しっぽや(No.225~)
side<NOSAKA>
伊古田の部屋に行く土曜日は、生憎の雨だった。
『まあ、これくらいの妨害(?)は想定済みだけどね
少し厚手の服を用意しておいたし、雨って言っても台風じゃないだけマシだもの
後は電車だな、今のとこ運行に遅れは出てないっと』
スマホを操作して運行状況を確認し、それでも警戒して予定より1時間も早く家を出た。
着替えとお土産のライチが入った保冷バッグ、電車の中で読む本、それらを持ちながら歩いているとちょっとした小旅行気分が味わえた。
しかも、行き先は付き合ってる相手の部屋だ。
このままスムーズに進みたい、僕は祈るような気持ちで駅までの道を歩いていった。
伊古田のマンションの最寄り駅に降り立った僕は、拍子抜けしてしまった。
信号と踏切に5回くらいしか引っかからなかったのだ。
電車にも遅れはなく、乗り換えはスムーズ。
雨なんて気にならないくらい、心は晴れ渡っていた。
『後は、影森マンションまでたどり着けるか、だな』
気を引き締めて歩き出すが、道の風景は伊古田との楽しい思い出がある場所ばかりだ。
直ぐにマンションの建物が見えてきて、僕は難なく辿りついた。
エントランスに入り上階専用エレベーターに乗ると、伊古田に連絡を貰っていた暗証番号を入力する。
『秋田犬 469』
秋田犬、と言うのは特に必要な情報では無いと思うのだが、何故かその言葉ごとメールされてきたのだ。
伊古田の部屋がある階まで上がっていく途中は、誰にも出会わなかった。
『皆まだ仕事中か、また伊古田のこと休ませちゃって悪かったな』
申し訳なく思うものの、荒木や近戸が
『他の人が頑張るから全然気にしないで、と言うか伊古田が1番頑張らなきゃいけないの皆知ってるから』
と、謎の理屈を力説していた。
『っと、この階だ』
一瞬自分の思考に没頭してしまったが直前で気がついて、慌てて降りる。
伊古田は駅まで僕のことを迎えに来たがっていたが、自分1人で来れるかどうか試したかったので断った。
『えっと、エレベーターを降りて5個目の部屋のドア』
僕が歩き出すと直ぐにお目当てのドアが開き、伊古田が姿を現した。
「ごめん、早く来すぎちゃった?どこか行くつもりだった?」
道中特に問題がなかったため、伊古田に連絡を入れることを忘れていたのだ。
「ううん、野坂が来た気配がしたからお迎えしようと思って」
伊古田は厳つい顔を崩し、破顔する。
「気配って、伊古田は凄いね超能力者みたい
あ、今日は革靴だから足音響いちゃったかな」
雨だったけど、気張って防水加工の革靴を履いてきたのだ。
「だって、野坂が側に来るとポカポカするから、すぐ分かるよ」
何だかよくわからないが、そうやって伊古田に見つけてもらえることが嬉しかった。
「野坂、部屋に入って
雨で少し寒かったでしょ、貰い物だけど、また紅茶を色々用意したんだ
暖かいお茶を飲んで一息着いてよ」
伊古田の勧めに従い、僕は傘立てに傘を置き用意されたスリッパを履いて部屋の中に進んで行った。
テーブルの上にはティーバッグの袋が詰まった缶が置いてある。
「ほとんどカズハがくれたんだ、それとナリも
コーヒーが良ければ、ポットにモッチーが淹れてくれたのが入ってるよ
どれを飲みたい?」
伊古田は一生懸命説明してくれる。
「僕からもお土産、これ、冷凍ライチ
流石に溶けちゃってるか、お茶を飲んだら食べてみようよ
それともランチのデザートの方が良いかな」
僕が渡した保冷バッグを伊古田は大事そうに受け取り
「ライチ、覚えててくれたんだ」
少し涙ぐんでいるようだった。
そのいじらしさに、僕も胸が熱くなる。
「うん、だって伊古田との思い出だもの、覚えてるよ
今日もダブルアイの黒シリーズだね、凄く格好良い
サイズピッタリだけど、また特注?高かったんじゃない?
僕には黒は似合わないけどせめて、と思って、このジャケットとインナー、お揃いシリーズにしてみたんだ」
黒シリーズよりはリーズナブルだけど、それなりの値段なので流石にパンツまでは揃えられなかった。
「今日は大事な日なんだからビシッと決めろって、用意してくれた服だよ
野坂も和泉の服を持ってるんだね、本当に有名人なのか
久那の身びいきかと思ってた
和泉に教えたら喜ぶよ」
伊古田の言葉に、僕はあんぐりと口を開けてしまった。
「え?…イズミ、ってイサマイズミ…?
直々に服を貰ってるの…?縫製会社の人とかじゃなく?」
驚きすぎて思考が停止してしまう。
「ああ、うん、石間和泉って名前だったな
皆、『和泉』って呼んでるし名字を気にしたことなかったよ」
皆、と言うのはしっぽやの所員のことだろう。
『有名デザイナーを呼び捨てとか、しっぽやって何なの?実は何かの秘密組織?』
僕は更に混乱するのだった。
呆然とする僕を見て不安になったのだろう
「野坂、野坂どうしたの?大丈夫?寒い?エアコンつける?」
伊古田がオロオロし始めた。
「あ、え、いや、ちょっと驚いちゃって
ごめん、思考が現実に追いつかないと言うか
あまりに凄い人と知り合いなんでビックリしたと言うか
混乱してる」
僕の言葉に伊古田は更に困った顔になり
「和泉のことでビックリしたの?
だって和泉が初めてしっぽやに来たときは『大学生』だったって言ってたよ
今の野坂と同じでしょ?なら、野坂も凄いんじゃない?」
アワアワと何とか説明しようとし始めた。
『そっか、まだデザイナーになる前の、古い知り合いなんだ
未だに服を用立てたり、イサマイズミって義理堅いんだな
父親は貿易会社社長、母親もデザイナーの、いけ好かないボンボンだと思ってたよ』
また、伊古田のおかげで僕のひがみ虫が少し減ってくれた気がした。
気を取り直して
「じゃあ、紅茶をいただいて暖まろうかな
色んな種類があるね
これ、母がよく通販してるメーカーのだ」
僕がティーバッグを選び始めると、伊古田はホッとした顔になった。
「紅茶はポットのお湯じゃなく、沸かしたてがいいんだってさ
いちいち面倒くさいけど、母親に言われると従わざるを得ないと言うか」
僕はピーチティーを選び
「伊古田は?何にする?」
彼に問いかけた。
「あの、よくわからなくて」
伊古田は大きな体を縮こませ、うなだれる。
「じゃあ、アップルティーにして、シェアしよう」
カップで間接キスだとドキッとしたが、そういえば僕達は既にキスは済ませているので今更だ。
2人っきりと言うシチュエーションを意識しまくっていたらしい。
「うん!」
伊古田は特に気にすることもなく、嬉しそうに頷いていた。
「ランチはどうしようか、雨だけど酷い降りじゃないし外に行く?」
紅茶を飲みながら聞いてみたら
「野坂に僕の作ったもの食べてもらいたくて、皆に教わりながら準備したんだ
簡単なもの、サンドイッチだけどどうかな」
伊古田は窺うように聞いてきた。
「伊古田の手作り?食べてみたい
朝から作ってくれたの?ありがとう、嬉しいよ」
「野坂と一緒に食べられるの、僕も嬉しい」
我ながら、初々しい恋人同士の会話すぎて笑ってしまった。
温かい紅茶を飲むと体が温まっていくのがわかった。
思ったよりも体が冷えていたらしい。
「あのね、昨日は初めて1人で捜索できたんだよ
小型犬の依頼で、最初は僕のこと見て逃げちゃったけど、あの人たち基本気が大きいから
僕が何もしないってわかると、キレて吠えまくってきた
迷子になって、不安と気恥ずかしさがあったみたい」
僕が聞く前に、伊古田は仕事について教えてくれる。
個人情報には触れない範囲なので、僕も楽しく聞くことが出来た。
「空はあんな顔だけど、口が達者だから説得が上手いんだ
大麻生は小さな事にも気が付くから、発見が早い」
「白久さんは?」
「白久は荒木が来ると張り切るけど、大抵控え室での昼寝の仕方を教えてくれるよ
黒谷が『毎日荒木が来れば白久が張り切るのに』って言ってた」
「確かにね、じゃあ、僕も荒木がバイトに行けるよう協力した方が良いかな」
「お願い、黒谷が喜ぶよ」
何となく事情通になったようで、伊古田との会話は楽しかった。
「そろそろ紅茶を交換してみようか、冷めてきちゃってるけどね」
僕は少しドキドキしながら、提案する。
「うん」
伊古田は無邪気に頷いて僕が差し出したカップを受け取ると躊躇無く口を付けた。
「リンゴの匂いがする、葉っぱなのに不思議だなー
桃もビックリしたけど」
「だね、僕もどうやって香りを付けてるのか具体的には知らないや
同じフレーバーでもメーカーによって違うのも、よく考えれば不思議だし
何かの配合が違うのかも」
当たり前のように身近にあったので、今まで深く考えたことはなかった。
伊古田の子供のような純粋な好奇心を、少し羨ましく感じた。
気が付くと、僕が部屋に来てから2時間以上が過ぎている。
伊古田と過ごす時間はあっという間だ。
壁掛け時計に気が付いた伊古田が慌てて立ち上がり
「もうこんな時間
野坂、お腹空いたでしょ、すぐ用意するね」
そう言ってキッチンに行こうとする。
「手伝うよ」
伊古田の側を離れ難く、僕も一緒に立ち上がった。
「色んな味でサンドイッチ作ったから、また半分こしよう
後は、インスタントのスープとコンビニで買ったサラダ
野坂、これで足りる?」
「デザートにライチもあるし、十分だよ」
何だかカフェテリアのメニューみたいだった。
『伊古田は外見だけならガッツリ系で、牛丼とかカツ丼の大盛り食べそうなのに』
いつも伊古田のギャップは可愛らしくて笑ってしまう。
彼が作ってくれたサンドイッチはラップを利用したロールサンドで、それもまた可愛いギャップになるのだった。
伊古田の部屋に行く土曜日は、生憎の雨だった。
『まあ、これくらいの妨害(?)は想定済みだけどね
少し厚手の服を用意しておいたし、雨って言っても台風じゃないだけマシだもの
後は電車だな、今のとこ運行に遅れは出てないっと』
スマホを操作して運行状況を確認し、それでも警戒して予定より1時間も早く家を出た。
着替えとお土産のライチが入った保冷バッグ、電車の中で読む本、それらを持ちながら歩いているとちょっとした小旅行気分が味わえた。
しかも、行き先は付き合ってる相手の部屋だ。
このままスムーズに進みたい、僕は祈るような気持ちで駅までの道を歩いていった。
伊古田のマンションの最寄り駅に降り立った僕は、拍子抜けしてしまった。
信号と踏切に5回くらいしか引っかからなかったのだ。
電車にも遅れはなく、乗り換えはスムーズ。
雨なんて気にならないくらい、心は晴れ渡っていた。
『後は、影森マンションまでたどり着けるか、だな』
気を引き締めて歩き出すが、道の風景は伊古田との楽しい思い出がある場所ばかりだ。
直ぐにマンションの建物が見えてきて、僕は難なく辿りついた。
エントランスに入り上階専用エレベーターに乗ると、伊古田に連絡を貰っていた暗証番号を入力する。
『秋田犬 469』
秋田犬、と言うのは特に必要な情報では無いと思うのだが、何故かその言葉ごとメールされてきたのだ。
伊古田の部屋がある階まで上がっていく途中は、誰にも出会わなかった。
『皆まだ仕事中か、また伊古田のこと休ませちゃって悪かったな』
申し訳なく思うものの、荒木や近戸が
『他の人が頑張るから全然気にしないで、と言うか伊古田が1番頑張らなきゃいけないの皆知ってるから』
と、謎の理屈を力説していた。
『っと、この階だ』
一瞬自分の思考に没頭してしまったが直前で気がついて、慌てて降りる。
伊古田は駅まで僕のことを迎えに来たがっていたが、自分1人で来れるかどうか試したかったので断った。
『えっと、エレベーターを降りて5個目の部屋のドア』
僕が歩き出すと直ぐにお目当てのドアが開き、伊古田が姿を現した。
「ごめん、早く来すぎちゃった?どこか行くつもりだった?」
道中特に問題がなかったため、伊古田に連絡を入れることを忘れていたのだ。
「ううん、野坂が来た気配がしたからお迎えしようと思って」
伊古田は厳つい顔を崩し、破顔する。
「気配って、伊古田は凄いね超能力者みたい
あ、今日は革靴だから足音響いちゃったかな」
雨だったけど、気張って防水加工の革靴を履いてきたのだ。
「だって、野坂が側に来るとポカポカするから、すぐ分かるよ」
何だかよくわからないが、そうやって伊古田に見つけてもらえることが嬉しかった。
「野坂、部屋に入って
雨で少し寒かったでしょ、貰い物だけど、また紅茶を色々用意したんだ
暖かいお茶を飲んで一息着いてよ」
伊古田の勧めに従い、僕は傘立てに傘を置き用意されたスリッパを履いて部屋の中に進んで行った。
テーブルの上にはティーバッグの袋が詰まった缶が置いてある。
「ほとんどカズハがくれたんだ、それとナリも
コーヒーが良ければ、ポットにモッチーが淹れてくれたのが入ってるよ
どれを飲みたい?」
伊古田は一生懸命説明してくれる。
「僕からもお土産、これ、冷凍ライチ
流石に溶けちゃってるか、お茶を飲んだら食べてみようよ
それともランチのデザートの方が良いかな」
僕が渡した保冷バッグを伊古田は大事そうに受け取り
「ライチ、覚えててくれたんだ」
少し涙ぐんでいるようだった。
そのいじらしさに、僕も胸が熱くなる。
「うん、だって伊古田との思い出だもの、覚えてるよ
今日もダブルアイの黒シリーズだね、凄く格好良い
サイズピッタリだけど、また特注?高かったんじゃない?
僕には黒は似合わないけどせめて、と思って、このジャケットとインナー、お揃いシリーズにしてみたんだ」
黒シリーズよりはリーズナブルだけど、それなりの値段なので流石にパンツまでは揃えられなかった。
「今日は大事な日なんだからビシッと決めろって、用意してくれた服だよ
野坂も和泉の服を持ってるんだね、本当に有名人なのか
久那の身びいきかと思ってた
和泉に教えたら喜ぶよ」
伊古田の言葉に、僕はあんぐりと口を開けてしまった。
「え?…イズミ、ってイサマイズミ…?
直々に服を貰ってるの…?縫製会社の人とかじゃなく?」
驚きすぎて思考が停止してしまう。
「ああ、うん、石間和泉って名前だったな
皆、『和泉』って呼んでるし名字を気にしたことなかったよ」
皆、と言うのはしっぽやの所員のことだろう。
『有名デザイナーを呼び捨てとか、しっぽやって何なの?実は何かの秘密組織?』
僕は更に混乱するのだった。
呆然とする僕を見て不安になったのだろう
「野坂、野坂どうしたの?大丈夫?寒い?エアコンつける?」
伊古田がオロオロし始めた。
「あ、え、いや、ちょっと驚いちゃって
ごめん、思考が現実に追いつかないと言うか
あまりに凄い人と知り合いなんでビックリしたと言うか
混乱してる」
僕の言葉に伊古田は更に困った顔になり
「和泉のことでビックリしたの?
だって和泉が初めてしっぽやに来たときは『大学生』だったって言ってたよ
今の野坂と同じでしょ?なら、野坂も凄いんじゃない?」
アワアワと何とか説明しようとし始めた。
『そっか、まだデザイナーになる前の、古い知り合いなんだ
未だに服を用立てたり、イサマイズミって義理堅いんだな
父親は貿易会社社長、母親もデザイナーの、いけ好かないボンボンだと思ってたよ』
また、伊古田のおかげで僕のひがみ虫が少し減ってくれた気がした。
気を取り直して
「じゃあ、紅茶をいただいて暖まろうかな
色んな種類があるね
これ、母がよく通販してるメーカーのだ」
僕がティーバッグを選び始めると、伊古田はホッとした顔になった。
「紅茶はポットのお湯じゃなく、沸かしたてがいいんだってさ
いちいち面倒くさいけど、母親に言われると従わざるを得ないと言うか」
僕はピーチティーを選び
「伊古田は?何にする?」
彼に問いかけた。
「あの、よくわからなくて」
伊古田は大きな体を縮こませ、うなだれる。
「じゃあ、アップルティーにして、シェアしよう」
カップで間接キスだとドキッとしたが、そういえば僕達は既にキスは済ませているので今更だ。
2人っきりと言うシチュエーションを意識しまくっていたらしい。
「うん!」
伊古田は特に気にすることもなく、嬉しそうに頷いていた。
「ランチはどうしようか、雨だけど酷い降りじゃないし外に行く?」
紅茶を飲みながら聞いてみたら
「野坂に僕の作ったもの食べてもらいたくて、皆に教わりながら準備したんだ
簡単なもの、サンドイッチだけどどうかな」
伊古田は窺うように聞いてきた。
「伊古田の手作り?食べてみたい
朝から作ってくれたの?ありがとう、嬉しいよ」
「野坂と一緒に食べられるの、僕も嬉しい」
我ながら、初々しい恋人同士の会話すぎて笑ってしまった。
温かい紅茶を飲むと体が温まっていくのがわかった。
思ったよりも体が冷えていたらしい。
「あのね、昨日は初めて1人で捜索できたんだよ
小型犬の依頼で、最初は僕のこと見て逃げちゃったけど、あの人たち基本気が大きいから
僕が何もしないってわかると、キレて吠えまくってきた
迷子になって、不安と気恥ずかしさがあったみたい」
僕が聞く前に、伊古田は仕事について教えてくれる。
個人情報には触れない範囲なので、僕も楽しく聞くことが出来た。
「空はあんな顔だけど、口が達者だから説得が上手いんだ
大麻生は小さな事にも気が付くから、発見が早い」
「白久さんは?」
「白久は荒木が来ると張り切るけど、大抵控え室での昼寝の仕方を教えてくれるよ
黒谷が『毎日荒木が来れば白久が張り切るのに』って言ってた」
「確かにね、じゃあ、僕も荒木がバイトに行けるよう協力した方が良いかな」
「お願い、黒谷が喜ぶよ」
何となく事情通になったようで、伊古田との会話は楽しかった。
「そろそろ紅茶を交換してみようか、冷めてきちゃってるけどね」
僕は少しドキドキしながら、提案する。
「うん」
伊古田は無邪気に頷いて僕が差し出したカップを受け取ると躊躇無く口を付けた。
「リンゴの匂いがする、葉っぱなのに不思議だなー
桃もビックリしたけど」
「だね、僕もどうやって香りを付けてるのか具体的には知らないや
同じフレーバーでもメーカーによって違うのも、よく考えれば不思議だし
何かの配合が違うのかも」
当たり前のように身近にあったので、今まで深く考えたことはなかった。
伊古田の子供のような純粋な好奇心を、少し羨ましく感じた。
気が付くと、僕が部屋に来てから2時間以上が過ぎている。
伊古田と過ごす時間はあっという間だ。
壁掛け時計に気が付いた伊古田が慌てて立ち上がり
「もうこんな時間
野坂、お腹空いたでしょ、すぐ用意するね」
そう言ってキッチンに行こうとする。
「手伝うよ」
伊古田の側を離れ難く、僕も一緒に立ち上がった。
「色んな味でサンドイッチ作ったから、また半分こしよう
後は、インスタントのスープとコンビニで買ったサラダ
野坂、これで足りる?」
「デザートにライチもあるし、十分だよ」
何だかカフェテリアのメニューみたいだった。
『伊古田は外見だけならガッツリ系で、牛丼とかカツ丼の大盛り食べそうなのに』
いつも伊古田のギャップは可愛らしくて笑ってしまう。
彼が作ってくれたサンドイッチはラップを利用したロールサンドで、それもまた可愛いギャップになるのだった。