PEACE-02【確かに君は、此処にいた】
「私が呼ぶまで中で待っていなさい。その後は自由にして構わん」
「りょーかいでーっす」
無事アークエンジェルに艦が到着し、出入口への道すがら、父は振り向かずに彼女へ伝える。
見られていないのをいいことに、左手でかるーく敬礼。
だがホフマンはしっかり見ており、逆だぞ、と注意された。
自動ドアが開くと、先頭のデュエインは歓喜を漏らす。
早速外へとんでいった二人の後、入口の横で留まり、こっそり外を窺った。
父と親しそうに話す茶髪の女性は、アークエンジェルの艦長らしい。
後ろで敬礼した黒髪の女性は、ナタル・バジルール。金髪の男性は、ムウ・ラ・フラガ。
男の方はパイロットらしく、加えて聞いたことのある声だった。
そういえば昨日の会話に割り込んできた、モビルアーマーからのチャラそうな雰囲気はこの人か、と納得する。
次に奥の若者やら整備クルーが集まる方へ向かい、若者達に家族の無事を伝えていた。
ということは彼らの内の誰かが、あのモビルスーツに乗っていた少年なのだろうと、事の次第を見つめる。
そろそろかなー、なんて思っていると、ホフマンが何やら父に耳打ちしていて。
「シオン! 来なさい」
「はーい」
次には振り返って、自分を呼ぶデュエイン。
距離は違えど、同じように床を蹴り、父の元へとんだ。
光沢のある紫の髪、金と銀のオッドアイ、軍服ではなく作業服、成人してなさそうな女性。
様々な点から一斉に注目を浴びているのに気付きつつ、慣れているので気にせずふわふわと。
「私も君達と話をしたいが、またの機会に。この子は君らと同年代でね、短い間だが、交流してやってもらえると有難い」
父の肩に手を置いて、床に足をつきながらも話は続く。
だが返事は聞かず、彼は艦長ら士官と共に移動していった。
おそらく今後の航路や編成などについての話し合いなのだろうが。
突然のことに驚いている彼らと、父の背中を見送ってからそちらに向いた少女。
ふわりと目を細め、少々歯を見せて笑った。
「突然ごめんね、あの人いつもあんな感じなの。まぁでも言ってたことは嘘じゃないから、仲良くしてもらえると嬉しいなー」
パッと見、寡黙そうな雰囲気から一点、笑い方からも明るそうな性格に感じた若者達。
とりあえず選んだ代表として、目の前の茶髪の男の子に手を差し出す。
「あたし、シオン・ハルバートン。君達は?」
「ぼ、僕はキラ・ヤマト、です」
慌てて握り返した、自分の髪より少し濃い紫瞳の彼、キラを皮切りに名前を名乗っていく。
色付きメガネの彼は、サイ・アーガイル。パーマがかった茶髪の少年は、トール・ケーニヒ。唯一の女の子は、ミリアリア・ハウ。大人しそうな黒髪の男の子は、カズイ・バスカーク。
キラ、サイ、トール、ミリアリア、カズイ、ね、と一人ずつ指差して確認し、最後に彼女は、二カリと笑顔をうかべた。
「敬語なんていらないよー、多分同年代だろうし。よろしくね、諸君!」
その後はお出迎えも終わったので、マードック曹長の一声で追い出される。
折角なのでちょっとした案内をしつつ、居住区に向かうことになった。
ただキラだけは、用事があるから先に戻るね、と告げて、皆から離れていく。
その横顔が浮かないのを、シオンは気付きつつ、指摘はしないでおいた。
行く途中にあるレクルームや食堂、何気ない話を挟みながら案内してくれる。
キラを含めて、ヘリオポリスの工業カレッジに通っていたとか、メネラオスの整備クルーとして働いているだとか。
最後に居住区へつくと、どうみても民間人が多い。
聞くと、ヘリオポリスからの救難ポットを一隻救助していたらしく、それをしたのがさっきの彼だという。
やはりあの子がMSのパイロットか、と内心合点しつつ、そうなんだ、と笑みを浮かべた。
「彼女はフレイ。俺達と同じカレッジに通ってたんだ」
彼等が寝泊まりしている集合ベットの一区に入ると、ピンクのワンピースに身を包んだ、赤紫の髪に灰眼の少女が座っていた。
サイが代表して、彼女にシオンの説明を軽くすると、こちらを見て立ち上がる。
「シオン・ハルバートンよ。よろしくね、フレイ」
「……よろしく」
手を差し出すと、一瞥してから握手してくれる。
品定めされているような、というより何故か敵視されているような視線を感じたが、意味不明だし言葉にすると面倒事になりそうなので口を噤む。
キラどこ行ったんだ? とトールが辺りを見回した頃、先程見たバジルール中尉とホフマンが連れ立って入ってきた。
「……おっと、これはおじゃま虫の予感ー。んじゃ、あたしハンガー見てくるわ! また会えたらね〜」
「じゃーねー、シオン!」
大事な話をしそうな空気を察知した彼女は、士官の横をすり抜けてサイ達に手を振る。
女の子同士という点からミリアリアと仲良くなり、振り返してくれた。
「(あんな子供を……)」
廊下を走っていく黒タンクトップにメッシーバンの後ろ姿を見つめるナタル。
同時に、先程ハルバートン閣下から伝えられた辞令を思い返す。
――この後アークエンジェルは、現状の人員編成にこちらから二名を加えて、アラスカに降りてもらわねばならん――
合流して早々、地球に降りるように彼は言った。
そこまでしなければいけないだろうかとも思ったが、上官であるマリューやムウも承諾した中、異議を唱える訳にもいかず。
何よりその後に続いた人名に耳を疑ったのは、まだ記憶に新しい。
――補充要員は、整備班から一名。もうひとりは……整備班兼MAパイロットの、シオン・ハルバートンだ――
彼はまだ年端もいかない娘を、パイロットとして派遣するのか、と。
* * *
一方、メネラオスから物資の搬入作業を進めている男性、コジロー・マードック。
アークエンジェルで一番の整備士であり、気さくで面倒見がよく頼りになる。
手元のタブレットに表示されたリストと、目の前を通り過ぎていく荷物に相違無いか確認中。
「スカイグラスパー二機!? おいおい、大気圏用の機体じゃねーかよ!」
するとコンテナの中身表記ではなく、機体の名称が記載されている項目が次に上がってくる。
地球連合の軍事企業が開発し、ストライクの大気圏内支援戦闘機としての機能も備わっており、まさに最新鋭機。
「それとこいつは……オルカンシェル? 知らねぇ機体だな……」
続いて先程の白とは打って変わり、ほとんど黒く、一回り小さい。
量産機としても綻びが多く見え、彼はちょっと心配になった。
ただ、その後に運ばれてきた「ユニット」という名称が付いた四種の外付け装備は、目を見張るものを感じたらしい。
「曹長!」
「どうしたぁ、何かあったか!?」
主な機体の搬入も終わり、再び物資の確認に戻ろうとしたマードックの耳に、慌てた部下の声がスーツ越しに響く。
まさかこんな時にザフトか、と身構えるが、相手は別の意味で驚いているらしく。
「いや、それが……オルカンシェルっていう機体の中に、人が乗ってまして……」
「……はぁ!?」
*