PEACE-04【地球降下作戦:後編】




味方の旗艦に補足されるということは、敵の旗艦にも補足されるということ。

「足つきよりストライク、モビルアーマー発進! さらに未確認の機体を検知、こちらも一機発進されました!」

この場にいるザフト軍の中核ともいえるナスカ級戦艦、ヴェザリウス。
ラウ・ル・クルーゼ率いるクルーゼ隊が舵を取り、ジリジリと追い詰めていく。

「この状況でか?」
「しかも未確認だと……新型か!?」

あと少しでメネラオスを落とせる所に、良い情報と悪い情報のダブルアタック。
どちらにしても、思い切った行動をするものだとラウは口角を少しあげる。

変わってアンノウン機の存在は、ガモフが経験した戦闘から心当たりがあった。

「おそらくニコル・アマルフィの報告にあった、以前接触したという戦闘機かと……」

アークエンジェルと第八艦隊が合流する直前。
奇襲をかけたザフトレッド三人の内、ブリッツに真っ直ぐ突撃してきたという。
その後はストライクの乱入で有耶無耶になったが、並大抵の判断で出来る芸当ではなかった。

「追えるか?」
「はい、映像出せます!」

新型の可能性があるといえど、所詮はナチュラル。
しかしクルーゼは、そんな理由で見過ごすような指揮官でもない。

望遠カメラを一時的に絞り、電子モニターに映し出されたのは、デュエルと対峙するストライクを追いかける、黒の戦闘機。

「報告にない装備を積んでいますね……やはり連合の新型なのでしょうか」

通常より小さいフォルムは変わりないが、右翼左翼に乗っている砲筒と、その周りを漂う矛先だけのレーザーブレード。
軽快に飛びながら両者に割って入りつつ、敵側に攻撃を仕掛けていて。
艦長のアデスは、自分だけで解決できる案件でもなさそうなので、後ろのラウに目を向ける。

「(あの機体、もしや……)」
「……隊長?」

だが聞こえていなかったのか、考え込んで返事をしない仮面の男。
今一度呼ぶと、思考は解決したのか口元に笑みを浮かべ、アデスを見る。

「いや、大した驚異にはならんと思うが……警戒は怠るなと伝えろ」
『はっ!』

その辺のMSと同じだと思っていれば、寝首をかかれるかもしれない。
現にナメてかかっている者など少なくないだろう。

まさかストライクに乗っているのが同胞だなんて、親友と上司しか知らないのだから。

「(これは、彼に良い報告が出来そうだな)」

ただ一人ほくそ笑む、コーディネイターでも、真のナチュラルとも言えない男。

彼の心に潜む計画、特異な機体から得られた情報。
望んだエンディングのために、全てを利用しようじゃないか。

* * *

少々時間は遡り、オルカンシェルが発進してすぐの頃。

地球の引力に抵抗してしまっているし、機体の小ささもあり、他と比べてスピードが出ず遅れてしまった。

「あのうっすい青のヤツ、この前キラが返り討ちにしたやつじゃん! 装備増えてる?」

その間、既に交戦していたキラへ追い付くと、見覚えがあるような無いような同型のMSを相手していて。
確かコックピット辺りに痛手を与えていたはずなのに、パイロットは無事だったのだろうか。

「でも、だからなんだってぇのぉー!!」

アーマー諸々装備が追加され、少しごつくなった印象。
やられた復讐からか、必ず宿敵を倒すという意志が、分厚い金属越しでも伝わってくる。

だとしても、こちらがやるべきは仲間を守ること。
イスカが射出してくれたガンマを背負い、アルファを周辺に浮遊させた。
そしてブレードを主翼の表裏に重ね、デュエル目掛けて突進。

「チィッ、なんだあの黒い戦闘機は!」

鍔迫り合いをしている最中に突っ込んできたため、迎撃する余裕もなく後退して避ける。
デュエルのパイロット、イザーク・ジュールは通り過ぎた機体を画面に映した。
ただでさえ傷が疼いてイライラするのに、邪魔されたことで更に増し増し。

「イザーク、あの機体はこの前の戦闘で邪魔してきた新手です!」
「新手だと? あんなチビに何が出来るっ!」

通信が届いたニコルから注意をもらうが、今の彼には焼け石に水。
ヴェザリウスからのレーザー通信にも警戒を怠るなとあったのに、標的を置いて追いかけた。

「ストライクを倒すのに邪魔だ……さっさと消えろぉ!」
「シオンっ!!」

機動力は言わずもがな、MSが上。
あっという間に後ろへ付かれ、ビームサーベルを抜かれる。理解者のピンチを察して、キラも続いた。

「やっぱり、あの子に乗ってるやつって自信家みたいね」

背後を一瞥しつつ、ユニットの操作はせずに冷静な当の操縦士。
もうすぐそこまで迫っており、デュエルは剣を振りかざした。

その瞬間、絶望するでもなく彼女は口角を上げる。
待ってましたと言わんばかりに、脇のレバーに設置されているボタンを押し込んだ。

「なっ!?」

振り下ろされると同時に翼を畳み、底面のスラスターを緊急稼働。
一気に放出されたことで機体が跳ね上がり、サーベルは空を切る。

もちろん、ただ回避しただけでは無い。

「だから足元掬われるんだよ!!」

無重力を回転する間に頭部へ狙いを定め、レールガンを一発。

破壊出来れば万々歳だが、アンテナの端っこを吹っ飛ばすだけに終わった。

「掠っただけかー。狙いが甘かったな……」

舌打ちしつつも、さらにアルファを飛ばして追い討ちする。
しかし見切られていたのか、全ていなされた。

「こんのっ、黒チビがーー!!」

そしてパイロットの逆鱗に触れたらしく、一旦離脱しようとしている自分を執拗に追いかけて来た。
生憎アルファはまだ戻らないし、ガンマもこの向きでは避けられる可能性が高い。

先程と同じように方向転換するしか方法がないかと、グリップを握り直した時。
デュエルが映る画面に、噴射口の光が溢れた。

「キラ!」

こちらに背中を向け、攻撃を受止めているストライク。
相手をしている間に追いついてくれたようだ。

「オルカンシェルは、やらせない!」
「くっ、ストライクゥゥ!!」

キラのおかげで狙いは逸れたらしく、既に二機だけで戦闘を続けている。
ホッと息を吐き、離れながらも様子をうかがった。

「(デュエルに乗ってるやつ、一筋縄じゃいかなさそうね。あの時避けてもいたから当たらなかったんだ)」

確かに頭部をロックオンして撃ったのに。
一瞬のタイミングで機体を動かし、回避したということになる。

「(同じコーディネイターでも、やっぱ色々いるよなそりゃ……)」

自分とキラが性格も能力値も違うように、名も顔も知らぬ同胞だって違うのだろう。
結局は負けているようなもので、なんとなく複雑な気分。

「そんなことより、メネラオスはっ――」

うだうだと考えるのも煩わしく、そもそもの目的に機体を向ける。

「……ウソでしょ!?」

目視でも映像でもわかるくらいの光景に、先程までの憂鬱さは吹っ飛んだ。



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