彼女に手錠をかけた夜
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おどろいて振り向くと、バスローブ姿のお嬢様がいた。
「背中ながしてあげようと思って」
川島は慌てて身を隠そうとした。
「今さら恥ずかしがらなくてもいいじゃない」
お嬢様は笑いながらシャワーを奪いとると、川島の身体をまた確かめるように触った。
その手に性的なものは感じられない。
少し温まったかな、とうなずくと川島をバスチェアーに座らせた。お嬢様が自分を洗おうとしている様子に川島はうろたえた。
「そんな……お嬢様、自分で洗えますから」
「うるさいなー。黙ってじっとしてて。今日はお人形さんでいいの」
少し曇った鏡に、髪を洗いはじめたお嬢様が映っている。
花を活けているときのような真剣な表情だった。
川島はいわれたとおり人形になった。
されるがままになり、お嬢様に洗われる。
それに反して身体の内側だけは、形容しがたい激情に突き動かされていた。
お嬢様がすきだ、と思う。
どうしようもなくすきだ、と思う。
魂のような……この女性 だけでいい。
たったひとり、この女性だけが欲しかった。
川島は、かいがいしく自分を洗うお嬢様を熱い目で見つめた。
お嬢様がそれに気づいた。
「そんな目で見なくても、ちゃんと洗ってあげる。前もでしょ?」
「えっ!?いや、違います、お嬢様!そこは自分で――」
「だから今さらでしょ。ていうか喋らないでよ、川島はお人形なんだから」
洗いにくいから立つように、といわれ従った。
しゃがんだお嬢様にそのまま隅々まで丁寧に洗われ、恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになった。
最後にシャワーで全身を流されたあと、身体を湯船に沈められた。
「芯まで温まるまで、出てきちゃダメだよ!」
「あの、お嬢様も一緒に」
入りませんか、といいかけたところで言葉を濁した。自分はこのあとお嬢様から別れを告げられるかもしれない。
そんな立場で誘えるはずもなかった。
小声すぎて聞こえなかったのか、お嬢様はバスローブの裾をひるがえし出ていってしまった。
「ありがとうございます、お嬢様」
頭から足の先までツルツルに洗われた身体をさすっては、お嬢様のことを想い身体を温めた。
嬉しさと、このあと宣告されるであろう言葉に恐怖を感じながら……。
*
川島がバスルームを出てリビングへ行くと、お嬢様が暖炉の前に座っていた。
また目頭に熱いものを感じる。今夜はもう涙腺が緩みきっているようだった。
お嬢様が自分のために暖炉に火を入れてくれている。今身につけている下着とパジャマも、お嬢様が用意してくれたものだ。
「川島、はやくこっち来て。あったかいよ?」
スラリとした白い腕が差し伸べられる。川島は胸に込みあげる愛しさを抑えた。離れがたい想いに拍車がかからないように。
ふいに、肩の上からふわりとガウンを掛けられる。
「うん、男前」
お嬢様が川島の髪を撫でながら満足気に笑った。川島はその手をとって指にキスしたい衝動と戦った。
手が離れ目の前にマグカップが飛び込んでくる。
これ飲んで、と差し出されたのはホットココアだった。
「甘いの苦手な川島仕様だから安心して。お砂糖入れてないから」
至れり尽くせりな状況に困惑してしまう。
お嬢様はなぜこんなにも自分にやさしいのだろう。
約束は果たされなかったというのに。
やさしくされるほど、別れの言葉を聞くのがつらくなる。
いっそゴミ屑のように邪険に扱って欲しかった。
「ありがとうございます。お嬢様……最後にやさしくしてくださって、わたしはとても嬉しかったです。これをいただいたら、すぐに荷造りをしますので」
川島は温かいココアを両手で大事そうに包み、一口飲んでから一気にいった。
「そう、それそれ。ねえ、なにか勘違いしてない?どうして急に出ていく話になってるの?」
――勘違い?
川島はお嬢様を凝視した。
お嬢様も川島を穴があくほど見つめている。
話が噛みあっていない状況に、ふたりで固まってしまう。
部屋にパチパチと薪の燃える音がする。
川島が先に口を開いた。
「あの……このあいだ、お嬢様がわたしをデートに誘ってくださいました。今夜が約束の日だったはずですが、お嬢様はお見えにならず……オレは捨てられたものだと」
「はあ!?」
お嬢様が素っ頓狂な声をあげた。
川島が自分をオレといってしまったことにも構わず、お嬢様はつづけた。
「それでわたしが来ないからって、あんなに冷たくなるまで待ってたの?バカじゃないの!?」
どうして連絡をよこさないのか、と憤慨するお嬢様に川島は叱られた犬のような気分になった。
それでも、お嬢様のバカという言葉の中に自分への愛情を見つけて、胸が温かくなってしまう。
「それに約束の日は今日じゃなくて明日でしょ」
「ええ!?」
今度は川島が素っ頓狂な声をあげる番だった。
「嘘です、そんなはずは……」
お嬢様にデートに誘われた。嬉しくて何度も約束の日時を確認した。それでも間違っていたのだろうか?
川島は一言断ると急いで書斎へ向かった。
手帳を開いて今日の欄を確かめる。
口元を手で覆い手帳を閉じた。
「ね?明日だったでしょ」
「お嬢様……」
リビングで待っているはずのお嬢様が、腕を組みながら部屋へ入ってきた。
手帳にはお嬢様の指摘どおり、約束の日時が明日の欄に書き込まれていた。単に気持ちが逸りすぎていただけだったのだ。
プレゼントだって一日も早く渡したかったし、だから今日だとばかり思い込んでしまっていた。
なんてバカなのだろう。
どうしてお嬢様に関する大切なところで、自分はいつも抜けているのだろう。
川島はデスクに両手をつき、うなだれた。ため息を零しているとお嬢様が下から覗きこんできた。
「そんな落ち込まないで。私が川島を捨てたんじゃないって、わかったんだからいいじゃない」
ハッと顔をあげる。
そうだ。今夜のことは自分が抜けていたせいで、お嬢様に約束をすっぽかされたわけじゃない。
オレは捨てられていない。だから出ていく必要もない……?
「背中ながしてあげようと思って」
川島は慌てて身を隠そうとした。
「今さら恥ずかしがらなくてもいいじゃない」
お嬢様は笑いながらシャワーを奪いとると、川島の身体をまた確かめるように触った。
その手に性的なものは感じられない。
少し温まったかな、とうなずくと川島をバスチェアーに座らせた。お嬢様が自分を洗おうとしている様子に川島はうろたえた。
「そんな……お嬢様、自分で洗えますから」
「うるさいなー。黙ってじっとしてて。今日はお人形さんでいいの」
少し曇った鏡に、髪を洗いはじめたお嬢様が映っている。
花を活けているときのような真剣な表情だった。
川島はいわれたとおり人形になった。
されるがままになり、お嬢様に洗われる。
それに反して身体の内側だけは、形容しがたい激情に突き動かされていた。
お嬢様がすきだ、と思う。
どうしようもなくすきだ、と思う。
魂のような……この
たったひとり、この女性だけが欲しかった。
川島は、かいがいしく自分を洗うお嬢様を熱い目で見つめた。
お嬢様がそれに気づいた。
「そんな目で見なくても、ちゃんと洗ってあげる。前もでしょ?」
「えっ!?いや、違います、お嬢様!そこは自分で――」
「だから今さらでしょ。ていうか喋らないでよ、川島はお人形なんだから」
洗いにくいから立つように、といわれ従った。
しゃがんだお嬢様にそのまま隅々まで丁寧に洗われ、恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになった。
最後にシャワーで全身を流されたあと、身体を湯船に沈められた。
「芯まで温まるまで、出てきちゃダメだよ!」
「あの、お嬢様も一緒に」
入りませんか、といいかけたところで言葉を濁した。自分はこのあとお嬢様から別れを告げられるかもしれない。
そんな立場で誘えるはずもなかった。
小声すぎて聞こえなかったのか、お嬢様はバスローブの裾をひるがえし出ていってしまった。
「ありがとうございます、お嬢様」
頭から足の先までツルツルに洗われた身体をさすっては、お嬢様のことを想い身体を温めた。
嬉しさと、このあと宣告されるであろう言葉に恐怖を感じながら……。
*
川島がバスルームを出てリビングへ行くと、お嬢様が暖炉の前に座っていた。
また目頭に熱いものを感じる。今夜はもう涙腺が緩みきっているようだった。
お嬢様が自分のために暖炉に火を入れてくれている。今身につけている下着とパジャマも、お嬢様が用意してくれたものだ。
「川島、はやくこっち来て。あったかいよ?」
スラリとした白い腕が差し伸べられる。川島は胸に込みあげる愛しさを抑えた。離れがたい想いに拍車がかからないように。
ふいに、肩の上からふわりとガウンを掛けられる。
「うん、男前」
お嬢様が川島の髪を撫でながら満足気に笑った。川島はその手をとって指にキスしたい衝動と戦った。
手が離れ目の前にマグカップが飛び込んでくる。
これ飲んで、と差し出されたのはホットココアだった。
「甘いの苦手な川島仕様だから安心して。お砂糖入れてないから」
至れり尽くせりな状況に困惑してしまう。
お嬢様はなぜこんなにも自分にやさしいのだろう。
約束は果たされなかったというのに。
やさしくされるほど、別れの言葉を聞くのがつらくなる。
いっそゴミ屑のように邪険に扱って欲しかった。
「ありがとうございます。お嬢様……最後にやさしくしてくださって、わたしはとても嬉しかったです。これをいただいたら、すぐに荷造りをしますので」
川島は温かいココアを両手で大事そうに包み、一口飲んでから一気にいった。
「そう、それそれ。ねえ、なにか勘違いしてない?どうして急に出ていく話になってるの?」
――勘違い?
川島はお嬢様を凝視した。
お嬢様も川島を穴があくほど見つめている。
話が噛みあっていない状況に、ふたりで固まってしまう。
部屋にパチパチと薪の燃える音がする。
川島が先に口を開いた。
「あの……このあいだ、お嬢様がわたしをデートに誘ってくださいました。今夜が約束の日だったはずですが、お嬢様はお見えにならず……オレは捨てられたものだと」
「はあ!?」
お嬢様が素っ頓狂な声をあげた。
川島が自分をオレといってしまったことにも構わず、お嬢様はつづけた。
「それでわたしが来ないからって、あんなに冷たくなるまで待ってたの?バカじゃないの!?」
どうして連絡をよこさないのか、と憤慨するお嬢様に川島は叱られた犬のような気分になった。
それでも、お嬢様のバカという言葉の中に自分への愛情を見つけて、胸が温かくなってしまう。
「それに約束の日は今日じゃなくて明日でしょ」
「ええ!?」
今度は川島が素っ頓狂な声をあげる番だった。
「嘘です、そんなはずは……」
お嬢様にデートに誘われた。嬉しくて何度も約束の日時を確認した。それでも間違っていたのだろうか?
川島は一言断ると急いで書斎へ向かった。
手帳を開いて今日の欄を確かめる。
口元を手で覆い手帳を閉じた。
「ね?明日だったでしょ」
「お嬢様……」
リビングで待っているはずのお嬢様が、腕を組みながら部屋へ入ってきた。
手帳にはお嬢様の指摘どおり、約束の日時が明日の欄に書き込まれていた。単に気持ちが逸りすぎていただけだったのだ。
プレゼントだって一日も早く渡したかったし、だから今日だとばかり思い込んでしまっていた。
なんてバカなのだろう。
どうしてお嬢様に関する大切なところで、自分はいつも抜けているのだろう。
川島はデスクに両手をつき、うなだれた。ため息を零しているとお嬢様が下から覗きこんできた。
「そんな落ち込まないで。私が川島を捨てたんじゃないって、わかったんだからいいじゃない」
ハッと顔をあげる。
そうだ。今夜のことは自分が抜けていたせいで、お嬢様に約束をすっぽかされたわけじゃない。
オレは捨てられていない。だから出ていく必要もない……?