PEACE-04【地球降下作戦:後編】




「イザーク達、無事に地球へ降りたそうです」

足つきを追って、地球が見守る中で決行された奇襲作戦

こちらにも犠牲者は出しつつ、結局は仕留めることが出来ませんでした
同期のイザークとディアッカは一緒に落ちてしまったものの、機体の性能のお陰か、命に別状はないと聞いています

アスランと僕はヴェザリウスに戻り、一度帰投の運びになりました
隊長も委員会に呼び出されてしまいましたし、なんだか不安を感じます
アスランもそうじゃないのかと思って、話していたのですが……

「……アスラン?」
「あぁ、いや……とにかく、心配はないさ。この帰投も、なにか別の作戦に関することのようだから」

さっきから上の空で、どうやら他に気がかりなことがあるようです
悩み事があるなら全然相談に乗りますけど、今は話してくれそうにない気がした

「僕、ちょっとブリッツ見てきます」

チューニングもしたかったので、ルームを退室する前に振り返る
なんら様子は変わることなく、僕はデッキへ降りることにした


メンテナンスベッドに寝転ぶ僕の乗機、ブリッツ
黒いボディが特徴的なこの機体を初めて見た時、“彼女”の笑顔が真っ先に浮かんだ

――黒が好きな理由? 単純にオルカの色だからかな。自然に選んじゃうんだよね〜――

オルカというのは、地球の海にいるという海獣、シャチの別名で、彼女が一番好きな動物だそうです
聞いた話によると、黒くて、ツヤツヤしていて、可愛いとか
その関係から普段着のほとんどもそうですし、いつも持ち歩いていたノートパソコン
時折参加するパーティーで着るドレスも、黒を基調としていたものが多かったですね

彼女は僕よりふたつ年上で、楽器は違えど同じ音楽を志す人でした
僕がピアノ、彼女がバイオリンで、何度かセッションしたこともあります

何故パーティーに参加するかというと、演奏者としてがひとつ
もうひとつは、彼女の母親がユニウス市の当時の代表で、評議会議員の一人だから


彼女はもう、この世にはいない
一年前の今日、ご両親共々行方不明となってしまったから。

――ねーニコル、あたしと君で演奏できる曲、作らない?――

……そういえば、彼女から新曲を提案されていたんでした
僕が作曲して、彼女が作詞する予定だった二重奏
ほとんど完成に近かったけど、あんな事件があってからはアカデミーに入ったのもあって、そのままでした

――僕が作曲していいんですか?――
――うん! あたしそういうの向いてないし、ニコルなら良い曲作ってくれるって信じてるからさ!――

彼女にもう二度と会えないなんて、あの時は思いもしませんでした
ナチュラルを憎んでいないといえば、嘘になります
でももし、彼女が僕と同じ立場なら、命を軽んじることはしないと思ってます
だから僕も、その気持ちを忘れたくない……イザークとディアッカは、相当憎んでるみたいですけどね


それにしても、あの新手の戦闘機……彼女が好みそうなカラーリングでしたね
僕は一度も見た事ありませんが、彼女が子供の頃から造り続けていた機体も、戦闘機タイプだったとディアッカが言っていましたね

なんだか……引っかかるな。

* * *

第八艦隊全てを犠牲にして、アークエンジェルと避難シャトルは生き延びる。

これで終わりかと思われたが、クルーゼ隊との因縁は、どこまでも絡みつく。

そのイバラは、心に眠る真実を辿って。


――こうして、ギリギリの戦闘は幕を閉じた。

次の幕開けは、少しずつ芽生えた絆。



*
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