PEACE-04【地球降下作戦:後編】




ストライク、メビウス・ゼロ、オルカンシェルの三機に、それぞれのパイロットが搭乗してまもなくの頃。

「アークエンジェル、降下開始!」

ハルバートンの号令で、第八艦隊は一丸となって動き始める。
形勢は明らかにこちらが不利だし、そもそも対抗戦力がほとんど残っていない。

それでも、たとえ宇宙の塵となっても、世界が平和になることを祈って。

「追い込め! 降下する前に、なんとしても仕留めるのだ!」

ついに足つきが動いたと思えば、こちらに向かってくることは無かった。みすみす逃がすという選択肢はありえない。
隊長のクルーゼを筆頭に、アスラン達ザフトレッドも目標を変える。

その味方領域で、一隻のローラシア級が突出していた。


一方、外空間の激闘を感じさせないランチでは。

ある者は瞳を閉じて集中、ある者は少女に貰った折り紙の花を差し、ある者は手を振る親友にウインクしてサムズアップ。
それぞれに思いを馳せて、来たるべき戦闘に備える。

みなで生き残るため、守るため、死なせないため。

「デュエル、バスター、先陣隊列を突破。メネラオスが応戦中!」

覚悟はしている。だがほんの少しくらいは、危険な目にあいたくない。
それでも期待は外れ、こちらの旗艦にまで攻めてきたという。

「父さん……」

そこまで邪魔をするのか、今すぐ飛び出したい、無事でいてほしい。
無意識に願いが込められた呟きが零れる。

「フラガ大尉!」
「あぁ、分かってる。艦長!」

通信で聞こえる声に察してくれたのか、キラがムウの名を呼ぶ。
気持ちは同じらしく、代表してブリッジのマリューに繋げた。

「ギリギリまで俺達三人を出せ! 何分ある?」
「何をバカな……三人!?」

大気圏突入まで残り間もない状況に、自殺行為の発言。
だがそれは、自分も望んでいたこと。画面越しに心中で感謝を述べる。

加えて、艦長としては容易に許可できないことよりも、人数が多いことに気付く。

「カタログスペックでは、ストライクは単体でも降下可能です!」
「キラ君っ……どうしてあなた、そこにっ?」

中央席に備えつけられたモニターの端に映る、水色のスーツに身を包む茶髪の少年。
数時間前に別れの挨拶をしたはずの彼が、確かに居るのだ。

「言いたいことは分かりますけど、このままじゃメネラオスも危ないんです! キラにはあたしから言い聞かせたんで、出撃許可くださーい!」

ブリッジ内でも波紋が広がる中、復活したこちらも畳み掛けて申請する。
実際、頬を引っ張ってまで無理するなと伝えたのはシオン。
その時の痛さを思い出したのか、苦笑いを浮かべる画面越しのキラ。

「分かった。ただし、フェイズIIIまでに戻れ! スペック上は大丈夫でも、やった人間はいないんだ。中がどうなるかは知らないぞ!」

未だに固まっているマリューに代わり、副長が通信を続けた。

こんな時でも冷静に対処出来る彼女は、賞賛に値する。
たとえそれが、死への階段を上がる手助けだとしても。

「高度とタイムは常に注意しろ!」
「はい!」

的確な指示を貰ってから、ブリッジとの通信を切る。
最後に二人へ手を振って、機体同士のものも終わらせた。

少しして、オルカンシェルのコックピットに電子音が響く。

「出撃許可出たぞ! ストライクとメビウスを先に送るから、オルカンシェルはストライクの次に出てくれ!」
「了解でっす、マードック曹長!」

既にキラ達はカタパルトまで移送され、いよいよ自機を乗せた昇降機も動き出す。
指示をくれたコジローに軽い敬礼をしてから、鉄壁の景色を見渡す。

アークエンジェルから宇宙に出るのは初めてで、少し緊張してきた所に、再度の呼び出し。

「お嬢、ユニットの選別かんりょー! アルファとガンマでどうかな? 初戦闘でいきなり二つはどーかと思ったけど、そんなこと言ってる場合じゃないし、多いに越したことないしね!」
「オッケー、問題なし。どうせ最初で最後の戦闘になるんだし、二つ同時くらいどうってことないわ!」

相手はイスカからで、追加装備をどれにするかと、いつ出すかを任せていた話についてだった。

シオンの持つ黒いノートパソコンの内蔵データには、オルカンシェルの設計図と、ユニットと名付けられた追加装備の設計図、その他ファイルやソフトウェア等がある。
ユニットを完成させられたのは、メネラオス整備班のお陰であり、設計図通りに完璧。
記憶がないため理想通りかは分からないが、少なくとも彼女は満足だった。

種類はアルファ、ベータ、ガンマ、デルタの四種類で、それぞれアタック、ブースト、ガンナー、ディフェンダーの特徴を持つ。
つまりはオルカンシェルとユニットの操縦を同時に行わなければならないのだが、シオンにとっては朝飯前。
コーディネイターだからではなく、元々から左右で違う動きが出来る能力が常人より高かったので。

「あ、そうだお嬢。あのね……」
「ん、何?」

あと少しで射出機に到達する前、思い出したように話を切り出すイスカ。

内容としては些細なもの……この時は、まだ。

「ごめんね、時間とっちゃった」
「気にしないでよ、頭に入れとくから。じゃあ行ってくるね!」
「うん! 行ってらっしゃい、シオンー!」

ガシャンと響いた振動を皮切りに、笑顔の親友に手を振り返してバイザーを落とす。
滑走路を照らすライトと、その先にある青い星から、これから自分は命懸けの大気圏へ飛び出すのだと改めて自覚した。
一度だけ深呼吸をして、グリップに力を込める。開かれた瞼の奥、金と銀の双眼に、迷いはない。

時間が無いためガイダンスはとばし、三つのクリアが電光掲示板に表示された。

「シオン・ハルバートン。オルカンシェル、GO!」

スラスター全開、火花を散らして機体は走る。
ふわりと宇宙に投げ出されつつ、主翼を広げて真上に方向転換。

目指すべきは今度こそ、本当の戦場。
たとえ相手が、名前も顔も知らない同胞だとしても。



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