PEACE-05【埋められない確執:前編】




「……結局こっちでも、おんなじ扱いか」

起きている人間は自分だけになり、大きく息を吐き出すシオン。

皆が出ていく時、軍医は元よりサイ達がこちらを見る目には、心配以外の色が染まっていたから。
何度感じたか数えるのもウンザリするくらいの、決定的な溝を。

とりあえず、キラの顔に溢れた汗を拭い、額に手を当てる。
自分の額と比べると、彼の方が熱かった。

「そりゃあ一番頑張ってたもんね……ありがとう、キラ」

イスカにしたのと同じ要領で頭を撫で、一旦向かいのベッドへ戻る。
座ってから視線を下ろすと、未だにグースカ寝ている親友。

「おーいイスカー、そろそろ起きなよー」

少々強めに肩を揺らしてみると、うーー、むーー、と難しい顔。
つんつん頬を突っついていれば、やっと瞳が見えた。

「ふぇ……シオ、ン?」
「おはよ、イスカ」

瞼を擦ったあと、ぱちぱちまばたき。
その様子が可愛くて苦笑いしてしまうが、程なくして襲った衝撃。

「シオン……シオーーーーンっ!!」
「うわぁっ!?」

加減などお構いなしに、シオンへ抱きつく。
勢いが強すぎたため、ベッドに倒れる形で受け止めた。

「うえぇん! 心配したんだよぉぉ!」
「ごめん、ごめんってイスカ……ありがとね」

おそらく女子の誰かが着替えさせてくれたであろう、黒Tシャツが涙で濡れていく。
しかし振り払うことはせず、頭を撫で続けると落ち着いてきた。
起き上がった二人は、お互いに笑顔を浮かべる。

「二人は、仲が良いんだね」

そんな時、第三者の弱々しい声が響く。
相棒の奥からと思い、そちらへ目を向けると。

「……キラ!?」

上半身だけ起こしてこちらを見る、茶髪の青年。
さっきまで眠っていたはずの、大切な友人だった。

「シオン、元気そうで良かった」
「こっちだって心配したわよ! はぁ、良かった……」

呆れと安心の二重の意味で、大きく息を吐く。
やんわりとイスカを外して、彼の方へ移動する。

「まだ寝てなきゃダメでしょ?……ほら、熱下がってない」

額へ手を当てると、まだ自分の体温より熱い。
苦笑いを零す彼は、どう見ても無理しているのだろう。
ゆっくり肩を押して、シーツも掛けて横にさせた。

「シオン、イスカ戻るね! また明日来るから!」
「え? うん。また明日ね」

もっと長居するかと思えば、突然切り上げたイスカ。
キラにも笑顔で手を振り、挨拶も程々に退出していった。どうやら空気を読んだ様子。

「……気を使わせちゃったかな」
「大丈夫大丈夫、あの子そんなの気にしないから。それよりキラは早く寝なさい、あたしも寝るから」

申し訳なさそうな彼に気にするなと励まし、反対側のベッドに入る。
そうでもしないと無理して起きていそうだし、自身もまだ本調子じゃないので疲れてきた。

「おやすみ、キラ」
「うん……おやすみ、シオン」

気が緩んだのか、すぐにウトウトしてくる二人。
先に寝息を立てた彼女に微笑んでから、自分も夢の中へ落ちていった。

この後の些細な出来事は、己の胸に秘めて。

* * *

次の日。誰にも起こされることが無かったので、軽く昼に差しかかる。

低血圧のためウダウダしながらも、キラより先に起きたシオン。
通路を挟んだ隣で眠る彼に、クスリと笑いかける。

そこに、ピーッという電子音が続けて鳴る。これは訪問者を知らせるベルだ。

「はーい、どうぞー」
「やっほーお嬢! おはよーー!!」

昨日と比べて特に追い返す理由も無いので、入室の許可を出す。
すると元気いっぱいで入ってきたのは、昨日別れた親友だった。

「元気ねイスカ……おはよう」
「うん! だってお嬢が無事で嬉しいもん! お昼ご飯持ってきたよ! 一緒に食べよ!」

若干呆れつつ、これは彼女のいいところと認めている。
片手に三人分の弁当と、水の入ったコップが乗ったトレーを持つ彼女を改めて見て、そういえば昨日から何も食べてなかったなと思い至った。
はいはい、と立ち上がりながら了承したシオンは、覚醒し始めたお隣さんに近付く。

熱が下がっているのをおでこに触れ確認してから、昼食に誘った。


「あ、そうだ……紹介してなかったね。この子はイスカ・キリユキ。メネラオスからの同僚で、あたしの親友」

それぞれのベッドに腰掛けて食べる中、そういえば話す機会が今日初めてではと思い至る。
隣でパクパク頬張る彼女を、向かい側でゆっくり食べているキラに紹介した。

「イスカだよー! よろしくね! えーっと……」
「僕はキラ・ヤマト。よろしく、イスカ」
「うん! よろしくキラー!」

素直な性格なんだな、とニコニコしている彼女を見て思う。
よく笑い、よく泣き、よく怒る。元気がないなんて、船酔いした時くらいだ。

だが、自分の素性を話せばどんな顔をされるんだろう。
仲良くなりたいと思っても、きっと……――

「あ! イスカ、気にしないよ!」
「……え?」
「イスカもね、半分コーディネイターだから!」

なんて心配はどこ吹く風。浮かない顔をしていた彼の気持ちを察して、敵意がない理由のひとつを話す。
自分も純粋では無いが、同胞の一人なのだと。

「イスカはハーフコーディネイターなのよ。確か母親がコーディネイターだったっけ?」
「そーだよ! 二人とももう居ないけどねー」

満面の笑みで重要事項を話しているが、嫌味で言っているのではなく普段からこんな感じ。

「だからキラ、イスカと仲良くしてね!」
「僕で良ければ……改めてよろしく、イスカ」
「うんっ!」

立ち上がってキラに近付き、左手を差し伸べる。
最近も含めると握手しっぱなしだが、嫌な顔せず手を握った。

えへへー、とニコニコしてから、ごはん下げてくるねー! と二人のトレーを回収していく。
最後にドア前で手を振り、鼻歌を歌いながら部屋を後にするイスカ。
その様子が微笑ましくて、残った二人は笑いあった。



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