PEACE-06【埋められない確執:後編】
パパが死んだ。ザフトが……ううん、コーディネイターがパパを殺したの
私にとって、パパは世界の全てだった
パパは何でもくれたし、なんでも許してくれた
パパがサイを選んだから、サイと付き合うことにした
でももう、パパは居ないの。大丈夫って言ったのに、キラはパパを守ってくれなかった
絶対に……絶対に許さない。コーディネイターなんて大っ嫌い!
……でも、コーディネイターを殺せるのも、コーディネイターだけなのかもしれない
だったらキラには戦って、ザフトを倒してもらわなきゃいけないわ
戦って、戦って、戦って死ぬのよ……でなきゃ許さない!
なのに……なのにっ、この女っ!!
「……あんたのせいね、同じコーディネイターだからって何か吹き込んだんでしょ!?」
「……それコーディネイター関係ある?」
地球に降りる時、キラと一緒に出撃したシオンとかいう女
大気圏に突入してたのもあって、熱にうなされてたのに
熱に耐性でもあったみたいで、キラより先に回復してた
しかも、キラのことはあたしが見るとか言い出して、私を彼から遠ざけた
親切心からだと思ったけど、今の態度を見る限りそれだけじゃなかったみたいね
「あたしがコーディネイターだって、気づいてたんだ」
「当たり前じゃない。そんな見た目の人が、私達と同じなわけないものね」
「あっそ、そりゃどーも」
あんなに早く目を覚ましたんだから、普通の人間じゃないことくらい誰でも分かるわ
きっとサイ達だって、何も言わないけど気づいてるはずよ
例えコーディネイターで私より頭が良くても、私の計画に気付くはずない
それに、どうせこの子だけじゃ、私の計画を阻止することなんて出来やしないんだから
「あんた……私の邪魔する気?」
「邪魔? 人聞きの悪いこと言わないでくれる? あたしは君からキラを守ってんの」
「なっ、何よその言い方! まるで私が悪者みたいな――」
「違わないでしょ? キラを利用しようとしてるクセに」
な、んですって……今この子、なんて言ったの?
どうして気付かれてるのよ!?
「なっ!? んで、それを……」
「……あー、そう。やっぱり何か企んでたわけ」
私の反応を見て、にやっとした笑みを浮かべたこの女。まさか……
「っ、嵌めたわねあんた!!」
「ふん、自業自得でしょ」
鎌をかけたのね……最悪だわ!
なんなのよこいつ……キラと全然違うじゃない!
どうして思い通りにいかないの!? あたしは賭けに勝ったのに!!
なんなのよ……なんなのよもうっ!!
「とにかく……何を企んでるのかは知らないけど、キラを巻き込まないでよね」
それだけ言い残して、こいつはキラ達が歩いていった方へ向かって行った
あの女……今に見てなさい。絶対に、後悔させてやる。
* * *
「あ、シオンー!」
「イスカ、何で外にいるの?」
小走りでキラの部屋前まで急ぐと、何故か扉横の壁に背を預けた黒赤の少女がいた。
親友を見つけた途端、大きく手を振ってくれる。
「キラ、シャワー浴びに行ったから、外で待ってたのー」
「なるほど、そういうこと」
事情を聞くと、今まで医務室に缶詰めだった為、身体を拭くことすら叶わなった。
イスカの返答に、そういえば自分も着替えただけだったと思い出す。
「にしても早かったねー。もう点検終わったのー?」
「あー、実はまだなの。キラに渡してほしいものがあるって整備班の人に言われて、先にこっちへ来たのよ」
腰まで下げたツナギのお尻ポケットに、先程の紙花を差している。
目の前の少女に見えるよう、身体をひねらせた。
おぉー、ユリだー! と目をキラキラさせるイスカ。
「なるほど! じゃあイスカが先に点検始めとくよー!」
「え? そりゃあ助かるけど、いいの?」
「うん! さっきもいっぱいお話したし、キラとはまたお話するからだいじょーぶ!」
しゅばっと片手を掲げ、元気よく提案する。
完全に同じではないにしろ、自分と近い人種の友達は彼で二人目。
虚勢でもなんでもなく、純粋に楽しかったという笑顔。
「あははっ、そっか、分かった。じゃあオルカンシェルのこと、しばらくよろしくね」
「うん! じゃーねー!」
ここまで言われれば、無下にはできない。
医務室にいる間、メンテナンスでチェックする箇所をメモに纏めて、保存しておいた。
元々イスカにはパスコードも教えてあるので、ノーパソを渡しておく。
ニコニコしてぶんぶんと手を振った彼女に振り返して、ドアに向き直った。
「……中で待ってるか」
お邪魔しまーす、と一応断ってから入室。
もちろん誰もおらず、少々興味本位に部屋を見渡した。
「あ、トリィ! おいでー」
すると、すぐ近くの机にいたロボット鳥を見つけ、名前を呼ぶ。
ぱたぱたと空を飛び、曲げた指へ留まってくれた。
「はぁ〜、やっぱり可愛いねぇトリィ」
初めて見た時から、素晴らしい技術で造られた子だと思っていた。
本物の鳥と殆ど同じ造形、仕草、可愛らしい鳴き声。
といっても、記憶上は映像データで見た小鳥と比べればの話だが、それでも賞賛するべきだろう。
「キミを造ったのはキラ? それとも、手先の器用な誰か?」
ベッドに座り、ちょんちょんと指で頭を撫でてあげる。
誰にでもなく零した問いに、トリィ? と首を傾げた鉄の鳥。
思考が深くなる前、空気の抜ける音が左側から耳に届く。
「……えっ、シオン!?」
「あ、キラ。おかえりー」
制服を羽織ってはいるが、タオルを頭に置き、頬が赤い部屋の主が戻ってきた。
その赤みが、風呂上がり故の理由だけかは露知らず。
「な、なんでここに……イスカ、は?」
「あたしが君に用が出来たから、代わりにオルカンシェルの点検頼んだんだ」
ガシガシと濡れた髪を拭きながら、帰ってきた時居なかった少女の所在を問う。
心做しか視線は泳いでいたが、自分への用事と聞いて、僕に? と首を傾げた。
「と、その前に……あたしもシャワー浴びてくるわ。汗臭いだろうし」
だが、彼のさっぱりした様子を見て我慢できなくなったシオンは、トリィを宙に放って立ち上がる。
途中、これ渡しとくね! あ、不用意に扉開けちゃダメよ、と有無を言わさず届け物を押し付け、風のように去っていった。
「……君からは、良いにおいしかしないけどな」
渡された紙百合を見つめ、肩に乗ってきたトリィを一瞥してから、ひとり呟いた。
*