◆しっぽやプチ話◆
勝負の行方・2
side<KUROYA>
僕と大麻生が飼い主の希望により行っていた『捜索勝負』の行方が、混迷の様相を呈(てい)してきた。
捜索件数や捜索時間を競うと言うならば分かりやすいのだが、ウラの言葉によると『どちらが格好良いのか』が判断基準になるようだ。
ウラにはきっぱりと『大麻生の勝ち』と言われてしまった。
『僕なりに頑張ってはいるんだけど…
まあ、ウラに良いとこ見せようとはしてないから、しょうがない…のか…な?』
事務所から影森マンションの部屋に帰り夕飯を食べた後、お茶を飲みながら僕は昼のことを思い出していた。
『日野は、どう思っているのだろう』
急にそのことが心配になり、スマホを取り出すと事の顛末をメールする。
日野からの返信は直ぐに来てくれた。
『ウラの奴、そんなこと言い出したの?
確かに黒谷と大麻生、どっちが強いかって話が発端でそれが捜索勝負みたいな話に流れていったけどさ
格好良いなら、断然、黒谷じゃないか
黒谷は日本人好みの和風イケメンなんだよ?
大麻生みたいなソース顔のイケメンより、今時貴重な存在なんだって俺がウラにガツンと言ってやるから
次のバイトの日を楽しみにしてて!
黒谷は誰よりも格好良いし、頼りになるよ
俺の犬なんだから、他の飼い主の言うことは話半分に聞いとけばいいって
黒谷、大好き』
飼い主からの喜ばしいメールに、僕の不安は一気に吹き飛んでいった。
『日野が来てくださる日を、楽しみに待ってます
僕も、お慕いしております』
僕も直ぐに返事を返す。
「さて、明日も捜索を頑張るか」
もはや勝負になっているかどうかあやふやではあったが、日野は僕が外回りをすることを誉めてくださる。
勝敗は、それだで十分な気がするのであった。
日野がバイトに来てくれた日は、ウラの他に荒木も居た。
タケぽんも来る予定であったのだが
「何かあいつ、黒谷と大麻生の勝負の判定頼むって言ったら『腹が痛くなってきたから今日は休む』とか言い出してさ
どうせ、甘い物の食い過ぎだろ」
日野は憮然とした顔をしていた。
「ちっ、逃げられたか」
ウラも顔をしかめている。
「白久は勝負事、なんてしなくても良いんだからね
白久が頑張ってるの、俺はちゃんと知ってるよ」
荒木に頭を撫でられて、白久は幸せそうな顔になっていた。
「じゃあ、荒木に判定頼むか
黒谷と大麻生、どっちが格好良いと思う?
やっぱ、今の流行は和犬だよな」
日野の言葉を受け
「いやいや、いつの時代でも頼れる正義の味方的シェパード、マジ格好良くね?
強面で甘えてくるとか、ギャップ萌の極みだし」
ウラも負けじと荒木に詰め寄っていた。
「え?あれ?黒谷と大麻生って、捜索勝負してたんじゃないの?
そう思って、ここ最近の2人の捜索状況プリントアウトしといたんだけど」
荒木は戸惑った顔を見せる。
「捜索勝負だと、判定基準に不公平が出ることに気が付いてさ
そもそも、格好良さとか強さとか、やっぱ黒谷が上だよな
甲斐犬って国の天然記念物でもあるし、醤油顔の和風イケメンって貴重だぜ」
「ソウちゃんはソース顔の正統派イケメンの上、肉体美もバッチリ!
そこらのモデルなんて、裸足で逃げ出すっての
正式な訓練受けてるから、能力的にもここじゃ1番優れてるしな」
2人に畳みかけられた荒木は考え込みながら
「待って、イケメンって言うなら白久しかありえないよ
秋田犬だって国の天然記念物で、今は癒しの時代だし、はんなり系の白久が1番じゃない?
まあちょっと、調味料的な例え方思いつかないけど」
そんなことを言い出した。
「白久?」
「調味料?」
日野とウラは白久を見つめ、同時に
「「和三盆?」」
そう呟いた。
「え?何それ?てか、何でお前達、息ピッタリなの?」
荒木は驚いた顔で2人を見比べている。
「あれの干菓子とか婆ちゃんが貰ってきたりするけど、子供の口にはあわないよな
口の中の水分、一気に持ってかれる」
「わかる、お盆になると爺ちゃんが干菓子買ってくるのが正直ありがたくなかった
高級砂糖って言われても、子供には安いクリームの方が良いっつの
しかし、荒木少年って本当に渋いな
これじゃ公平な判定にならないじゃん」
「じゃあ、ゲンさんにでも頼む?
でも、ゲンさんって筋金入りの猫派だっけ」
「犬派でも、カズハ先輩は論外だぜ
新郷飼ってるけど桜ちゃんは基本、犬嫌いだしなー」
荒木を余所に、日野とウラは悩み始めていた。
「捜索勝負じゃなくイケメン勝負なら、白久も参戦するよ
だって、立ってるだけで勝ちじゃん
優しくて料理上手くて格好良いって、完璧!」
荒木が拳を握って力説する。
「黒谷」「ソウちゃん」「「だって料理上手いし」」
また、同時に日野とウラが叫んでいた。
飼い主たちの話は、どんどん取り留めが無くなっていく。
「これは何の話なのでしょうか」
「何を競えば良いのか、ますます分からなくなっている気が…
と言うか、これは何かを競っている状況なのだろうか」
戸惑っている白久と大麻生に
「まあ、良いじゃないか
僕達飼い主にさんざん『格好いい』って誉められてるんだから」
そう答えると、2人は顔を見合わせ幸せそうな顔で頷くのであった。
side<KUROYA>
僕と大麻生が飼い主の希望により行っていた『捜索勝負』の行方が、混迷の様相を呈(てい)してきた。
捜索件数や捜索時間を競うと言うならば分かりやすいのだが、ウラの言葉によると『どちらが格好良いのか』が判断基準になるようだ。
ウラにはきっぱりと『大麻生の勝ち』と言われてしまった。
『僕なりに頑張ってはいるんだけど…
まあ、ウラに良いとこ見せようとはしてないから、しょうがない…のか…な?』
事務所から影森マンションの部屋に帰り夕飯を食べた後、お茶を飲みながら僕は昼のことを思い出していた。
『日野は、どう思っているのだろう』
急にそのことが心配になり、スマホを取り出すと事の顛末をメールする。
日野からの返信は直ぐに来てくれた。
『ウラの奴、そんなこと言い出したの?
確かに黒谷と大麻生、どっちが強いかって話が発端でそれが捜索勝負みたいな話に流れていったけどさ
格好良いなら、断然、黒谷じゃないか
黒谷は日本人好みの和風イケメンなんだよ?
大麻生みたいなソース顔のイケメンより、今時貴重な存在なんだって俺がウラにガツンと言ってやるから
次のバイトの日を楽しみにしてて!
黒谷は誰よりも格好良いし、頼りになるよ
俺の犬なんだから、他の飼い主の言うことは話半分に聞いとけばいいって
黒谷、大好き』
飼い主からの喜ばしいメールに、僕の不安は一気に吹き飛んでいった。
『日野が来てくださる日を、楽しみに待ってます
僕も、お慕いしております』
僕も直ぐに返事を返す。
「さて、明日も捜索を頑張るか」
もはや勝負になっているかどうかあやふやではあったが、日野は僕が外回りをすることを誉めてくださる。
勝敗は、それだで十分な気がするのであった。
日野がバイトに来てくれた日は、ウラの他に荒木も居た。
タケぽんも来る予定であったのだが
「何かあいつ、黒谷と大麻生の勝負の判定頼むって言ったら『腹が痛くなってきたから今日は休む』とか言い出してさ
どうせ、甘い物の食い過ぎだろ」
日野は憮然とした顔をしていた。
「ちっ、逃げられたか」
ウラも顔をしかめている。
「白久は勝負事、なんてしなくても良いんだからね
白久が頑張ってるの、俺はちゃんと知ってるよ」
荒木に頭を撫でられて、白久は幸せそうな顔になっていた。
「じゃあ、荒木に判定頼むか
黒谷と大麻生、どっちが格好良いと思う?
やっぱ、今の流行は和犬だよな」
日野の言葉を受け
「いやいや、いつの時代でも頼れる正義の味方的シェパード、マジ格好良くね?
強面で甘えてくるとか、ギャップ萌の極みだし」
ウラも負けじと荒木に詰め寄っていた。
「え?あれ?黒谷と大麻生って、捜索勝負してたんじゃないの?
そう思って、ここ最近の2人の捜索状況プリントアウトしといたんだけど」
荒木は戸惑った顔を見せる。
「捜索勝負だと、判定基準に不公平が出ることに気が付いてさ
そもそも、格好良さとか強さとか、やっぱ黒谷が上だよな
甲斐犬って国の天然記念物でもあるし、醤油顔の和風イケメンって貴重だぜ」
「ソウちゃんはソース顔の正統派イケメンの上、肉体美もバッチリ!
そこらのモデルなんて、裸足で逃げ出すっての
正式な訓練受けてるから、能力的にもここじゃ1番優れてるしな」
2人に畳みかけられた荒木は考え込みながら
「待って、イケメンって言うなら白久しかありえないよ
秋田犬だって国の天然記念物で、今は癒しの時代だし、はんなり系の白久が1番じゃない?
まあちょっと、調味料的な例え方思いつかないけど」
そんなことを言い出した。
「白久?」
「調味料?」
日野とウラは白久を見つめ、同時に
「「和三盆?」」
そう呟いた。
「え?何それ?てか、何でお前達、息ピッタリなの?」
荒木は驚いた顔で2人を見比べている。
「あれの干菓子とか婆ちゃんが貰ってきたりするけど、子供の口にはあわないよな
口の中の水分、一気に持ってかれる」
「わかる、お盆になると爺ちゃんが干菓子買ってくるのが正直ありがたくなかった
高級砂糖って言われても、子供には安いクリームの方が良いっつの
しかし、荒木少年って本当に渋いな
これじゃ公平な判定にならないじゃん」
「じゃあ、ゲンさんにでも頼む?
でも、ゲンさんって筋金入りの猫派だっけ」
「犬派でも、カズハ先輩は論外だぜ
新郷飼ってるけど桜ちゃんは基本、犬嫌いだしなー」
荒木を余所に、日野とウラは悩み始めていた。
「捜索勝負じゃなくイケメン勝負なら、白久も参戦するよ
だって、立ってるだけで勝ちじゃん
優しくて料理上手くて格好良いって、完璧!」
荒木が拳を握って力説する。
「黒谷」「ソウちゃん」「「だって料理上手いし」」
また、同時に日野とウラが叫んでいた。
飼い主たちの話は、どんどん取り留めが無くなっていく。
「これは何の話なのでしょうか」
「何を競えば良いのか、ますます分からなくなっている気が…
と言うか、これは何かを競っている状況なのだろうか」
戸惑っている白久と大麻生に
「まあ、良いじゃないか
僕達飼い主にさんざん『格好いい』って誉められてるんだから」
そう答えると、2人は顔を見合わせ幸せそうな顔で頷くのであった。