あなたが私の知らないところで苦しんでいますように
あなたが私の知らないところで苦しんでいますように。
時折、小学校高学年から中学の三年間、全て合わせて五年間のことを思い出すたびにそう祈っています。
そっと、今日の朝ご飯は食パンだったな、と思い出すぐらいの感覚です。
すでに十年以上経っていることなのに何を根に持っているのかと疑問に思うところでしょうけれど、私はそう祈ることで心の安寧を得ることが出来るので誰に何を言われようと辞める気はありません。そもそもこんなこと誰にも言うつもりありませんけどね。
あの日々は社会人となった今ではそこまで大したことないレベルだったと思います。
教科書を隠されたり、ペアを作れと言われても誰とも組んでくれなかったり、私が触れたものを菌が付いていると言われたり、ブスと言われたり、ジャージをゴミ箱に捨てられたり。大人同士の醜い諍いに比べれば可愛らしいものでしょう。
ですが、息苦しくなるほど狭いあの箱の中は幼い私にとっては呼吸することも辛い地獄のようでした。
大人の目線と子どもの視線はあんなに違うものなんですね。大人になった今なら何となくそんな大したこと無いことで学校に行かないなんて馬鹿じゃないのか、なんて言ってくれた両親の気持ちも分かる気がします。大人っていろんな逃げ道がありますからね、仕事が嫌になったら辞めたりお金はあるからリフレッシュするためにどこか行ったりすることも出来る、自分の意志でズル休みだって出来ますからね。
学生のころには出来なかったことです。学校を勝手に休んだら教師が親に連絡するから逃げ道が無いですからね。出来ることならあの頃休みたかったし、私がそんな子を目の前にしたら休んでも良いよって言ってあげたいですね。考えてみると、ただ休みたかったと言うよりも親に味方になってほしかった、という気持ちのほうが強かったのかもしれませんね。期待はさっくりと裏切られましたけれどね。
ああ、そういえば学校での扱いを教師に相談したらいじめられている方に原因があると言われたこともありましたね。
確かに率先して私を苦しませることを楽しそうにしてきたあの子は確かに頭が良くて運動も出来て可愛らしくて私以外の人はあの子のことが好きなのでしょう。あの子のことを苦手とするのはその名前すら口にするのも嫌悪してしまう私ぐらいなものです。
昔の私のことを思い出してみます。
確かに空気が読めなかったり、当時はおしゃれなどにも興味がなく、ゲームばかりしていたから、お風呂は毎日入っていても髪はボサボサであまり清潔感はなかったと思います。
だからといって人の尊厳を奪い、自分のことを嫌いにさせるほどの言葉を浴びせても良いものなのでしょうか?高校生のときに比べ随分マシにはなりましたが、今の私も他の人たちより自己肯定感が低いように
思います。あのとき、あの子に話しかけられたときの選択肢を間違えたせいであんな扱いを五年間も受け続けないといけなかったのでしょうか。クラスカースト下位であった私が上位の子にいじめられるのは当然のことと受け止めるしかありませんでした。思うのですが、反応したら負けとかよく言うけれど無視しようと反応しようと何だろうといじめは中学卒業するまで止むことはありませんでした。いじめられている子に大人になれとか言うやつもいるけれど、あれってなんでしょうね。面倒事を黙らせるための言葉でしか無いですよね、逃げ道のない小中学生にあんなこと言ったら追い詰められるだけなのにね。
あれから短くない時間が経過しました。
私はしがない会社員で今も独身というか罰ゲームで私に告白という地獄を受けて以来恋人を作る気にもなりませんね。
男女ともに人気のあったあなたは結婚して子どものひとりかふたり産んでいるのかもしれませんね。
小中学生のときから目立つ子でしたから、今の御時世ですしそこら辺の有象無象の承認欲求の塊の人間みたいにどっかのSNSでもやっていそうですし、あなたの名前を調べたら案外何でもわかってしまうかもしれませんね。
今のあなたのことが気にならないといえば嘘になりますが、私は暇ではありませんし、そこまであなたに興味はありません。
正直言うとあなたのことは今でも嫌いですし憎いと思っていますが、実際に苦しんでいたらそんなに楽しいと思えないし、かと言って順風満帆な人生を送っていたらこの仄暗い気持ちがどす黒くなってしまうと思います。ずっと独りで友だちに囲まれても本当に他人を信用できなくなってしまった私が幸せなあなたを見つけてしまったら、私は何をしてしまうのか、自分のことながら想像もできません。
でも、あなたが私にしてくれた過去は取り消すことはできませんから。
だから私はたまに祈ります。
あなたが私の知らないところで苦しんでいますように。
あなたが私の知らないところで苦しんでいますように。
あなたが私の知らないところで苦しんでいますように。
あなたが私の知らないところで苦しんでいますように。
あなたが私の知らないところで苦しんでいますように。
あなたが私の知らないところで苦しんでいますように。
あなたが私の知らないところで苦しんでいますように。
あなたが私の知らないところで苦しんでいますように。
あなたが私の知らないところで苦しんでいますように。
あなたが私の知らないところで苦しんでいますように。
あなたが私の知らないところで苦しんでいますように。
あなたが私の知らないところで苦しんでいますように。
あなたが私の知らないところで苦しんでいますように。
あなたが私の知らないところで苦しんでいますように。
あなたが私に対して望んでもいない絡みをしてきたみたいに、くどいほどに何度でも願い続けます。
気分によりますが、たまに神様に祈りを捧げるように膝を付いて手の甲を合わせて念じます。罰当たりと思われても構いません。あの地獄を味わって今の私が心の底から幸せを感じられないことに気がついたときから神様なんていないのだとよくわかっていますから。存在しない者を怖がるなんて馬鹿みたいじゃない。人間のほうがよほど恐ろしくて気持ち悪い生き物でしょう。
あなたが私の知らないところで苦しんでいますように、その華奢な身体では受け止めきれぬほどの肉体的にも精神的にも死ぬほど苦しい思いをしながら長生きしてくれますように、と。
人生のなかでなにかで躓いてしまったときには、真っ先にあの頃を思い出し、あの頃もっと楽しい生活を送れていたらこんなことにならなったのにと思ってしまうときに、そんなことを祈っています。
どうか、あなたが不幸になっていますように。
変な男に引っかかっていますように。
可愛らしい顔がぐちゃぐちゃになっていますように。
華奢な身体が醜く肥えていますように。
人生の絶望を味わっていますように。
今どこにいるかわからないあなた。
きっと私のことを忘れているあなた。
人生を謳歌していますか?それとも今既に絶望していますか?
私はあなたのことを探したりしませんし、あなたにも私のこれからの人生に入ってこないでほしいです。
地獄を生み出した張本人であるあなたはすっかりあんなことをしたことも忘れて楽しい楽しい思い出として処理しているのでしょう。若くて甘くて少しだけ苦い、青い春の記憶なんて今どきアーティストも言わないような薄ら寒いことでも思っているのでしょう。お好きにそう思っていれば良いと思います。
だけどね。
そんな思い出の一欠片にも残らない弱者である私はおひとつだけ、勝手に思っていることがあるのです。
私はお前がしたこと、一生忘れてやらねえからな。
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