やまない雨、ただ恋を待つ
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なにかがフラフラと近づいてきた。
お嬢様だった。
今夜はご友人とのお食事で、アルコールも嗜まれるとのことだったので、近くまで迎えを頼まれていた。
乗ってきた車を路肩に停め、外に出て待っていると足元の覚束ないお嬢様が現れた。
まさか具合でも悪いのかと思い、オレはあわてて駆け寄った。
「あー川島だあ。あははっ」
オレを指さして無邪気に笑っている。
お嬢様は酔っていた。しかもかなりの酔い方だ。
なんてことだろう。
お嬢様ともあろう方が、こんなはしたない姿で……。
旦那様や奥様に顔向けできなくなってしまう。
一年ほど前のこと。
おふたりは海外移住の折に、お嬢様の生活のすべてをオレに託されたのだった。
歳の近い男に大切なひとり娘を預ける理由は、オレ個人のある事情が関係していた。
お嬢様を慕っていることも、おふたりにはもう知られている。
そのときの記憶がありありとよみがえったが、振り返るのは後にして今はお嬢様の介抱が先だ。
それにしても、普段オレと飲んでいてもあまり乱れないお嬢様が、こんなになるまで酔っている。
なにかあったのか。
気になったが、この状態では今はなにを訊いても無駄だろう。
「お帰りなさいませ、お嬢様。……まったくもう、こんなになるまで飲むなんて」
顔を覗きこもうとして少し屈むと、お嬢様がしなだれかかってきた。モルトウイスキーだろうか、薬草のような豊かで独特な香りが鼻をつく。
「川島~、わたしお酒くさいでしょ?ごめんね、ふふっ。お小言は帰ってからちゃんとねー、聞くから」
オレの腰に手を回しながらお嬢様が言った。
機嫌がよさそうなところをみると、悪い酒ではなかったようだ。
それにしても……。
「さ、帰りましょう。車で少しお休みになってください」
オレはお嬢様を抱え、気をつけながら後部座席へ寝かせた。
大きめの車体なので人ひとりならラクに横になれる。
「んー。わたしね、実はねー、川島に叱られるの嫌いじゃないの。ふふふっ」
自分で言ったことに自分で笑っている。
やれやれ。典型的な酔っ払いのパターンだ。
笑いながらも、おとなしく横になったお嬢様に声をかけた。
「そのままお眠りになって大丈夫ですからね。お邸 に着いたら、わたしが部屋までお運びします」
ほんのり赤く染まった頬をひとつ撫でてから、ドアを閉めるため身体を離した。
瞬間、ネクタイをグイと引っぱられた。
あわてて手をついて身体を支える。
「イヤ。川島、行っちゃヤダ。ここで一緒に寝て」
駄々をこねる小さな女の子みたいに、お嬢様が首を振った。
ああ!憎らしいほどに……可愛い。
オレだって、オレだって一緒に寝たい。
だが今は早くお嬢様を休ませなければ。
「お嬢様、わたしが運転をしないとお邸に帰れませんよ?いい子ですから離してください」
「じゃあ、ちょっとだけ。抱っこしてくれるだけでいいから」
抱っこって……。
心臓が真綿でキュウと絞られるのを感じつつ、ゆっくりとお嬢様に覆いかぶさった。
ウイスキーの香りが鼻腔をくすぐる。首を強く抱かれると、そのまま襟足をかき回すように撫でられた。
お嬢様はこうして髪で遊ぶのがすきなようだった。
川島の髪はキレイ、といつも褒めてくれる。
しなやかな手に撫でられるたび、犬になったような気分にオレはなる。以前そう言ったら、こんな大きな犬は困ると笑われた。
「川島……わたしの川島。すきー。ふふっ、大すき」
髪を揉むように撫でながらお嬢様が歌うように言った。
耳元に熱い息がかかる。
普段の日常生活での場面なら、めったに聞けないだろう言葉に胸が高鳴った。
こういうときのお嬢様は、いつも素直にすきと口に出してくれるのだった。
寝言で言われることもあるし、愛し合っているときに小声で言ってくれることもある。
たまらなく可愛いその姿と声を思い出し、ニヤケそうになっていると今度は後ろ髪を引っぱられた。
反射的に顔を上げるとお嬢様と目があった。
トロンと半分すわった目で見つめてくる。
キスしたくなる前に早く帰ろうと、身体を起こそうとした。
それをまたお嬢様に阻止される。
首を力いっぱい抱きしめられた。
お嬢様だった。
今夜はご友人とのお食事で、アルコールも嗜まれるとのことだったので、近くまで迎えを頼まれていた。
乗ってきた車を路肩に停め、外に出て待っていると足元の覚束ないお嬢様が現れた。
まさか具合でも悪いのかと思い、オレはあわてて駆け寄った。
「あー川島だあ。あははっ」
オレを指さして無邪気に笑っている。
お嬢様は酔っていた。しかもかなりの酔い方だ。
なんてことだろう。
お嬢様ともあろう方が、こんなはしたない姿で……。
旦那様や奥様に顔向けできなくなってしまう。
一年ほど前のこと。
おふたりは海外移住の折に、お嬢様の生活のすべてをオレに託されたのだった。
歳の近い男に大切なひとり娘を預ける理由は、オレ個人のある事情が関係していた。
お嬢様を慕っていることも、おふたりにはもう知られている。
そのときの記憶がありありとよみがえったが、振り返るのは後にして今はお嬢様の介抱が先だ。
それにしても、普段オレと飲んでいてもあまり乱れないお嬢様が、こんなになるまで酔っている。
なにかあったのか。
気になったが、この状態では今はなにを訊いても無駄だろう。
「お帰りなさいませ、お嬢様。……まったくもう、こんなになるまで飲むなんて」
顔を覗きこもうとして少し屈むと、お嬢様がしなだれかかってきた。モルトウイスキーだろうか、薬草のような豊かで独特な香りが鼻をつく。
「川島~、わたしお酒くさいでしょ?ごめんね、ふふっ。お小言は帰ってからちゃんとねー、聞くから」
オレの腰に手を回しながらお嬢様が言った。
機嫌がよさそうなところをみると、悪い酒ではなかったようだ。
それにしても……。
「さ、帰りましょう。車で少しお休みになってください」
オレはお嬢様を抱え、気をつけながら後部座席へ寝かせた。
大きめの車体なので人ひとりならラクに横になれる。
「んー。わたしね、実はねー、川島に叱られるの嫌いじゃないの。ふふふっ」
自分で言ったことに自分で笑っている。
やれやれ。典型的な酔っ払いのパターンだ。
笑いながらも、おとなしく横になったお嬢様に声をかけた。
「そのままお眠りになって大丈夫ですからね。お
ほんのり赤く染まった頬をひとつ撫でてから、ドアを閉めるため身体を離した。
瞬間、ネクタイをグイと引っぱられた。
あわてて手をついて身体を支える。
「イヤ。川島、行っちゃヤダ。ここで一緒に寝て」
駄々をこねる小さな女の子みたいに、お嬢様が首を振った。
ああ!憎らしいほどに……可愛い。
オレだって、オレだって一緒に寝たい。
だが今は早くお嬢様を休ませなければ。
「お嬢様、わたしが運転をしないとお邸に帰れませんよ?いい子ですから離してください」
「じゃあ、ちょっとだけ。抱っこしてくれるだけでいいから」
抱っこって……。
心臓が真綿でキュウと絞られるのを感じつつ、ゆっくりとお嬢様に覆いかぶさった。
ウイスキーの香りが鼻腔をくすぐる。首を強く抱かれると、そのまま襟足をかき回すように撫でられた。
お嬢様はこうして髪で遊ぶのがすきなようだった。
川島の髪はキレイ、といつも褒めてくれる。
しなやかな手に撫でられるたび、犬になったような気分にオレはなる。以前そう言ったら、こんな大きな犬は困ると笑われた。
「川島……わたしの川島。すきー。ふふっ、大すき」
髪を揉むように撫でながらお嬢様が歌うように言った。
耳元に熱い息がかかる。
普段の日常生活での場面なら、めったに聞けないだろう言葉に胸が高鳴った。
こういうときのお嬢様は、いつも素直にすきと口に出してくれるのだった。
寝言で言われることもあるし、愛し合っているときに小声で言ってくれることもある。
たまらなく可愛いその姿と声を思い出し、ニヤケそうになっていると今度は後ろ髪を引っぱられた。
反射的に顔を上げるとお嬢様と目があった。
トロンと半分すわった目で見つめてくる。
キスしたくなる前に早く帰ろうと、身体を起こそうとした。
それをまたお嬢様に阻止される。
首を力いっぱい抱きしめられた。
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