったくせに、味覚は幼かったのだ。

「今はここのママさんに頼み込んで、住み込みで働かせて貰ってる」

「どうして? 働くなら君の家で働けば…」

「パパに勘当されたけん、働けんよ」

「勘当?」

「そう。役所、辞退したら怒られたと」

「どうして辞退なんかしたんだ」

 福井さんは瓶に入ったオレンジジュースをグラスに注ぎ、飲みながら高田馬場に舞い戻るまでの経緯を語った。
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