オレに魔法をかけてほしかった
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「わたしは外にいるときも、いつも川島のこと考えてるし帰りたいって思ってる。確かに川島に言われたとおり、何かに集中してるときはそれしか見えなくなるけど」
「お嬢様……」
視線をあげると、少しホッとした様子のお嬢様と目が合った。
優雅な動きで首に手を回される。
「どこでだれとなにをしていても、わたしは川島だけのもの。川島も私だけのもの」
魔法をかけられたかのように、お嬢様の言葉が全身を包み込み、細胞が入れ替わるのを感じた。
顔が熱くなる。
日常生活の中で、お嬢様から甘い言葉をくれることは滅多にない。よほどオレの態度がひどかったのだろう。
子どもみたいに拗ねて下を向き、お嬢様を困らせるなんて。
なにも成長していない。
他のことでなら、いくらでも感情をコントロールできる。
その訓練はしてきたし、習得しているという自負もある。
だがお嬢様に関することは違う。
コントロールなんて出来ない。これは恋だから。
しかもただの恋愛じゃない。
オレにとってお嬢様は、命に匹敵するほどの――。
お嬢様しか見えなくなった理由が、記憶と共に浮かび上がっては消えていった。
いつか想い出のひとつとして、話すときがくるだろうと思う。
そんな理由で、とお嬢様には笑われるかもしれないが。
「川島?」
何も答えず思案にふけったままのオレを、お嬢様が引き戻した。
「……自分が女々しくて、器がせますぎて嫌になります」
お嬢様を引き寄せて耳の近くで懺悔した。
気持ちを素直に伝えるしか、結局オレにはできない気がする。
「お嬢様から聞かされる男性のことは皆、ひとり残らず殺す!って思ってしまいます」
柔らかい身体をさらに抱き寄せた。
「お嬢様がおすきな俳優のことも。すみません」
海の真ん中で浮いているものがそれしかないみたいに、しがみつき抱きしめる。
どこか必死さを感じたのか、お嬢様がオレの背中をあやすように撫でた。
「わかった。もうどう思ってもいいから。感じたままでいいんだから、無理して笑うのだけはやめてよね。川島には嘘ついてほしくないの」
どう思ってもいい。感じたままでいい――?
本当にいいのだろうか。こんな醜い思いを抱いても。
「川島以外の男の人を、異性として見たこと一度もないよ。川島を宇宙で一番、愛してる」
川島を、とお嬢様が強調して言った。
……いつもこうなのだ。
一声の魔法で、さっきまでの殺意が消し飛び跡形もなくなってしまった。
お嬢様のすることなすことで、一喜一憂する自分が呪わしく同時に愛しかった。
嘘のないオレを愛してくれているから、オレもこんな自分を愛せるのだと思う。
弱くて、みっともなくて、ダメでどうしようもない部分も。
それからお嬢様をきつく抱きしめたまま、自分の方がもっともっと負けずに愛している、と言いつのった。
言葉にすればするほど、説明じみてまとまらなくなる。
どこか論文めいたオレの話を聞きながら、腕の中でクスクス笑うお嬢様が愛おしくて仕方なかった。
どれだけ抱きしめても言葉にしても足りない。
もどかしくて、だからこそ昨日よりも全身全霊で愛そうと思う。
今度あの俳優を目にしたら、妬くことは妬いたとしても、おそらくもう大丈夫な気がする。
オレのお嬢様が、魔法の言葉をくれたから。
それならもっとヤキモチを妬いて拗ねてみせれば……頭をよぎる邪な想いを振り払い、夜風に当たりたいと言うお嬢様と、散歩に出かける支度をする。
どちらからともなく手をつないで、並木道をゆっくりのんびり歩いた。
ふたりでいられる時間を噛みしめるように。
「お嬢様……」
視線をあげると、少しホッとした様子のお嬢様と目が合った。
優雅な動きで首に手を回される。
「どこでだれとなにをしていても、わたしは川島だけのもの。川島も私だけのもの」
魔法をかけられたかのように、お嬢様の言葉が全身を包み込み、細胞が入れ替わるのを感じた。
顔が熱くなる。
日常生活の中で、お嬢様から甘い言葉をくれることは滅多にない。よほどオレの態度がひどかったのだろう。
子どもみたいに拗ねて下を向き、お嬢様を困らせるなんて。
なにも成長していない。
他のことでなら、いくらでも感情をコントロールできる。
その訓練はしてきたし、習得しているという自負もある。
だがお嬢様に関することは違う。
コントロールなんて出来ない。これは恋だから。
しかもただの恋愛じゃない。
オレにとってお嬢様は、命に匹敵するほどの――。
お嬢様しか見えなくなった理由が、記憶と共に浮かび上がっては消えていった。
いつか想い出のひとつとして、話すときがくるだろうと思う。
そんな理由で、とお嬢様には笑われるかもしれないが。
「川島?」
何も答えず思案にふけったままのオレを、お嬢様が引き戻した。
「……自分が女々しくて、器がせますぎて嫌になります」
お嬢様を引き寄せて耳の近くで懺悔した。
気持ちを素直に伝えるしか、結局オレにはできない気がする。
「お嬢様から聞かされる男性のことは皆、ひとり残らず殺す!って思ってしまいます」
柔らかい身体をさらに抱き寄せた。
「お嬢様がおすきな俳優のことも。すみません」
海の真ん中で浮いているものがそれしかないみたいに、しがみつき抱きしめる。
どこか必死さを感じたのか、お嬢様がオレの背中をあやすように撫でた。
「わかった。もうどう思ってもいいから。感じたままでいいんだから、無理して笑うのだけはやめてよね。川島には嘘ついてほしくないの」
どう思ってもいい。感じたままでいい――?
本当にいいのだろうか。こんな醜い思いを抱いても。
「川島以外の男の人を、異性として見たこと一度もないよ。川島を宇宙で一番、愛してる」
川島を、とお嬢様が強調して言った。
……いつもこうなのだ。
一声の魔法で、さっきまでの殺意が消し飛び跡形もなくなってしまった。
お嬢様のすることなすことで、一喜一憂する自分が呪わしく同時に愛しかった。
嘘のないオレを愛してくれているから、オレもこんな自分を愛せるのだと思う。
弱くて、みっともなくて、ダメでどうしようもない部分も。
それからお嬢様をきつく抱きしめたまま、自分の方がもっともっと負けずに愛している、と言いつのった。
言葉にすればするほど、説明じみてまとまらなくなる。
どこか論文めいたオレの話を聞きながら、腕の中でクスクス笑うお嬢様が愛おしくて仕方なかった。
どれだけ抱きしめても言葉にしても足りない。
もどかしくて、だからこそ昨日よりも全身全霊で愛そうと思う。
今度あの俳優を目にしたら、妬くことは妬いたとしても、おそらくもう大丈夫な気がする。
オレのお嬢様が、魔法の言葉をくれたから。
それならもっとヤキモチを妬いて拗ねてみせれば……頭をよぎる邪な想いを振り払い、夜風に当たりたいと言うお嬢様と、散歩に出かける支度をする。
どちらからともなく手をつないで、並木道をゆっくりのんびり歩いた。
ふたりでいられる時間を噛みしめるように。
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