どうして静かに観れないの?
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夕食のあと、お嬢様は川島からドライブに誘われた。
いつもなら運転する川島の横顔が見たくて、自分の方から連れて行って、とせがむのにめずらしい。
どこに行くのだろう。尋ねると、着いてからのお楽しみです、と川島が嬉しそうにいった。
ふたりで車に乗り込む。
「少し遠出します。隣の街まで行くので、眠くなったら寝ていてくださいね」
川島がエンジンをかけながらいった。
隣街まで――隣といっても30分以上はかかる。
お嬢様は早くも川島の方へ身体を向けて、運転する横顔を眺めながらウトウトすることにした。
明日は何も予定が入っていないから、夜更かししても問題ない。
川島がいつもより元気に見えるのも、自分が外出しないせいかもしれない。
明日のことは気にせずにゆっくり夜を過ごせる。
次の日も一日中、ふたりで一緒にいられるから。
それが川島の楽しそうな理由なのだとしたら嬉しい、とお嬢様は思った。
*
いつの間にか眠ってしまったようだ。
お嬢様は目を開けた。車はまだ街の中を走っていた。
「もうすぐ着きますよ」
川島がアクセルをゆるめた。
車はだだっ広い敷地の中へ入っていく。
なにか大きな駐車場のように見えた。
ちらほらと車がバラけて停まっている。
川島は他の車と適度な距離をとって車を停めた。
お嬢様は前を見て目を丸くした。フロントガラスの向こうに巨大なスクリーンがあった。
「今夜はここで映画を観ましょう、お嬢様」
車の中で映画を愉しめる場所があるなんて知らなかった。一度も行ったことがないどころか見たこともない。
目を丸くしたまま川島を見やる。
「実は、お嬢様がお出かけの間にこっそり偵察しておいたんです。デートに使えるかどうか」
「そうなんだ、ありがとう。車の中で映画観るなんて初めて!」
お嬢様がはしゃいだようにいうと、川島がやさしく微笑んだ。
「ところで、なんの映画をやるのかな」
「確か、お嬢様のおすきなスパイものですよ。それに合わせてきたつもり――」
いいながら川島がプログラムらしきものに目を落としている。
「ああっ!!」
突然川島が声をあげた。
「どうしたの」
「すみません……日にちを間違えていました。今から上映するのはスパイものではなくて、ゾンビものでした」
「ゾンビかあ。まあ、いいけどね」
「すみません……」
川島が、ため息を零しながらハンドルに突っ伏してしまった。
そんなに落ち込まなくても、とお嬢様は無防備になった川島のうなじを襟足ごとなでた。
柔らかい髪が気持ちいい。
「わたし、ゾンビもわりとすきだよ。川島もそういうの平気でしょ。一緒に観て帰ろうよ」
「お嬢様……」
叱られた仔犬みたいな顔で川島が見つめてくる。
胸がキュッと締めつけられるのを感じた。
「せっかくのお嬢様との映画なのに、ゾンビじゃ色気もなにもないですね」
まだ残念そうな様子の川島。
その向こうから施設のキャラクターなのだろうか、コアラの着ぐるみが近づいてくる。ローラースケートを履いているようだ。
車の中を覗きこみながら運転席のウインドウガラスをノックしてくる。川島が開けると、ドリンクとフードの注文用紙、それにペンが手渡された。
コアラがジェスチャーでメモをとるような仕草をしている。
ワンドリンク制で先に代金を支払うシステムらしい。
お嬢様はハイボール、川島はノンアルコールのレッドアイにチェックを入れ、お金と一緒に渡した。
コアラは了解!というように親指を立てると、スケートで颯爽と走り去っていった。
その姿が可笑しくて、ふたりで同時に顔を見合わせて笑っていると映画の予告が始まった。
窓の外は、流れる景色の代わりに黒い闇に浮かび上がった数台の車が見える。
非日常的な密室の空間で川島とふたりきりの状況に、お嬢様は少し緊張した。
薄暗い車内は、真っ暗な部屋でテレビをつけているようだった。川島の顔にスクリーンから発せられる光が仄白く映っている。
フロントガラスの向こうを真っすぐに見つめる端正な横顔。
キレイだな……と思わず見とれていると、さっきのコアラが飲みものを運んできた。
川島がお礼をいって受け取る。コアラがカゴを差し出してきた。中にはポップコーンとポテトチップスが入っている。
頼んだ覚えがない、とふたりで困惑していると一枚のカードを渡してきた。
いつもなら運転する川島の横顔が見たくて、自分の方から連れて行って、とせがむのにめずらしい。
どこに行くのだろう。尋ねると、着いてからのお楽しみです、と川島が嬉しそうにいった。
ふたりで車に乗り込む。
「少し遠出します。隣の街まで行くので、眠くなったら寝ていてくださいね」
川島がエンジンをかけながらいった。
隣街まで――隣といっても30分以上はかかる。
お嬢様は早くも川島の方へ身体を向けて、運転する横顔を眺めながらウトウトすることにした。
明日は何も予定が入っていないから、夜更かししても問題ない。
川島がいつもより元気に見えるのも、自分が外出しないせいかもしれない。
明日のことは気にせずにゆっくり夜を過ごせる。
次の日も一日中、ふたりで一緒にいられるから。
それが川島の楽しそうな理由なのだとしたら嬉しい、とお嬢様は思った。
*
いつの間にか眠ってしまったようだ。
お嬢様は目を開けた。車はまだ街の中を走っていた。
「もうすぐ着きますよ」
川島がアクセルをゆるめた。
車はだだっ広い敷地の中へ入っていく。
なにか大きな駐車場のように見えた。
ちらほらと車がバラけて停まっている。
川島は他の車と適度な距離をとって車を停めた。
お嬢様は前を見て目を丸くした。フロントガラスの向こうに巨大なスクリーンがあった。
「今夜はここで映画を観ましょう、お嬢様」
車の中で映画を愉しめる場所があるなんて知らなかった。一度も行ったことがないどころか見たこともない。
目を丸くしたまま川島を見やる。
「実は、お嬢様がお出かけの間にこっそり偵察しておいたんです。デートに使えるかどうか」
「そうなんだ、ありがとう。車の中で映画観るなんて初めて!」
お嬢様がはしゃいだようにいうと、川島がやさしく微笑んだ。
「ところで、なんの映画をやるのかな」
「確か、お嬢様のおすきなスパイものですよ。それに合わせてきたつもり――」
いいながら川島がプログラムらしきものに目を落としている。
「ああっ!!」
突然川島が声をあげた。
「どうしたの」
「すみません……日にちを間違えていました。今から上映するのはスパイものではなくて、ゾンビものでした」
「ゾンビかあ。まあ、いいけどね」
「すみません……」
川島が、ため息を零しながらハンドルに突っ伏してしまった。
そんなに落ち込まなくても、とお嬢様は無防備になった川島のうなじを襟足ごとなでた。
柔らかい髪が気持ちいい。
「わたし、ゾンビもわりとすきだよ。川島もそういうの平気でしょ。一緒に観て帰ろうよ」
「お嬢様……」
叱られた仔犬みたいな顔で川島が見つめてくる。
胸がキュッと締めつけられるのを感じた。
「せっかくのお嬢様との映画なのに、ゾンビじゃ色気もなにもないですね」
まだ残念そうな様子の川島。
その向こうから施設のキャラクターなのだろうか、コアラの着ぐるみが近づいてくる。ローラースケートを履いているようだ。
車の中を覗きこみながら運転席のウインドウガラスをノックしてくる。川島が開けると、ドリンクとフードの注文用紙、それにペンが手渡された。
コアラがジェスチャーでメモをとるような仕草をしている。
ワンドリンク制で先に代金を支払うシステムらしい。
お嬢様はハイボール、川島はノンアルコールのレッドアイにチェックを入れ、お金と一緒に渡した。
コアラは了解!というように親指を立てると、スケートで颯爽と走り去っていった。
その姿が可笑しくて、ふたりで同時に顔を見合わせて笑っていると映画の予告が始まった。
窓の外は、流れる景色の代わりに黒い闇に浮かび上がった数台の車が見える。
非日常的な密室の空間で川島とふたりきりの状況に、お嬢様は少し緊張した。
薄暗い車内は、真っ暗な部屋でテレビをつけているようだった。川島の顔にスクリーンから発せられる光が仄白く映っている。
フロントガラスの向こうを真っすぐに見つめる端正な横顔。
キレイだな……と思わず見とれていると、さっきのコアラが飲みものを運んできた。
川島がお礼をいって受け取る。コアラがカゴを差し出してきた。中にはポップコーンとポテトチップスが入っている。
頼んだ覚えがない、とふたりで困惑していると一枚のカードを渡してきた。
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