PEACE-04【地球降下作戦:後編】




どうして戦争なんてものがあるんだろう
時折頭に浮かんでは、正解も見付からずに放置する疑問

記憶のないあたしだから分からないんじゃなくて、父さんに聞いても、納得のいく答えは貰えなかった
ナチュラルもコーディネイターも人間だからなんて、当たり前なんじゃないの?

「なんでアイツ、止まんないのよっ!?」

難しい話はここまで。それどころじゃない事態が起きてるから

ザフトのローラシア級戦艦が、艦隊目掛けて突っ込んでくる
このままじゃぶつかって大破どころじゃない……みんな死んじゃうでしょうが!

「やらせるかってのぉ!!」

スラスターをフルスロットル、戦艦を目標に飛んでいく
途中に黒いモビルスーツ、ブリッツだっけ? この前見た子が邪魔しようとしたけど、構ってられないから無視した!

アルファの刃を翼にくっ付けて、ただ横を“通り過ぎる”
側面に横一線の切れ目が入ったのを確認しつつ、爆発に巻き込まれないように上へ離脱した

フラガ大尉も同じような攻撃してくれたけど、それでも落ちる気配がない
むしろ味方の艦が大破しちゃって、残りはメネラオスとアークエンジェルだけ

「なら、もう一発っ――」

この敵艦、刺し違えるつもりなんだ
そこまでして……コーディネイターはナチュラルを憎んでるの?

……そっか。どちらも人間だからって、そういうことか

「シオン! 聞こえてるな!」
「っ、父さん!?」

旋回して向かおうとした所に、オープン回線で通信が入った
聞き間違えるはずもない父さんの声で、画面に映ったのも本人で
もうそれだけで、涙が溢れてくるのに

「おまえは早く、アークエンジェルに戻れ!」

一瞬、時間が止まったかと思った
それほど衝撃的で、信じたくなかったから

「な、に言って……」
「最後くらい、父の言うことを聞いてくれよ」

最後なんて言うなよ、そう言葉にしたかったのに
頭のどこかで理解していた。これが父さんと本当に最後の、会話なんだと
守りたくて出撃したくせに、どれだけ非力なんだろう

あたしが生きていられたのも、この機体に乗れたのも、イスカやキラに会えたのも全部全部、父さんのおかげ
今画面に映ってるのに……手を伸ばしても届かない

目尻に溜まった水滴を、頭を振りかぶって払う
覚悟を、決めなきゃいけないから

「……たとえ記憶が戻っても、絶対に忘れないから!」

本当は大好きだって伝えたいけど、こんな時に恥ずかしい気持ちが邪魔をする
ごめんなさい、父さん。これで許して……

「……あぁ。おまえの父になれて良かったよ、シオン」

オルカンシェルも重力に逆らってる影響で、振動と軋む音がうるさい
でも父さんの声は、ちゃんと耳に届いた
こくこくと何度も頷くと、安心した顔をしてくれた、気がした

だってもう、画面の中にはいない。プツリと消えてしまったから

「とう、さん……っ」

嗚咽で息が苦しいし、涙は全然止まらない
一度バイザーを開けて水滴を外に出すと、思ってたより一杯溜まってた
父さん、ホフマンさん、整備班のみんな、ごめんなさい……

「シオン、聞こえる!? 早くアークエンジェルに戻って!!」
「お嬢大丈夫? お嬢ーー!!」

ミリアリアとイスカの声が、聞こえる……そうだあたし、アークエンジェルに、戻らなきゃ
このままじゃ置いてかれるどころか、大気圏で燃え尽きる……

一瞬、そうすれば父さんと同じところに行けると思った
でもそれは、きっと誰も望まない。父さんにも怒られちゃうよね
生きなきゃいけない……死ぬ訳には、いかない。

「そうだ、ストライクは……」

メビウスに続いて、自分も帰還しようとした時
デュエルと戦っていたキラはどうなったんだろう、と思い出す
そんな簡単にやられるわけはないでしょうけど、乗ってる奴はしつこそうだと感じた

「まだ戦ってる……しかもまぁまぁ遠いし!」

アークエンジェルから離れないように、後部ブリッジにアンカーを射し込んでからストライクを画面で追った
拡大するほど遠くないけど、今から行けるでもない位置にいて、デュエルとバチバチやってる
あっち側の背後にはバスターが浮かんでて、多分母艦に戻れなくなっちゃったんだと思う

「お嬢何やってる! 早く中へ入れ!!」
「分かってます! でもキラがっ――」

フラガ大尉にまで言われたけど、このまま彼を置いていくのはなんか嫌だ
せめて、どっちが勝つかだけでも見届けたい。いやキラに勝ってもらわないと困るんだけどね!

互角の衝突も長くは続かなくて、結局ストライクの方が上手だった
盾で押し出してから顔に一蹴りいれて、距離を離しちゃうとはね……これならアイツも追ってこれないはず!

と思ったけど、性懲りも無くビームライフルを構えたデュエル
しつこいなぁアイツ……キラがあんなのに当たるとは思わないけど、こちらもビーム砲を構えた
そこへ上から降りてきたシャトルが、射線を遮る

「あれって、キラ達が乗るはずだったシャトル……」

そっか……メネラオスが落ちる前に発進させてたのね、父さん
このまま無事に降りてくれればいいけど……なんて考えてたのがいけなかったのか

銃口がゆっくりと、ストライクから足元のランチへ向きをかえる
アイツ、まさか……撃ち落とす気!? あれには民間人がいっぱい乗ってるのに!

「ふざけんなよ、ザフトぉっ!!」

だったら撃たせる前に、あたしが撃ち落とす!! 目標を定めて、トリガーを押し込んだ
少しのチャージを経て、一筋の太い光が放たれる

シャトルを助けようと突っ込むストライクを通り越して、ビームはデュエルのライフルを消し飛ばした

「当たった……って、えっ!?」

ホッと一息吐いたのも束の間、ガクンと機体が揺れる
何事かと下を見れば、アークエンジェルとオルカンシェルを繋ぐアンカーのワイヤーが溶け始めていて
うっそでしょ……このままじゃヤバいじゃん! どうすればっ……――

なんて焦ってる内に、ワイヤーはどんどん溶けていく
アンカーを回収するよりも先に、ぶつりと切れてしまった
浮遊感と重力が一気にのしかかってきて、舵も効かない

「なにか……方法は……」

スラスターを吹かせばなんとかなるかもだけど、さっきのビーム砲でエネルギーが残ってないし、そもそも熱すぎて頭が回らない……

あたしの人生、ここまでなのかな……ごめん、父さん……――

『シオンっ!!』

瞼を閉じかけた時、あたしの名前が聞こえた。ノイズもラグもない、リアルタイムの声
既に離れちゃってるアークエンジェルからじゃなくて、もっと近いような……

「……キラ?」

一際大きい揺れの後は、振動が弱くなった気がする
それもその筈。だってストライクが、オルカンシェルを掴んでくれてたから
カメラは不具合なのか映らないけど、確かにキラの声が聞こえてた

直接熱が当たらないように、シールドで防ぎつつ降下しようとしている
でも耐久性は良くないと思うから、地球に着く前に溶けちゃいそう……なんて思ってたら、ちょうど真下にアークエンジェルが移動してきた
わざわざ動いてくれるなんて……ラミアス艦長……――


ストライクが降り立つ前に、あたしの意識は途切れた。



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