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探偵ワトソンは眠らない


#6 探偵と3つのアリバイ




『ふんふんふ〜ん♪』





鼻歌を歌いながら軽やかな足取りで美術室に向かう


そんな僕の手にはクッキーの入った籠が握られている


なんとこれ、僕の手作りクッキーだ
家庭科の授業で作ったので、この前お世話になった桜先輩に差し入れようと思ったのだ


『先輩喜んでくれるかな〜♪』


そう言って美術室のドアを開ける。中には誰も居ない


『なんだ…誰も居ないのか…』


クッキーを美術室の机の上に置き、僕は美術室を眺める

ここで起きたダニエルくん殺人事件は記憶に新しい

そんなダニエルを見ると、タートルネックに白いロングコートとお洒落な格好だ
…あれ?この格好どこかで見たことあるような……そうだ!ワトソン!ワトソンの格好に似ている!

まぁワトソンは白衣だけどね…
そんなどうでといいことを考えながらふと机の方を見ると…僕はあることに気がついた



『あれ、僕のクッキーが無い?!』



そう、さっき置いたばかりのクッキーが無い

籠には数枚のクッキーが入っていたが、今は欠片しか残っていない

気付くと同時にあたりを見渡すと、今にも美術室を出ようとする秋沢先輩の姿が…!!
先輩は明らかに口に何かを入れている…



『ちょ…!!秋沢先輩!待ってください!!僕のクッキーですよ!!!』



そう叫ぶと先輩はしまった、という顔をし、走り出した

僕は急いで秋沢先輩を追いかける。逃してたまるか。現行犯逮捕だ

秋沢先輩は走って教室の角を曲がる。ふふん、この先は行き止まりだ。そう思い僕も角を曲がる




……が、そこに秋沢先輩の姿はなかった


なるほど…トイレに逃げ込んだのか…
逃げ込めるとしたらそこしかない

だが僕は女子だ。残念ながら入れない
トイレに逃げるなんてズルいなぁ…
待ち伏せしてやろうと思ったそのとき、トイレから緑のパーカーを着た金髪の男子生徒が出てきた。どうやら3年生のようだ


『あの〜すみません』


「ん〜何かな?」


へらっと笑い先輩が言った。


『さっき先輩と入れ違いに男子トイレに入った黒髪の先輩に早く出てこいって言ってもらえませんか?』


「え?トイレには僕1人だったけど?」


『えっ??』


「じゃ〜僕は行くね〜!」


動揺する僕を他所に足早に先輩は立ち去る


『あの、お名前聞いてもいいですか?』


「僕は佐々木零だよ〜僕これから用事あるから行くね〜!それじゃまたね〜!」


佐々木先輩は手を振りながら歩いていった
一体どういうことだ?先輩はココには居ない?混乱する頭で僕は美術室へと戻った


美術室に戻ると桜先輩が椅子に座っていた



『あっ、桜先輩〜!』


「セトカちゃんだ。どうしたの?なんかあった?眉間にシワ寄ってるよ」


『桜先輩、秋沢先輩を見ませんでしたか?』


「ああ、さっき外にいたと思うけど」


『そ、、外?』


おかしい。そんな筈はない。ここは2階だ…そんなすぐ移動できるわけないのだ…


「えっ?秋沢先輩ならさっき特別棟で見ましたけど…」


実花ちゃんが突然美術室に入って来て言った


『そ、そんな訳ないよ…僕はさっきそこの2階トイレに秋沢先輩が入っていくのをみたんだ…』


そう、あれは明らかに秋沢先輩だった


「どーしたの?深刻そうな顔して」


驚いて顔を上げるとそこには秋沢先輩が立っていた


『秋沢先輩!どこ行ってたんですか?!てか、僕のクッキー食べましたよね?!』


「ん〜クッキー?何の事かな?」


『とぼけないでください。僕は先輩の後ろ姿をハッキリと見てますからね!!』


「それはセトカちゃんの見間違いだよ。僕はさっき美術室になんて行ってないもん」
  


秋沢先輩が口を尖らせて言った



「そーだよセトカちゃん。私、セトカちゃんが来る直前、美術室の中の窓から外に居る秋沢の姿を見たんだから!声も聞いたんだからね!」



「ち、違いますよ!私は美術室前の廊下の窓から向かいの特別棟に居る秋沢先輩を見ました!」



秋沢先輩に続いて桜先輩と実花ちゃんが次々に言った。違うもん違うもん…僕はハッキリと秋沢先輩を見たんだもん…



「セトカちゃん僕のことホントにちゃんと見たの〜?」


『み、見ましたよ!そこの廊下を走って行き止まりのトイレまで追い込んだんですが…』


「ですが…?」


『居なかったんです。トイレに。出てきた人に、さっきトイレに入った人居なかったか聞いたら居ないって…』



「はははっ僕が消えちゃったね♪」



先輩がクスクスと笑う



『先輩、ホントはどこに居たんですか?』


「ふふふ、内緒♪」


『内緒って…やっぱりやましい事があるんですね…!!先輩が僕のクッキー食べたんですよね!!』


「え〜知らないよ〜。僕なわけないじゃ〜ん!だって、セトカちゃんが追ってた僕はトイレに居なかったし、桜ちゃんは僕を外で見て、実花ちゃんは特別棟で僕を見てるんだよ。僕は3つもアリバイがあるんだよ!これが解けないと僕だって言えないよね〜」


秋沢先輩は笑いながら言う



ぐっ…確かにあの時、クッキーを持ってったのは秋沢先輩なのに…



僕は先輩の正面に立ち、堂々と言う




『ふん!いいでしょう!名探偵である僕が先輩のアリバイ、3つとも崩してやりますからね!覚悟しといてくださいね!!』




________


そう言ったからにはまずは情報収集だ
初めに桜先輩が秋沢先輩を見たという外に出る

先輩たちは部活があるという事で僕1人の捜査だ


外と言っても四方を校舎で囲われており、中庭のようになっている


あたりを見渡すと、ちょうど演劇部の人たちが荷物を運んでいた。全員が演劇と書かれた赤色のTシャツを着ている


「そうそう、私が秋沢をここで見たときも演劇部がいたよ〜!」


突然、後ろから先輩の声がする。しかし、そこに桜先輩は居ない


「こっちこっち〜!上だよ!」


そう言われて上を見ると窓から手を振る桜先輩がいた。桜先輩の後方には美術室が見える

なるほど…、ここは校舎に囲まれていて声が反響しやすいから後ろから聞こえたように感じたんだな……


『先輩…、何してるんですか?』



「何って…セトカちゃんが見えたからさ…。どう?何か分かった?」



『まだですよ!桜先輩はホントに秋沢先輩を見たんですか?』



「ホントに…って言われると怪しいけど、黒髪で紺のセーター着てたから秋沢だと思ったのよね。第一に声が聞こえたし。"桜ちゃーん"ってね」



『じゃあ顔を見た訳じゃないんですね…ふふっこれはアリバイの崩しがいがありますね…』



「まぁ、頑張ってねー私は部活に戻るからー!」



『わっかりましたー!ありがとうございますー!!』



さてと、まずは聞き込みだな。僕は大きな照明を運んでいた女子に声をかける



『あの〜すみません!演劇部の方ですか?』



「はい、そうですよー!」



『10分前もここに居ましたか?』



「居ましたよー。運ぶ荷物が沢山あって時間かかっちゃってて」



『へぇーじゃあ黒髪紫目の紺色のセーターを着た背の高い人を見ませんでしたか?』



「見てないですねー。演劇部はみんな同じTシャツ来てるから目立つと思うんですけど…」


彼女は自身の赤色のTシャツを指差し言った


確かに黒髪の人はたくさん居るが、黒っぽい服を着た人は一人も居ない

桜先輩が見間違えたのかもとか思ったけど…
これじゃあ見間違えようがないなぁ…



その後も僕は演劇部の人に聞き込みをしたが誰も秋沢先輩を見た人は居なかった
やはり、秋沢先輩はここには来ていないのだ


でも、桜先輩が見た姿は一体何だったのか……


________

続いて僕は実花ちゃんが秋沢先輩を見たという特別棟2階に来ていた

確か…美術室の廊下から見たって言ってたな。
実花ちゃんの話によると、後ろ姿しか見ていないが、背が高くて肩につかないくらい短い黒髪で秋沢先輩っぽかったらしい。


そんなことを考えていると廊下の奥から2人の男女が歩いてきた。あれは…生徒会長さん…?


「あれ〜?セトカちゃんだ!どーしたの?」


僕に気づいた生徒会長さんが僕に手を振る確か…日高蓮先輩だっけ…?隣にいる先輩は誰だろう…
短い紺色の髪に赤と青のオッドアイ、身長は僕よりちょっと高いくらいだ。


『あっ、会長さん!隣の方は誰ですか?』


「ああ、コイツは笹川未央。生徒会の会計だよ」


「ども。笹川未央です」


表情を変えずに笹川先輩は言う


『先輩方はいつからここにいるんですか?』


僕の質問に生徒会長さんが答える


「俺は今来たばっかだぞ。未央は?」


「私は30分前からこの辺にいるわ。蛍光灯を替えてたの」


そう言って笹川先輩は蛍光灯を見せる


「とか言って〜!身長足らなくて俺を呼びに来たくせに〜!」


会長さんがニヤニヤしながら言う

確かに笹川先輩は身長が低い。髪型と髪色は似てるけど、身長的に笹川先輩と秋沢先輩は間違えないよなぁ…まずスカートだしね、、、


「もともと蓮がやるべきだった仕事でしょ。あんたが忘れてんのが悪いんじゃない」


「うっ…ごもっともです…」


しどろもどろになる会長さん。なんか奥さんの尻に轢かれる夫みたいだな



『えっと、、じゃあ笹川先輩はここに誰かが来たとか見てないですか?』



「誰も見てないわ。1回生徒会室に行ったから見逃してるかもしれないけれど」



じゃあそのときに秋沢先輩っぽい人が来たとか…??うーん何も分からない…



『わっかりました!ありがとうございましたー!』



「あれ?もういいの?」



不思議そうに会長さんが首を傾げる



『はい!あっ、じゃあ最後にもう一つだけ聞いてもいいですか?』



「おう!何でも聞いてくれ!」


僕は率直な疑問を二人にぶつけた


『お二人は付き合ってるんですか?』




「んなわけ無いでしょ」
「んなわけねぇだろ」

2人の否定する声が見事にハモる

「ちょっと。声被せないでくれる?」

「はぁ?オメェが被せてきたんだろ?!」

「違うわ。あなたの方がコンマ1秒遅かったわ。セトカさん、あなたもそう思うでしょう?」


「ああ?ちげぇよ!俺のほうが断然早かったろ!なぁ、セトカちゃん!」


『ひえっ!えっ、えっとぉ…』


二人に詰め寄られる僕。僕には全く同じに聞こえたけど……そんなこと言えない雰囲気だ…


『あっ僕ちょっとこれから行かなきゃいけないとこがあるのでっ!これで失礼します!それでは!』


そう言うと僕は逃げるように2人のもとを後にした。




____________



今、僕がいるのは美術室…ではなく図書室。目の前には今は亡きワトソンの姿。ちょうどさっきまでの事をワトソンに伝えたところだ。



「ふ〜ん3つのアリバイねぇ…」




『そうなんです!!人間が同時に3つの場所に現れるなんてありえますか?!』



ワトソンの向かいに座った僕が興奮気味に言う



「お前は3つのアリバイ全部が秋沢によるものだって思ってんのか?」



『だってそれしかあり得ないじゃないですかぁ!!似てる人がいないんですもん!!』



それに!と僕は付け足す。



『秋沢先輩は僕の目の前で消えたんですよ!!つまり!秋沢先輩はテレポーテーションを使えるんです!!』



自信満々に僕は人差し指を立てる



「テレポーテーション…?」



『ワトソンそんなことも知らないんですかぁ?瞬間移動のとこですよ!』



「ちげぇよ!意味を聞いてんじゃねぇ。本気でそれを信じてんのかってことを聞いてんだよ!」



『そりゃテレポーテーションなんて現実離れしてます…』



でも…!!と僕は続ける。



『そうでもしないと説明がつかないじゃないですか!!僕の目の前から消え、さらに離れた2箇所に姿を現した方法が!!
ホームズも言ってますよ!不可能なものを除外していって、残ったものがたとえどんなに信じられなくても、それが真相なんです!!』


頷きながら僕は言った
それを聞いたワトソンは鼻で笑うと小馬鹿にしたような顔で僕を見る



「真相…?ははっ笑わせんなよ。生きた人間が瞬時に消失するなんてそれこそ不可能なんだよ」



アホかお前か。そう言いワトソンは冷ややかに笑う



『んじゃあ!!分かるんですか?ワトソンは!この人体消失トリックが!!』



「ああ。簡単なことだ」



『でも!僕は秋沢先輩を確かに見たんですよ!それが違う人だったなんて言わないですよね?』



「安心しろ。お前が見たのは秋沢だ」



『でもそこから、外と特別棟に行かなきゃいけないんですよ?しかも秋沢先輩を見た人はいない。やっぱりテレポーテーションで……』



「だから違うっつてんだろ!馬鹿なのか?高槻と加賀野が見た秋沢は本物じゃなかったんだよ」



『偽物ってことですか?でも桜先輩は声まで聞いてるんですよ?』



「いや、秋沢はトイレの窓から見えた高槻に向かって声をかけたんだ。外って言ってもあそこは声が反響するだろ。それなら外から声が聞こえたとしてもおかしくない」



『た、確かにあのトイレから中庭は見えますけど…あそこは赤い服を着た演劇部しかいなかったんですよ?見間違えますかね?』



「黒い布を被っていたとしたら?」



『そ、それなら秋沢先輩の紺のセーターと見間違えるかも…って黒い布なんてあの場になかったですよ!!』



「もう運び終えてたんだよ。演劇部であれば使うアレを。照明を運んでいたのであれば必然的に使っていただろうアレをな」



『演劇部で使う…?照明?…あっ!暗幕か!!』



「そうだ。それで声が聞えれば、秋沢だと見間違えるだろ?」



『そうかもしれないですね…でもですよ!特別棟で見た秋沢先輩はどうなんですか?あそこには、背が低い上にスカートの笹川先輩しかいなかったですよ?』



「椅子にでも乗ってれば背が高く見えるだろ」


『椅子??なんで椅子なんかに乗るんですか?』



「蛍光灯を替えてたんだろ。そしたら椅子に乗るだろ。そんなのすぐ分かんだろ」



『そ、それくらい分かってましたよ!でもそもそも女子と男子は間違えませんよね?笹川先輩はスカートで、秋沢先輩は男。間違えようがありません!』



「は?何言ってんだよ?秋沢葵は女だぞ?」


は?????秋沢先輩が女………?!
信じられないと目を丸くする僕は言う

『えっ????は???だって秋沢先輩はズボン……です…し…』



「ああ、この学校は割と服装自由だからな。何でもズボンの方が楽だから、らしい。まぁ集会の時とかはちゃんとスカートだぞ。それを知っていたから加賀野は秋沢だと思ったんじゃないか?」



『ま、待ってください!って事は…トイレで消えたって思ってたのは…』



「女子トイレに居ただけだろ」



そ、、そーいうことかぁ〜!
確かに秋沢葵という名前…これも男女どちらでもあり得る…そしてあの距離感の近さ…同性だからだと思えば納得できる
あれ…でも1人称は僕だったような…

『でも1人称は"僕"じゃないですか!!』


「そんなのお前だってそうだろ?」


はっ!!!!確かに!!!
……ん??ってことは…秋沢先輩は……


『あああああー!』


「なんだよ突然。まだ納得できねぇのか?」


『秋沢先輩は女子で1人称は僕だなんて…』




「だから別に変じゃねぇだろ?お前も僕って言ってるし…」




『そこですよ!そこ!ぼ、僕っ子なんて…そんな…そんなの…』






『僕とキャラ被りじゃないかぁァァァァァァ!』





図書室に僕の叫び声が響く





ワトソンが呆れ顔でこちらを見ていた



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