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探偵ワトソンは眠らない

#4 探偵と助手






「特別棟3階の図書室で先生が死んだって」



「何でも頭を殴られたとか」



「でも死因になったものが見つからないんだって」



「え?じゃあ殺人事件じゃん!」



「いやいや、図書室は死んだやつ以外誰もいなかったし、完全に鍵が閉まってたんだって。事故に決まってんだろ」



「全く…変な事件だな」



「なぁ、死んだ先生の名前って何ていうんだっけ?」



「入学式のあとに俺らも会ってるよな。ほら、オリエンテーションの時に教室に来た……」



「ああ、あの目つきが悪い怖そ~な先生ね」









「確か…和戸…和戸壮哉だっけ?」







入学式から一週間も経った今日、僕の高校生活が始まった。仕方ない、僕は昨日までインフルでダウンしてたのだ。

探偵部募集のビラを校内に貼りまくっているときだった。
僕と同じ一年生の人たちが話していたのを聞いたのだ。



殺人…?密室…?



これは気にならない訳がない。



すぐさま僕はその足で図書室に向かった。





特別棟3階の一番奥。そこに使われなくなった図書室がある。
その現場の入り口の前に僕は立っている。







そう、これは僕とワトソンが出会ったときの話






________

僕はガラガラ、と建付けの悪いドアを音を立てて開ける




『しっつれーしまーす』





誰もいない図書室に僕の声が響く

使われていないだけあってその部屋は埃っぽく、舞った埃が太陽の光を受けてキラキラと光った

本は乱雑に積まれ、いたる所にダンボールが置かれて物置と化している。そして奥の机の右から2番目の真ん中の椅子には白衣を着た男の……人…?!



『うわー!!ひ、人?!』


誰もいないと思ってたのに人がいた?!見たこともない人だが、先生だろうか。僕の声にその彼も目を見開き驚いている



『あ、あの…先生、何してらっしゃるんですか…?』


「見りゃわかるだろ。読書中だ。分かったらとっとと消えろ。あと俺は先生じゃない」



黒髪で赤い目をした彼が低い声で答える



『図書室は新しくできてるじゃないですか。こんなとこで読まなくても……』


「どこで読むかは俺の勝手だろ」


『でもここで人が死んでるんですよ?知らないんですか?なんでも凶器が見つからないとか殺人事件とか…』



「事故だよ」




彼が本を閉じ、立ち上がりながら言った


『えっ…』


「分かっただろ。じゃあ俺はもう行くからな」


そう言いながら彼はドアに向かって歩く



『待って下さい!僕は探偵なんです!!この事件を調べに来たんです。詳しく教えてください!』


「事件じゃない。ただの事故。それだけだ」



それでも歩みを止めない彼を僕は追いかける



『事故?どうしてですか?それにあなたは誰なんですか?!』



僕はまだ聞きたいことが山ほどあるんだ
彼を止めるために僕は腕を掴む






いや、掴もうとした
…が…その手は彼の白衣を通り抜ける



『へっ?』



「事故だよ。被害者の俺が言ってるんだ。間違いねぇだろ」



『……?』



驚き、僕は目をパチパチさせる

今…なんて言った?被害者?それに手が…通り抜けた……?



困惑する僕の前で彼はニヤリと笑い言った。



「そういえば言ってなかったな。俺の名前は和戸壮哉。つい一週間前に此処で死んだ男だ」



『は…はぁぁぁぁぁぁぁぁ?!』





待って待って待って待ってまって…………
一体どういうこと……??



「ははっ、つまり幽霊ってことだな。探偵気取りのガキには理解できねぇか。1年A組、24番、月城セトカさん?」



『な…なんで名前……?!僕…名乗ってないのに…』



「初歩的な推理だよ。ホームズ君。
まずお前が手に持っているポスター、探偵部部員募集とあるが、この学校に探偵部なんて無い。つまり、新しく部活を作ろうとしている。こんな事しようとするのは新入生しかいないだろう。
しかもこんな一週間も経った時期にポスターを貼っている。これは何らかの理由で最近まで学校に来れていなかったと予測できる。そして入学式を欠席する奴はそうそういない。しかも俺は1年の各クラスにオリエンテーションをしに行っている。どちらとも姿を見ていない奴は一人だけ。確か机の上にどっさり入学式の資料が乗っていた。A組の左から4列目の一番後ろ。一列は6人だから24番。俺の記憶ではそいつの名前は月城セトカ。どうだ、簡単だろう?」




『じゃ、じゃあ事故だって言ったのは…』



「見なかったからだよ。俺が死んだとき誰も見なかった。誰もいなかった。頭部に衝撃を受けただけだ。あとは知らない」




ひとつ、大きなため息をつき、彼は言った。




「分かっただろ。ここにはただの事故と科学的に証明できない存在である俺しかいない。探偵と相性が悪いものしかねぇんだよ。さっさと出ていけ。探偵ごっこは他所でやってろ」



彼は僕を睨んだあと再び椅子に座る





事故?幽霊?信じられない事ばかりだが、今、僕がはっきりと分かったことがあった。いや、見つけたといったほうがいいか…





『ワトソンだ…』





「はぁ?何言ってるんだよ」



『僕の助手になる気はありませんか?』



僕は目を輝かせ言った。



「はぁ?!おい!!お前、俺の話聞いてたか?!お前は探偵、幽霊とか信じちゃいけねぇ立場だろ?!探偵と幽霊とか相性最悪だろ!!!」


『そんなの関係ないじゃないですか!今、ワトソン君の話を聞いて分かりました!ワトソンの推理力が素晴らしいと!!是非僕の助手に…』


「冗談じゃねぇ。てか、なんだよワトソン君って!」


『いいじゃないですか。名前も"わとそうや"ってワトソンみたいじゃないですか!和戸先生にも、僕の助手にも、ぴったりなあだ名じゃないですか!』


「嫌だ。面倒事は嫌いだ。早く出ていけ。あと先生と呼ぶな」


『ちえっ、冷たいですね…仕方ないので今日は帰ってあげますよ』


「今日はって……また来る気かよ…」


『はい!ワトソンの死の謎も解明したいですしね!』



にこっと僕が微笑むとワトソンは苦虫を噛み潰したような顔をした。



「だから事故だって……ああ、…もう勝手にしろよ……」



頭をガリガリ掻きワトソンが項垂れた。


『はーい!勝手にしまーす!』


そう言うと僕は元気よく図書室を出た。








…事故

ワトソンはそう言っていた。でも僕はそうは思わない。これは事件。殺人事件だ。僕の直感がそう言っている。
ワトソンは何かを隠したがってる?誰かを庇っている?いずれにしても謎が多すぎる。
それでも僕はこの謎を解明してやる。
探偵として、意地でも……


…………っとか思ってるんだろうなぁ
はぁっと俺は大きなため息をつく。ったく、めんどくせぇ事になったな

"探偵"だとか言うから、事故とか俺が幽霊だって明かせばもう関わってこないと俺は考えたんだが……

あいつ…絶対この謎解明してやる!とか思ってるんだろうな

頭を抱えもう一つ大きなため息をつく

実際にこれは事故だ。偶然の事故だ
あの日も俺はこの場所で本を読んでいた。その真後ろには本棚がある。そこの上から偶然落ちてきた"物"によって俺は死んだ。
その"物"が無いって話だが、それもそうだ。自力で動いてこの部屋から出たのだから

そう、それはこの図書室の隣にある生物室を住処にする"亀"である。

死んでから知ったことだが亀は壁を登れるらしい。あの日も本棚の上に登っていたのだろう。不運にも俺はその亀がピンポイントで頭上から降ってきて死んだ。
俺の死因は亀です。なんて言うわけ無いだろ。死んでからもバカにされるなんてゴメンだ

あのバカっぽいホームズ君がこのことに気づくとは思えないが、こちらから明かしてやることは一切ない。この謎に精々苦しめばいいさ

まぁ、もうあのホームズに会わないことを願うばかりだがな。

そうして俺は手元にあった本を再び開いた。



数日後にまたあのホームズと会うことになるなんて知らずに……







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