僕とマリちゃん
父は元々自動車部品メーカーを経営していた。ところが事業が行き詰まり、僕が5歳になったばかりの冬に自ら命を絶った。
母は若く派手好きで、次の春には他家に嫁ぐことが決まり、小学生だった兄と幼稚園児だった僕を自らの姉、つまり僕らにとっての伯母に預けたのだ。
伯母は夫の実家に同居しており、そこにいた出戻りの妹の一人娘が真理恵だった。
家族にはマリーと呼ばれていて、僕ら兄弟はマリちゃんと呼んでいた。
年齢は僕より10歳年上で、当時は高校生だったはずだ。
マリちゃんの母──つまり、伯母の義妹は音大卒でピアノ講師をしていた。
その流れでマリちゃんも子どもの頃からピアノを弾いていて、音楽科のある中高一貫の女子校に進学していた。
将来は音大に行くものだろうと、誰もが信じて疑わなかった。
彼女の祖父は医院を開業する内科医で、伯父は病院勤務の外科医、兄ちゃんと呼んで慕っていた従兄は弁護士を志して法学部に通う大学生。
裕福な家庭で可愛がられた世間知らずのお嬢さんだったマリちゃんの人生の転機は、高校2年生の2月に交通事故に遭ったことだろう。
この事故で祖父と伯父夫妻、それに彼女の母が亡くなってしまったのだ。
祖父の医院と母のピアノ教室を人手に譲って、マリちゃんは進学を断念したのだ。
当時僕は小学生だったので、正確なことは判りかねるが、成績が優秀だった彼女には奨学金を借りたり、特待生になったりして音大に進学するという選択肢があったはずだ。
「兄ちゃんを弁護士さんにして、2人を大学に行かせなきゃいけないから、私はいいの」
これは最近になって従兄から聞いた言葉である。きっと音楽には未練があったはずだ。
その証拠に、
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