PEACE-06【埋められない確執:後編】




思わぬ人物に話しかけられはしたものの、その後は予定通りハンガーへ到着。

人数は少ないものの、充分に賑わっていた。

「お? お嬢じゃねーか! 身体は大丈夫なのか?」
「コジローさん! はい、もうすっかり本調子です!」

遠方に見える黒に向かう途中、白い戦闘機の傍に立っていたマードック曹長に声を掛けられる。
早速名前呼びしているが、指摘されることもなく、わしわしと頭を撫でられた。

父とはまた違う撫でられ方に、色んな感情が湧き出そうになるが、ぐっと堪える。

「よぉ、お嬢。あの後しっかり休めたみたいだな」
「フラガ大尉! 昨日はありがとうございました」

すると、いずれ乗ることになるであろう機体を見に来ていたムウとも再会。
彼が気を利かせてくれなければ、あの現場はもっとこじれていただろう。

「気にすんな。それと、もう大尉じゃなくて少佐だからな」
「えっ、いつの間に出世したんですか! 大尉って呼び慣れてたのに……」

意識をなくしたり、休養している間に様々な変化があった。

まず今いるこの砂漠は、ザフトの聖域圏内。
いつ敵にバレて攻撃されてもおかしくない場所ということ。

次に、亡きハルバートン提督の計らいで、ほとんどの乗組員が昇進したこと。
戦時中ではあまり関係ないだろうが、上がらないよりは良いことだと思う。

「じゃあ戦闘の時以外はムウさんって呼んでいいですか?」
「そのくらい構わねぇよ。因みにおまえは元々少尉だったから変わってねぇぞ」
「え、なにそれ……まぁいいですけど」

折角なので、本人に名前呼びを許可してもらった。
そしてあまり聞きたくなかった事実。自分は現状維持だそうで。

ほんの少しだけ、心に疑惑が染みる。
だが何かの間違いだろうと考え直し、会話も程々にして愛機へ向かった。

「さーって、点検始めるかー」

一度伸びをした後、まずはオルカンシェルに触れようとした。

「おーいお嬢!」

が、それを邪魔するかのように声を掛けられる。
若干苛立ちが顔に出つつ、溜息で濁らせてから振り返った。

「はーい、なんですか?」
「これ、あの坊主……ヤマト少尉に渡してくれないか? コックピットに置いてたんだ」
「あぁ、はい。わかりました」

まだ名前も知らない若そうな整備班の男が、こちらに近付いてきて手を差し出す。
その上には、色付き紙で折られた花が乗っていた。

戦場を翔ける機体に乗るパイロットは、操縦席に私物を置く人間が多い。
地球軍に限らずザフトでも、それ以外でも。
ある者は家族や大切な人の写真、ある者は自らしか認識できない御守り、ある者はジンクスを払拭するアイテム等。

シオンにとっては、失われた記憶の鍵でもあるノートPC。
オルカンシェルやユニットの設計図以外に今の所手がかりは無いが、実はいくつか開けられないファイルがあるのだ。
いつ何時、解放される日が来るかもしれないので、できるだけ持ち歩いている。

それはさておき、受け取らない訳にもいかず、彼女の左手には一輪のユリ。

「……先に渡しに行くか」

茎部分を指で挟み、くるくる回しながら考える。
作業中に無くしたりしても悪いので、結局点検は後回しにすることにした。

* * *

すっかり跳び……いや、歩き慣れた艦内を進む。
おそらくもうキラの部屋に送り終わっているだろうと思い、入れ違いにならないか心配になった所。

「だから、あんたには用がないって言ってるでしょ!?」
「やだー! キラを守るのはイスカの役目だもん!」

キーキーと耳に響く高い声。
どうやら女同士で言い争いをしているらしいが、それが誰なのか独特の一人称で察する。

「守るってなによ! 私は別に……」
「別に、何?」

危惧していた通り、外に出た途端に絡んできた赤紫髪の少女、フレイ・アルスター。
可愛い顔をしている割に、特にコーディネイターに対して態度がキツい。
おそらくそれは、亡き父の影響なのだろう。

「お嬢!」
「シオン……」

第三者の声に驚いて、振り返る彼女。
奥ではキラを守るように、イスカが立っている。そのまた奥では、心配そうな彼。

まさか戻ってくるとは思っていなかったのだろう。
未だに固まったままのフレイを一瞥しながら通り過ぎる。

「イスカ、ここはあたしに任せて。キラのこと、引き続きよろしく」
「あいさー!」

親友に耳打ちしていると、後ろの少年と目が合った。
安心させるために微笑んだら、少し驚いた後、頷く。

行こ、キラ! とイスカに腕を引っ張られるまま、うん、と一緒に踵を返す二人。

「あっ、キラ……」
「……ごめん、フレイ」

やっと復活した彼女だったが、視線が最後まで交わることはなく。

残ったのは同系色を宿す、ナチュラルとコーディネイターのみ。



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