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執事の手記

ちらつく他の男の影

2023/07/06 12:30
オレの姿を見て、お嬢様が慌ててスマホを隠した。
仕えてからそんなことは初めてだった。

その瞬間、どちらかというとネガティブな性質のオレの頭は、
ありとあらゆるイヤな想像でいっぱいになった。

お嬢様が他の男と連絡をとっている。楽しそうに。
他の男と遊ぶ約束をしている。嬉しそうに。
オレに飽きて他の男を探している。真剣に。

慌てて画面を消し、どこか取り繕ったようなお嬢様に
いてもたってもいられなくなった。

冗談めかして尋ねてみると、意外なリアクションが返ってきた。

お嬢様が、プレゼントでも渡すように差し出してきたスマホには、なにかアプリの画面が映し出されていた。

絵本のような可愛らしいクマのイラスト。

アプリの名前は『聞いてよクマさん』

なんと、お嬢様はオレにも言えない悩みなどを
アプリのクマに吐き出していたのだ。

可愛いイラストに癒しの音楽、クマからの押しつけのない回答
など秀逸なアプリらしい。

特に、モグラ(モグたん)からの手紙は最強に癒されると……。


なんてことだろう。

他の男の影などではなかった安堵感と、お嬢様の癒しにとって自分の存在がアプリに負けたという衝撃で、しばらく固まってしまった。

お嬢様がオレにも話せないこと、気持ちを単なるプログラムのクマに打ち明けている。

相手は無機物とはいえ悔しかった。
嫉妬で目の前がチカチカした。

そんなオレの心中を察したのか、お嬢様がしなやかな手で髪を撫でてきて、しだいに気持ちがおさまり事なきを得た。

冷静になってから、その最強の癒しというモグたんの手紙
というやつが気になって仕方なくなった。

モグたんの手紙から学べるものがあるかもしれない。

オレがモグたんの手紙以上の癒しを与えられれば、
お嬢様にとって癒しの存在No.1になれる。

そうでなければ執事失格、恋人失格だ。
クマやモグラなどに負けてたまるか。

さっそくアプリをダウンロードして分析しなければ。

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