彼女に手錠をかけた夜
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「お嬢様、オレはこのお邸にいてもよろしいのでしょうか。デートも予定通り明日、一緒にしてくださいますか?」
「当たり前でしょ。バカな川島」
「お嬢様……!」
よかった。本当によかった。オレは正真正銘のバカだ。
川島は自分のことを愛おしそうにバカといって、やさしく微笑む目の前の女性を力いっぱい抱きしめた。
「ねえ、ここ寒いよ。リビングに戻ろ」
お嬢様に促されたが、このまま抱きしめていたかった。しぶしぶ柔らかい身体から、両腕をゆっくりと離す。
お嬢様に手を引っぱられながらリビングへ向かった。
「それにしても、川島の思い込みの激しさってたまに病的だよね。普段は全然そんなことないのに」
ふたたび暖炉の前に座るとお嬢様がいった。
「そうかもしれません……お嬢様のことになると、つい思考が先走ってしまうようです。今後はもっと気をつけようと思います」
「うん、そうして。これから何度もこんなことがあるんじゃ、わたしも心配だから」
お嬢様が自分の身を案じている。
川島はまた抱きしめたくなり、腕を伸ばそうとしたところで身体が遠ざかった。
「これなあに?」
お嬢様が部屋のすみに放り投げられ、転がったままの小さな箱を手に戻ってくる。
川島は慌てた。
「あっ、それは」
「なにかのプレゼントみたい。なんでこんなにグチャグチャなの?」
「お嬢様への贈り物です。さきほどお話しした通り、わたしはお嬢様に捨てられたものだと早合点しました。それで……もう必要なくなったので捨ててしまおうかと」
「捨てることないでしょ。もう、本当に思い込み激しすぎるよ。ね、これ開けてみてもいいかな」
「もちろんです。すみません、不格好になってしまって」
川島はうつむきがちに答えた。
「そんなこと。大事なのは中身だもん。川島がわたしを想って選んでくれたものが無事ならそれでいいよ」
「お嬢様……」
眩しいものを見つめるような川島のまなざしに気づかず、お嬢様は包装を解いた。
正方形の箱を開け、細く光るチェーンを取り出す。
目の前にかざすと小さく呟いた。
「キレイ……」
川島の目に、暖炉の火に照らされたお嬢様の横顔と、光を反射してスパンコールのようにきらめくブレスレットが映った。
モチーフに埋めこまれたダイヤが、ひときわ眩しい光を放っている。日の目を見られて喜んでいるように見えた。
渡せてよかった……。
川島は胸の中でひとつ息をついた。
本当はデートの流れの中で、さり気なく渡すつもりだった。
こんな格好悪い見つかり方をするはずじゃなかった。
でも、そんなことはどうでもいい。
今、目の前でこうしてお嬢様が喜んでくれている。
それだけでよかった。
お嬢様が手の甲にブレスレットをのせて眺めている。
「白いお肌に映えるかと思い……お嬢様はシンプルなデザインがおすきですよね?」
「うん、すごく素敵!石の大きさにも品があるし。シンプルだけど地味すぎなくて、わたし好みだよ。やっぱり川島わかってくれてる!」
華やかな笑顔が弾けた。
ああ、この顔が見たかった。オレのキレイで可愛いお嬢様。
この笑顔を守るためなら命を投げ出してもかまわない。火の海にだって飛び込めるだろう。
川島は、はしゃぐお嬢様を眩しい目で見つめつづけた。
目の前に細い手首がかざされる。
「つけてくれる?」
「喜んで」
いいながらブレスレットを受け取る。
これをお嬢様につけてもらう意味を、もう一度思い出してみた。
自分の存在をいつも感じてもらうため。
自分の存在でお嬢様を縛りつけたい、という歪んだ欲望。
震える指先に力を込め、ゆっくりと折れそうな手首に留め具をつないだ。
これは、オレがお嬢様にかける手錠――。
川島は、手首の周りできらめく光を見つめながら心の中で呟いた。
「どうしたの」
「……なんでもありません。やはりとてもお似合いです、お嬢様」
「ありがとう。肌身離さず身につけるから。大切にする」
「本当ですか?喜んでいただけてなによりです」
そっとお嬢様の腕をとる。
ひときわ光を放つモチーフの部分に、目を閉じてキスをした。
魂をこめるよう想いを入れる。
閉じられた川島の目の下に、真っ直ぐなまつ毛の影が伸びていた。暖炉の火が揺れると影も一緒に揺らいだ。
お嬢様がその影を穏やかな表情でじっと見つめている。
川島はゆっくり目を開けると、腕をとったままお嬢様を真っ直ぐに見据えた。
「約束ですよ、お嬢様。ずっと着けておいてくださいね。もし、着け忘れているのを見つけたときは……」
わざと語尾を濁し、暗に恐怖を与える。
「ふふっ。なに?顔が怖いんだけど」
笑い飛ばそうとするお嬢様に、なおも真剣なまなざしを送りつづける。
お嬢様も真顔になると、約束するとひと言だけ口にした。
「……キスしても?」
確かめるように尋ねてみる。
お嬢様が無言でうなずき目を伏せた。
川島はブレスレットをつけたお嬢様の腕をつかんだまま、角度をつけて静かに唇を寄せた。
「当たり前でしょ。バカな川島」
「お嬢様……!」
よかった。本当によかった。オレは正真正銘のバカだ。
川島は自分のことを愛おしそうにバカといって、やさしく微笑む目の前の女性を力いっぱい抱きしめた。
「ねえ、ここ寒いよ。リビングに戻ろ」
お嬢様に促されたが、このまま抱きしめていたかった。しぶしぶ柔らかい身体から、両腕をゆっくりと離す。
お嬢様に手を引っぱられながらリビングへ向かった。
「それにしても、川島の思い込みの激しさってたまに病的だよね。普段は全然そんなことないのに」
ふたたび暖炉の前に座るとお嬢様がいった。
「そうかもしれません……お嬢様のことになると、つい思考が先走ってしまうようです。今後はもっと気をつけようと思います」
「うん、そうして。これから何度もこんなことがあるんじゃ、わたしも心配だから」
お嬢様が自分の身を案じている。
川島はまた抱きしめたくなり、腕を伸ばそうとしたところで身体が遠ざかった。
「これなあに?」
お嬢様が部屋のすみに放り投げられ、転がったままの小さな箱を手に戻ってくる。
川島は慌てた。
「あっ、それは」
「なにかのプレゼントみたい。なんでこんなにグチャグチャなの?」
「お嬢様への贈り物です。さきほどお話しした通り、わたしはお嬢様に捨てられたものだと早合点しました。それで……もう必要なくなったので捨ててしまおうかと」
「捨てることないでしょ。もう、本当に思い込み激しすぎるよ。ね、これ開けてみてもいいかな」
「もちろんです。すみません、不格好になってしまって」
川島はうつむきがちに答えた。
「そんなこと。大事なのは中身だもん。川島がわたしを想って選んでくれたものが無事ならそれでいいよ」
「お嬢様……」
眩しいものを見つめるような川島のまなざしに気づかず、お嬢様は包装を解いた。
正方形の箱を開け、細く光るチェーンを取り出す。
目の前にかざすと小さく呟いた。
「キレイ……」
川島の目に、暖炉の火に照らされたお嬢様の横顔と、光を反射してスパンコールのようにきらめくブレスレットが映った。
モチーフに埋めこまれたダイヤが、ひときわ眩しい光を放っている。日の目を見られて喜んでいるように見えた。
渡せてよかった……。
川島は胸の中でひとつ息をついた。
本当はデートの流れの中で、さり気なく渡すつもりだった。
こんな格好悪い見つかり方をするはずじゃなかった。
でも、そんなことはどうでもいい。
今、目の前でこうしてお嬢様が喜んでくれている。
それだけでよかった。
お嬢様が手の甲にブレスレットをのせて眺めている。
「白いお肌に映えるかと思い……お嬢様はシンプルなデザインがおすきですよね?」
「うん、すごく素敵!石の大きさにも品があるし。シンプルだけど地味すぎなくて、わたし好みだよ。やっぱり川島わかってくれてる!」
華やかな笑顔が弾けた。
ああ、この顔が見たかった。オレのキレイで可愛いお嬢様。
この笑顔を守るためなら命を投げ出してもかまわない。火の海にだって飛び込めるだろう。
川島は、はしゃぐお嬢様を眩しい目で見つめつづけた。
目の前に細い手首がかざされる。
「つけてくれる?」
「喜んで」
いいながらブレスレットを受け取る。
これをお嬢様につけてもらう意味を、もう一度思い出してみた。
自分の存在をいつも感じてもらうため。
自分の存在でお嬢様を縛りつけたい、という歪んだ欲望。
震える指先に力を込め、ゆっくりと折れそうな手首に留め具をつないだ。
これは、オレがお嬢様にかける手錠――。
川島は、手首の周りできらめく光を見つめながら心の中で呟いた。
「どうしたの」
「……なんでもありません。やはりとてもお似合いです、お嬢様」
「ありがとう。肌身離さず身につけるから。大切にする」
「本当ですか?喜んでいただけてなによりです」
そっとお嬢様の腕をとる。
ひときわ光を放つモチーフの部分に、目を閉じてキスをした。
魂をこめるよう想いを入れる。
閉じられた川島の目の下に、真っ直ぐなまつ毛の影が伸びていた。暖炉の火が揺れると影も一緒に揺らいだ。
お嬢様がその影を穏やかな表情でじっと見つめている。
川島はゆっくり目を開けると、腕をとったままお嬢様を真っ直ぐに見据えた。
「約束ですよ、お嬢様。ずっと着けておいてくださいね。もし、着け忘れているのを見つけたときは……」
わざと語尾を濁し、暗に恐怖を与える。
「ふふっ。なに?顔が怖いんだけど」
笑い飛ばそうとするお嬢様に、なおも真剣なまなざしを送りつづける。
お嬢様も真顔になると、約束するとひと言だけ口にした。
「……キスしても?」
確かめるように尋ねてみる。
お嬢様が無言でうなずき目を伏せた。
川島はブレスレットをつけたお嬢様の腕をつかんだまま、角度をつけて静かに唇を寄せた。