青い鳥は鷹から逃れ海原に羽ばたく
「彼方、最近楽しそうね。」
「……そう、かな」
海原くんに会ったあの日から1週間が経って夕食をお母さんととっていたら、そう言われた。……学校に行けていない僕は家族にも最近ではタカにもあまり話さなくて、ゲームしていて本当は楽しいけれど後ろめたくて表情に出さないようしてた。
今も責められている、のかも。
そうネガティブなことを考えていることをお母さんは察してか慌てて首を横に振る。
「あっ、別に責めてるわけじゃないのよ?ほら、最近彼方生き生きしてるでしょ?そういう表情を見るのが久しぶりで、嬉しくてね」
「……」
「何かあった?」
諭すようなお母さんの言い方に涙が零れそうになる。
心配かけている申し訳無さと、僕のことを理解しようとしてくれるお母さんが嬉しくて、泣いてしまいそうになるのを何とかご飯と一緒に飲み込んだ。
引きこもって以来、なにかを楽しむことにどこか罪悪感があって、それを表に出すのは駄目だって思ってた。
ゲームする暇があったら、何か楽しむ余裕があるなら、学校に行く努力しなさいって本当のことを言われるのを恐れてた。 自分が常々思っていることを改めて親の口から聞くのが怖かったんだ。新しい友達が出来たなんて言えなかった。でも、隠そうとしているのにそれを隠せないほど楽しそうな僕を責めるでもなくただ穏やかに笑ってくれる母の姿を見て、共感してくれるんじゃないかと思った。
「……ともだち」
「え?」
「が、できた……、ゲームする、タカじゃない、あたらしいともだち」
本当は、すぐにでも言いたくて仕方がなかった。
海外から日本に越してきて、言葉をよくわかっていなかったけれどそれでも僕は近所のタカとはすぐに仲良くなって、この感じならきっと学校でも友だちいっぱい出来ると思っていたのに、実際は何故かすぐに孤立状態になってしまい結局タカ以外の友だちは出来なかった。
この子とは仲良くなれそうだと嬉しくてお母さんに報告した次の日にはどうだった?と問う母に嫌われてしまったと僕は何度答えたんだろうか。そのうち、母に何も報告しなくなった。
無邪気に今日どうだったのと聞かれて自分で嫌われたことを言わないといけないのが苦しくなった。
だから、今日4年ぶりに報告した。
でも仲良くなった、ではなく。
『ともだち』と言った。
「もう、1週間になる、んだ」
「そうなの、そうだったのね、そっか、そっか〜……」
お母さんは何度も感慨深いようで何度も頷いて、だんだんとため息混じりのような「そっか」とギリギリ聞こえる声で呟いてしばらく黙り込んで
「よかったね」
と、だけ言ってくれた。
その一言につめられた言葉はとても重たくて、暖かいものだった。
「……うん」
僕もただそれだけ返してその後は喋らず静かに夕食をとった。
ピンポーン……。
夕食を終えてお風呂の掃除をしているとインターホンの音が家中に鳴り響く。
(今日は部活だったのかな)
訪ねてきたのが誰なのかは見なくてもわかった。
「タカくん来たから部屋に案内したわよ」
「ん、わかった」
『お湯はりを開始いたします』
ピ、と浴槽の近くに取り付けられている自動と書かれているボタンを押すと無機質な女性の声とともにお湯が入ってくるのを確認して蓋を締め、濡れた手を拭いて風呂場を後にし階段をのぼった。
自室のドアをノックもせずに開けた。
「……タカ、いらっしゃい」
「よっおじゃましてるぜ。今日も課題持ってきた」
「……うん」
あまり嬉しくないプレゼントだ。
いや、近所とはいえわざわざ学校帰りにプリントを家に持ってきてくれるタカはとてもありがたいし申し訳ないから何も言わないけれど。
「じゃあ、これ」
「おーちゃんと終わらせる、えらいえらい」
心の籠もっていない褒め言葉だ。
僕の部屋でまるで自分の部屋並にベッドに寝転びスマホをいじっている彼こそがタカ。
先生が出したプリントを持ってきてくれて、僕は終わらせたプリントをタカに渡している、タカがいて何とか成り立っている。
「ごめんね、わざわざ来てもらって」
「本当になぁ……面倒くさいわ、まぁカナのためなら仕方ねえけどさ」
いつも来てもらって本当に申し訳ない。ため息を吐かれても仕方がない、だってタカは成績トップでそれを維持するために塾に行っていてかつ運動も出来るから部活に引っ張りだこで、学級委員で先生からの信頼も厚くて、クラスのいや学校の人気者で時間がないのに僕のところにこうしてほぼ毎日来てもらってる。
ほんとうに、タカには頭が上がらない。
「お前なんで嫌われるんだろうな」
「……」
それは僕も聞きたいところだ。タカは結構痛いところをついてくる……きっと無意識なんだろうけれどね……。
僕以外の人にはタカは何だか壁を張っているようで、僕以外には礼儀正しい口調というか基本的に相手を思いやって望む言葉を上げているけれど僕には少しだけ厳しい。きっとこれがタカの素だろうし、僕ぐらいにはそういう気遣いはしなくてもいいよって思ってるから全然良いけどね。
「ちゃんと目も隠してんのに」
「……なんでだろうね」
タカの言う通りにみんなと少し違って変に目立っている部分は隠してもそれでもなんで僕は嫌われてしまうんだろう。
僕自身に何かやっぱり問題があるんだろうけれど……でも、海原くんと知り合ってゲームするようになって1週間経つけれどそれでも普通に連絡取り合ってる。
実際に会って話しているわけではない、からかな?やっぱり僕が家族やタカ以外の人間に嫌われる理由ってよくわかんないや……。
「……なーカナ、最近何か良いことでもあった?」
僕って、顔に出やすかったりするのかな?さっきもお母さんに聞かれたばかりなのに。長年の付き合いだからかな?勿論、タカにも海原くんのことは伝える気はある。心配かけてるし迷惑もかけてるし、親友だし……でも。
「……ううん、何もないよ」
何となく、というかお母さんに言えるようにタカに言えるようになるのはまだ出来なさそう。
そこはやっぱり家族と友だちの違いなのかな……やっぱり俺と何から何まで違っているタカが僕は羨ましいのかもしれない。僕以外の人たちからも好かれ僕と違って何でも出来るタカに劣等感に苛まれてしまってるのかも。
……僕性格悪いな、こういうところが嫌われる原因になっちゃうのかなぁ……。僕って僕が思う以上に顔や態度に出ちゃってるのかも。気をつけなきゃなぁ……。
「ふーん、あっ俺そろそろ帰るわ」
俺の返答に興味なさそうな声を出した後、少し慌てたように帰ると告げられる。時計を見るともうすぐ8時になるころ。今日は月曜日で週始まり、まだまだ土日にはほど遠い。
「あっうん。見送るよ」
「お前は良いよなぁ、年中休みで」
「んー、まあそう見えるよね」
「実際そうじゃん」
……タカが僕に容赦がないのはいつものことだけど、今日は特になんだか激しい……。まあ、本当のことだから僕は何も言えない。相槌を打ちながら階段を下る。
「じゃあな」
「またね」
「タカくん、今日もありがとね〜」
「いえ、大事な友人ですからね。それでは、おやすみなさい」
バタン、と玄関の扉が閉まると同時にタカの表情は険しいものになっていたことを僕は知らない。
(前までスマホなんてそのへんに置きっぱなしなのがざらだったのに、ここ最近はスマホ手放さねえのに何もねえわけねえよな)
(また、邪魔者でも出てきやがったか)
「……カナは渡さねえよ」
絶対に。
誰にも渡したりはしない。
カナは俺だけのものだ。
「……そう、かな」
海原くんに会ったあの日から1週間が経って夕食をお母さんととっていたら、そう言われた。……学校に行けていない僕は家族にも最近ではタカにもあまり話さなくて、ゲームしていて本当は楽しいけれど後ろめたくて表情に出さないようしてた。
今も責められている、のかも。
そうネガティブなことを考えていることをお母さんは察してか慌てて首を横に振る。
「あっ、別に責めてるわけじゃないのよ?ほら、最近彼方生き生きしてるでしょ?そういう表情を見るのが久しぶりで、嬉しくてね」
「……」
「何かあった?」
諭すようなお母さんの言い方に涙が零れそうになる。
心配かけている申し訳無さと、僕のことを理解しようとしてくれるお母さんが嬉しくて、泣いてしまいそうになるのを何とかご飯と一緒に飲み込んだ。
引きこもって以来、なにかを楽しむことにどこか罪悪感があって、それを表に出すのは駄目だって思ってた。
ゲームする暇があったら、何か楽しむ余裕があるなら、学校に行く努力しなさいって本当のことを言われるのを恐れてた。 自分が常々思っていることを改めて親の口から聞くのが怖かったんだ。新しい友達が出来たなんて言えなかった。でも、隠そうとしているのにそれを隠せないほど楽しそうな僕を責めるでもなくただ穏やかに笑ってくれる母の姿を見て、共感してくれるんじゃないかと思った。
「……ともだち」
「え?」
「が、できた……、ゲームする、タカじゃない、あたらしいともだち」
本当は、すぐにでも言いたくて仕方がなかった。
海外から日本に越してきて、言葉をよくわかっていなかったけれどそれでも僕は近所のタカとはすぐに仲良くなって、この感じならきっと学校でも友だちいっぱい出来ると思っていたのに、実際は何故かすぐに孤立状態になってしまい結局タカ以外の友だちは出来なかった。
この子とは仲良くなれそうだと嬉しくてお母さんに報告した次の日にはどうだった?と問う母に嫌われてしまったと僕は何度答えたんだろうか。そのうち、母に何も報告しなくなった。
無邪気に今日どうだったのと聞かれて自分で嫌われたことを言わないといけないのが苦しくなった。
だから、今日4年ぶりに報告した。
でも仲良くなった、ではなく。
『ともだち』と言った。
「もう、1週間になる、んだ」
「そうなの、そうだったのね、そっか、そっか〜……」
お母さんは何度も感慨深いようで何度も頷いて、だんだんとため息混じりのような「そっか」とギリギリ聞こえる声で呟いてしばらく黙り込んで
「よかったね」
と、だけ言ってくれた。
その一言につめられた言葉はとても重たくて、暖かいものだった。
「……うん」
僕もただそれだけ返してその後は喋らず静かに夕食をとった。
ピンポーン……。
夕食を終えてお風呂の掃除をしているとインターホンの音が家中に鳴り響く。
(今日は部活だったのかな)
訪ねてきたのが誰なのかは見なくてもわかった。
「タカくん来たから部屋に案内したわよ」
「ん、わかった」
『お湯はりを開始いたします』
ピ、と浴槽の近くに取り付けられている自動と書かれているボタンを押すと無機質な女性の声とともにお湯が入ってくるのを確認して蓋を締め、濡れた手を拭いて風呂場を後にし階段をのぼった。
自室のドアをノックもせずに開けた。
「……タカ、いらっしゃい」
「よっおじゃましてるぜ。今日も課題持ってきた」
「……うん」
あまり嬉しくないプレゼントだ。
いや、近所とはいえわざわざ学校帰りにプリントを家に持ってきてくれるタカはとてもありがたいし申し訳ないから何も言わないけれど。
「じゃあ、これ」
「おーちゃんと終わらせる、えらいえらい」
心の籠もっていない褒め言葉だ。
僕の部屋でまるで自分の部屋並にベッドに寝転びスマホをいじっている彼こそがタカ。
先生が出したプリントを持ってきてくれて、僕は終わらせたプリントをタカに渡している、タカがいて何とか成り立っている。
「ごめんね、わざわざ来てもらって」
「本当になぁ……面倒くさいわ、まぁカナのためなら仕方ねえけどさ」
いつも来てもらって本当に申し訳ない。ため息を吐かれても仕方がない、だってタカは成績トップでそれを維持するために塾に行っていてかつ運動も出来るから部活に引っ張りだこで、学級委員で先生からの信頼も厚くて、クラスのいや学校の人気者で時間がないのに僕のところにこうしてほぼ毎日来てもらってる。
ほんとうに、タカには頭が上がらない。
「お前なんで嫌われるんだろうな」
「……」
それは僕も聞きたいところだ。タカは結構痛いところをついてくる……きっと無意識なんだろうけれどね……。
僕以外の人にはタカは何だか壁を張っているようで、僕以外には礼儀正しい口調というか基本的に相手を思いやって望む言葉を上げているけれど僕には少しだけ厳しい。きっとこれがタカの素だろうし、僕ぐらいにはそういう気遣いはしなくてもいいよって思ってるから全然良いけどね。
「ちゃんと目も隠してんのに」
「……なんでだろうね」
タカの言う通りにみんなと少し違って変に目立っている部分は隠してもそれでもなんで僕は嫌われてしまうんだろう。
僕自身に何かやっぱり問題があるんだろうけれど……でも、海原くんと知り合ってゲームするようになって1週間経つけれどそれでも普通に連絡取り合ってる。
実際に会って話しているわけではない、からかな?やっぱり僕が家族やタカ以外の人間に嫌われる理由ってよくわかんないや……。
「……なーカナ、最近何か良いことでもあった?」
僕って、顔に出やすかったりするのかな?さっきもお母さんに聞かれたばかりなのに。長年の付き合いだからかな?勿論、タカにも海原くんのことは伝える気はある。心配かけてるし迷惑もかけてるし、親友だし……でも。
「……ううん、何もないよ」
何となく、というかお母さんに言えるようにタカに言えるようになるのはまだ出来なさそう。
そこはやっぱり家族と友だちの違いなのかな……やっぱり俺と何から何まで違っているタカが僕は羨ましいのかもしれない。僕以外の人たちからも好かれ僕と違って何でも出来るタカに劣等感に苛まれてしまってるのかも。
……僕性格悪いな、こういうところが嫌われる原因になっちゃうのかなぁ……。僕って僕が思う以上に顔や態度に出ちゃってるのかも。気をつけなきゃなぁ……。
「ふーん、あっ俺そろそろ帰るわ」
俺の返答に興味なさそうな声を出した後、少し慌てたように帰ると告げられる。時計を見るともうすぐ8時になるころ。今日は月曜日で週始まり、まだまだ土日にはほど遠い。
「あっうん。見送るよ」
「お前は良いよなぁ、年中休みで」
「んー、まあそう見えるよね」
「実際そうじゃん」
……タカが僕に容赦がないのはいつものことだけど、今日は特になんだか激しい……。まあ、本当のことだから僕は何も言えない。相槌を打ちながら階段を下る。
「じゃあな」
「またね」
「タカくん、今日もありがとね〜」
「いえ、大事な友人ですからね。それでは、おやすみなさい」
バタン、と玄関の扉が閉まると同時にタカの表情は険しいものになっていたことを僕は知らない。
(前までスマホなんてそのへんに置きっぱなしなのがざらだったのに、ここ最近はスマホ手放さねえのに何もねえわけねえよな)
(また、邪魔者でも出てきやがったか)
「……カナは渡さねえよ」
絶対に。
誰にも渡したりはしない。
カナは俺だけのものだ。