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◆しっぽやプチ話◆

side<OOASOU>

「ところで僕達、どっちが勝ってるんだろうね」
しっぽや事務所で待機中、所長席に座る黒谷がそんなことを問いかけてきた。
お互いの飼い主であるウラと日野の希望により、自分と黒谷は捜索状況を競い合っていたのだ。
「どうなのでしょう
 そもそも勝負の基準が曖昧で、正直よく分からないと言うか」
「うん、最初は件数勝負、みたいな感じだったけどさ
 流石に所長が所員並に事務所にいないのはまずいって日野が言い出したから、捜索時間にも気を使うようになって
 今では件数を競えばいいのか捜索時間を競えば良いのか、曖昧だもんね
 短時間で多くの依頼をこなすのがベストなんだろうけど」
黒谷は腕組みしながら首をひねっている。

「ただ、自分としては競い合うような『ライバル』が居た方がやりがいがある気がします
 白久は以前よりは頑張っていますが、どこかのらりくらりとしていると言うか…
 空ではやり方が違いすぎて、勝負をしているという気にならないし
 『黒谷に負けないように』と思いながらの捜索が、1番自分には性に合っているようです」
「元警察犬の勝負相手に認められるなんて、光栄だよ」
自分の言葉に黒谷は笑顔を見せてくれた。

「こないだみたいに、同じ依頼を皆で捜索するっていうのは勝負に含まれるのかな
 あの時は緊急性があったから、イレギュラーな捜索になっちゃったんだよね」
黒谷は首を捻って考え込む表情になる。
「依頼はムスと弟君(おとうとぎみ)の捜索でしたから、礼二君を発見した黒谷が勝ちなのでは?」
「うちはペット探偵だから、犬の捜索の方が優先なんじゃないかと思うんだけど
 ムスに気が付いたのは君の方が先だよ」
「甲斐犬の子犬に気が付いたのは、黒谷が先です
 自分には薄い気配にしか感じられませんでした」
「でも、あの子は家を探して欲しいとか、依頼のあった子じゃないからなー
 もし依頼されてたら、最終的に子犬の家を発見した日野が勝ったことになってたのかもね」
黒谷は可笑しそうにクスクス笑っていた。

「人間がしっぽやの捜索に加わるなんて、凄い時代になりましたね
 タケぽんのような能力が無くても、捜索の手助けが出来るとは思ってもみませんでした」
自分はあの時の日野の行動に感心しきりであった。
「凄いだろう?日野はとても聡明な方だから
 しっぽやは素晴らしい飼い主のおかげで、良い方向に変わっていってるよ」
黒谷は誇らかに頷いて、笑顔を見せる。
「そうですね、お医者様の健康診断を受けられたり、影森マンションを建てていただいたり
 化生したときも自分の状態に驚きましたが、ここでの状況の変化には本当に驚かされます」
自分は感嘆の息を吐きながら
『しかし、1番の驚きは、ウラに飼い犬として受け入れられたことだ』
そんなことを感じていた。

「あ」
飼い主が近くまで来た喜びの気配に、自分の心が浮き立った。
今日のウラは昼までペットショップでバイトをし、その後は業務終了までしっぽやのバイトになっている。
「せっかくなので、ウラに勝負の経過報告と今後の指針を聞いてみます」
そわそわしながら扉に近付く自分を、黒谷は笑顔で見つめてくれた。


控え室で飼い主と一緒に遅いランチを楽しむ時間は、格別である。
ウラは昼ご飯にと、牛丼弁当を買ってきてくれていた。
「余分に買ってきたから、誰か食べる?」
と言うウラの誘いを受け、黒谷も一緒に食べることになった。
「やっぱ、牛丼の時はお茶なんだよなー
 今日の仕事はお茶汲みなんて、何かOLっぽくね?」
ウラは楽しそうに笑いながらお茶の準備をしてくれる。

「ウラ、自分と黒谷の捜索勝負、どちらが勝っていることになるのでしょうか」
牛丼を食べながらそう問いかけると
「うーん、難しい質問だ」
ウラも首を捻ってしまう。
「本当はさ、ソウちゃんと黒谷、どっちが強いかって話だったんだけどね
 ガチで喧嘩させる訳にもいかないし
 しっぽやでの優劣決めるなら、やっぱ捜索件数かなーって
 でもソウちゃんと黒谷だと立場が違うから、件数だと公平な勝負にならないって日野ちゃんが言うのも確かに、とか思ってさ
 結局、どっちが格好いいかってことだから、これって俺的には断然ソウちゃんの勝ちだと思うんだけど」
ウラは頬を膨らませる。
飼い主に誉められて、自分は口角が上がってしまった。

「あの、それは出来れば日野と語り合っていただきたいのですが…
 判断基準がさらに曖昧になるから、僕達、何を頑張れば良いのやら」
黒谷が苦笑すると
「よし、今度日野ちゃんにはソウちゃんの格好良さをガツンと言ってやるぜ
 それで、ソウちゃんの勝ち間違いなしになる」
ウラはうんうんと頷いていた。
黒谷は何か言いたそうな顔になるものの、その言葉を飲み込んでいた。

「勝ったソウちゃんにはご褒美で、今夜もスペシャルな夜の時間をプレゼント」
ウラは艶やかな瞳を向けてくれた。
「自分は毎晩、プレゼントをいただいておりますがよろしいのでしょうか」
「だって、毎日ソウちゃんの勝ちだもん
 本当に、超優秀なんだから」
うっとりと見つめ合い2人の世界に入り込む自分の耳に
「この勝負って…いったい…?」
呆然と呟く黒谷の声が空しく響くのであった。
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