やまない雨、ただ恋を待つ
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「ああーもぉ、なんでこんなにカッコいいの。わたしの川島は!」
イヤイヤをするように身体を左右に振るお嬢様。
抱きしめられたオレも一緒になって揺さぶられた。嬉しいセリフも、酒が言わせているのかと思うと少し複雑だった。
とにかく、いつまでもこうしているわけにはいかない。
通行人から不信な目で見られてしまう。
「お嬢様、川島は運転をしなければならないので、そろそろ離してくださいませんか?」
「イヤ!わたしの川島をとらないで。運転なんか他の人がして」
ますます強くしがみついてきたお嬢様に、苦笑しながら言った。
「早く帰れたら、お嬢様の川島は離れずにずっとお傍におります。ですから……」
「本当に?」
お嬢様がオレの目を覗きこんでくる。
なにかを期待するような目に、髪を乱して激しくキスしたい衝動が湧き起こる。
それをこらえながらポーカーフェイスを装った。
「本当です。だから少しの間だけ、ここで横になっていてください。川島からのお願いです」
お嬢様はうなずくと、あっさりオレの首から腕を解いた。
もう気がすんだ、というように目を閉じてしまう。
……なんて罪な人だと思う。
しがみつかれて困っていたはずなのに、あっさりと解放されると今度は淋しい気持ちになるなんて。
急に物足りなくなってしまう。
お嬢様にもっともっと甘い声で、わたしの川島と言わせたい。
もっと抱きしめられたい。強くしがみつかれたい。
目を閉じ人形のように動かなくなったお嬢様に、名残惜しい視線を残してオレはドアを閉めた。
のろのろと運転席に座り、車のエンジンをかけると車体が震えた。お嬢様の言動にいちいち身もだえする自分のようだと思った。
お嬢様は酔いつぶれて、今夜はもうこのまま目を覚まさないのだろうか。
それともさっきのようにまた、わたしの川島と抱きついて髪を撫でてくれるだろうか。
オレをすきだと言いながら。
酔いが完全に冷めてしまったら、お嬢様はきっとあんな甘いことはしてくれない。
あとで問い質しても、お酒のせいだとか覚えてないとか言って、はぐらかすに決まっている。
あのままもう少しすきにさせておけばよかった、と後悔しながら車を走らせた。
信号が赤になる。
後部座席を振り返ると、すやすや眠るお嬢様がいた。
もう一度だけさっきの続きがしたい。してほしい。
そう願いを込めてお嬢様を見つめた。
邸に着きガレージに車を入れる。
いつか、もう少しだけ先の未来の話。
お嬢様の元へ縁談の話が来るかもしれない。
いや、必ず来るだろう。
そのときオレはどうするのか。
どうなってしまうのか。
後部座席のドアを開け声をかけてみたが、お嬢様は起きる気配がない。横抱きにして身体を持ち上げる。
お姫様抱っこのような形になった。
荷物はそのままだが、また取りに来ればいい。
「ううーん……」
お嬢様が無意識なのか首に腕を回してきた。
――離したくない。
せめて今は、今だけはオレだけのお嬢様でいてほしい。
祈るような気持ちで、触れるか触れないかのキスをした。
ベッドにお嬢様の身体を横たえると、なぜかドッと疲れが押し寄せてきた。
頭だけが異様に冴えわたっている。
もともと眠りが浅いのに、こんな夜はだからいつも眠れない。
お嬢様がいつ目を覚まし呼ばれてもいいように、コーヒーを淹れてリビングにある室内インターフォンの前で待機した。
いつの間に降り出したのか、雨の音に誘われて窓を開けてみる。
ひんやり湿った風が頬を撫でた。
お嬢様と愛し合える時間が、あとどれくらいあるだろう。
永遠に彼女の傍にいることは、やはり叶わぬ願いなのか。
何度もよぎっては通り過ぎる疑問と不安。
静かに降る細かい雨の中を、走り抜ける車の音が遠くの方で鳴っては消えていく。
オレの心の中のようだと思った。
ほろ苦く黒い液体に口をつけながら、お嬢様が目覚めるのを雨音とただ静かに待っていた――。
イヤイヤをするように身体を左右に振るお嬢様。
抱きしめられたオレも一緒になって揺さぶられた。嬉しいセリフも、酒が言わせているのかと思うと少し複雑だった。
とにかく、いつまでもこうしているわけにはいかない。
通行人から不信な目で見られてしまう。
「お嬢様、川島は運転をしなければならないので、そろそろ離してくださいませんか?」
「イヤ!わたしの川島をとらないで。運転なんか他の人がして」
ますます強くしがみついてきたお嬢様に、苦笑しながら言った。
「早く帰れたら、お嬢様の川島は離れずにずっとお傍におります。ですから……」
「本当に?」
お嬢様がオレの目を覗きこんでくる。
なにかを期待するような目に、髪を乱して激しくキスしたい衝動が湧き起こる。
それをこらえながらポーカーフェイスを装った。
「本当です。だから少しの間だけ、ここで横になっていてください。川島からのお願いです」
お嬢様はうなずくと、あっさりオレの首から腕を解いた。
もう気がすんだ、というように目を閉じてしまう。
……なんて罪な人だと思う。
しがみつかれて困っていたはずなのに、あっさりと解放されると今度は淋しい気持ちになるなんて。
急に物足りなくなってしまう。
お嬢様にもっともっと甘い声で、わたしの川島と言わせたい。
もっと抱きしめられたい。強くしがみつかれたい。
目を閉じ人形のように動かなくなったお嬢様に、名残惜しい視線を残してオレはドアを閉めた。
のろのろと運転席に座り、車のエンジンをかけると車体が震えた。お嬢様の言動にいちいち身もだえする自分のようだと思った。
お嬢様は酔いつぶれて、今夜はもうこのまま目を覚まさないのだろうか。
それともさっきのようにまた、わたしの川島と抱きついて髪を撫でてくれるだろうか。
オレをすきだと言いながら。
酔いが完全に冷めてしまったら、お嬢様はきっとあんな甘いことはしてくれない。
あとで問い質しても、お酒のせいだとか覚えてないとか言って、はぐらかすに決まっている。
あのままもう少しすきにさせておけばよかった、と後悔しながら車を走らせた。
信号が赤になる。
後部座席を振り返ると、すやすや眠るお嬢様がいた。
もう一度だけさっきの続きがしたい。してほしい。
そう願いを込めてお嬢様を見つめた。
邸に着きガレージに車を入れる。
いつか、もう少しだけ先の未来の話。
お嬢様の元へ縁談の話が来るかもしれない。
いや、必ず来るだろう。
そのときオレはどうするのか。
どうなってしまうのか。
後部座席のドアを開け声をかけてみたが、お嬢様は起きる気配がない。横抱きにして身体を持ち上げる。
お姫様抱っこのような形になった。
荷物はそのままだが、また取りに来ればいい。
「ううーん……」
お嬢様が無意識なのか首に腕を回してきた。
――離したくない。
せめて今は、今だけはオレだけのお嬢様でいてほしい。
祈るような気持ちで、触れるか触れないかのキスをした。
ベッドにお嬢様の身体を横たえると、なぜかドッと疲れが押し寄せてきた。
頭だけが異様に冴えわたっている。
もともと眠りが浅いのに、こんな夜はだからいつも眠れない。
お嬢様がいつ目を覚まし呼ばれてもいいように、コーヒーを淹れてリビングにある室内インターフォンの前で待機した。
いつの間に降り出したのか、雨の音に誘われて窓を開けてみる。
ひんやり湿った風が頬を撫でた。
お嬢様と愛し合える時間が、あとどれくらいあるだろう。
永遠に彼女の傍にいることは、やはり叶わぬ願いなのか。
何度もよぎっては通り過ぎる疑問と不安。
静かに降る細かい雨の中を、走り抜ける車の音が遠くの方で鳴っては消えていく。
オレの心の中のようだと思った。
ほろ苦く黒い液体に口をつけながら、お嬢様が目覚めるのを雨音とただ静かに待っていた――。
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