PEACE-05【埋められない確執:前編】
ご飯も食べ終わり、することもないのでイスカが持ってきてくれていたPCを起動するシオン。
同じくやることがないというか、おそらく外出許可も出ていないだろうから医務室を出れないキラは、彼女の隣に移動して座る。
雑談程度に色々話をする中、昨日彼が寝ている間に起きたことを話し始めた。
目を覚ましたら、名前も知らない医者がコーディネイター云々ねちねち話していて。
頭も痛くてイライラしてしまったので、その場にいた人間をまとめて出て行かせた。
「そうだったんだ……とにかくみんな、無事なんだね」
「あたしが見た人的には、元気そうだったよ。でもごめんね、フレイまで出ていってもらって……」
「え、フレイ?」
指でトリィと遊ぶキラは、突然出た知り合いの名前に視線を向ける。
「え? だって二人、付き合ってるんじゃないの?」
降下作戦で出撃する前、イスカから聞いていたのは、キラから‘甘い香り’がしたという件。
それと同じであろう香りが、フレイに近付いた時にしたのである。
つまり二人は、そんじょそこらの関係ではないのだと踏んだのだ。
「……えぇっ!? 僕とフレイは付き合ってないよ! フレイだってそんなつもりは、無いと、思う……」
二拍くらいの間の後、顔を真っ赤にしながら否定する彼。
だが自分の言っていることに疑問があるのか、どんどん尻すぼみしていく。
「なんで曖昧なのよ」
「いや、その……実は……――」
事の発端は、地球へ降下する直前。
シャトルに乗らず、ストライクで出撃することを決めたあの日。
「フレイにキスされた〜? 告っても告られてもないのに?」
「……うん」
パイロットスーツを保管しているロッカールームに向かうと、自分のロッカーの前で思い詰めた顔をしているフレイがいた。
声を掛けると何故か抱きつかれ、おそらくエールのつもりだろう、口付けされる。
「……その様子だと、満更でもなかった?」
「えっ、なんで……」
「だって可愛い女の子に迫られたら、男は誰でも嬉しいんじゃないの?」
話している様子から、迷惑そうな感じではなく。むしろなんだか嬉しそうな気がする。
そもそもキラが、フレイに好意を寄せているのをシオンは知らない。
なのに気付いた点は、女の勘みたいなものかと。
彼女の推察は外れていなかったのか、視線を逸らして黙り込んでしまう青年。
「まぁでも、キラには悪いけどさ……フレイにはあんまり近付かないほうがいいと思うよ」
タンッとEnterキーを押したのを皮切りに。
パソコンを閉じてから、真剣な表情で彼を見る。
「え……どうして?」
「君の友達は、君がコーディネイターだって知ってるのに仲良いよね。でも、フレイは違う……そうよね?」
「……うん。彼女とは違う学部だったし、この前の先遣隊が来た時に……僕がお父さんを、守れなかったから」
ラクス・クラインと接触した時も、父親の乗る艦がザフトの攻撃で駆逐された時も。
明らかにコーディネイターを差別する言葉を浴びせていたらしい。
らしいというのは、その話をこっそり教えてくれたサイに、他に人がいたので全貌を聞けなかったから。
因みに彼女とイスカの人種をこの中で把握しているナチュラルは、上官達と察したサイのみ。
でも、言い過ぎたって謝ってくれたよ? と首を傾げながら擁護するキラ。
本当に本心から謝罪したのか、裏があったのかは定かではないが、あんなことを言われた傷は中々深いはず。
キラ・ヤマトは、優しすぎるのだ。
「そりゃあ、あたしだって反省して優しくなったフレイと仲良くなりたいよ? でも、あの子と初めて会った時……」
コーディネイターだと気付いたのかは分からない。
だがあれは、自分の邪魔をする奴は許さないという顔だった。
「……シオン?」
「……なんでもない。とにかくこれはあたしの個人的な見解だから、どうするかはキラが決めなよ?」
本当は、そういう時は何か企んでる人間が多いとも伝えようと思ったが、優しい彼に言うのは心苦しいのでやめておく。
それに確定した訳でもないため、判断は本人に任せることにした。
「……うん、わかった。シオンの言う通りにしてみるよ」
もうちょっと悩むのかと思ったが、意外にもすぐ返事を出した。
「え、あー……そう、うん」
驚きと若干疑いもあったが、そういう性格なのか? と心中で思いながら、ありがとね、とお礼を言っておく。
何故素直に言うことを聞くようになったのか、いずれその理由は想いとなって明かされるだろう。
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