しっぽや(No.102~115)
side<OOASOU>
ウラに番犬として飼っていただいてから数日、正体を明かしていない不安は緩やかに心に降り積もっていた。
いつものように夕飯を食べたの後、自分とウラはテレビを眺めていた。
いや、今回に限っては『見入っていた』と言っても良いだろう。
それは警察犬を目指し訓練するものの、試験に落ち続けている犬の特集番組であった。
自分はそれを見ながら、まだ警察犬だった頃のことを思い出していた。
懐かしさのあまり、つい、試験の事をウラに話してしまう。
ウラも自然に自分の話に答えてくれた。
違和感を感じさせない会話が、逆に自分の中に違和感をもたらした。
警察犬には警察が所有している『直轄警察犬』と、道府県の警察本部が実施している嘱託犬審査会に合格した『嘱託警察犬』がある。
自分が現役であった時代は、嘱託警察犬はあまり一般には馴染みが無かったように思われた。
あのお方は、よく警察官だと誤解されていたのだ。
今は、このような番組のおかげで嘱託警察犬の知識が広まっているのであろうか。
ウラは当たり前のことのように『嘱託警察犬』の事を言っていた。
しかしウラは「爺ちゃんが言っていた」と口にしている。
それは、身近に嘱託警察犬訓練士がいた事を意味していた。
過去を語らないウラの秘密を盗み見てしまったような居心地の悪さを感じてしまう。
ウラは自分が公認訓練士の資格を持っている人間であると思っている。
そんな彼に自分の過去を黙っているのは、既に限界に達していた。
「自分は警察犬でした」
ついに自分は過去を告白してしまう。
犬としてウラの側に居たいばかりに『番犬として飼って欲しい』と、当たり障りのない関係を頼んでしまった自分の浅ましさが嫌になっていた。
きっとウラは、嘘を付かれていたことに腹を立てるだろう。
怒って呆れて、自分の元から去ってしまうに違いない。
飼い主を失う喪失感で、テーブルに置いている拳が情けなく震えてしまった。
その拳にウラがそっと手を添えて、優しく唇を合わせてくれた。
「番犬でも警察犬でも、ソウちゃんはソウちゃんだよ」
ウラは信じられないようなことを口にし、再びキスをしてくれる。
拒絶されなかった驚愕に気が緩んでしまったとしか思えない。
それとも、本当はずっと伝えたかったのだろうか。
額にウラの額が触れた瞬間、自分は過去の転写をしてしまった。
激しく動揺しながらも、自分は記憶の中のあのお方の姿を消すことが出来ず、ウラと共に暫し時間を遡ってしまうのであった。
過去から現在に意識が戻ってくる。
自分の過去世を共に旅してきたウラの顔には、驚愕だけがあった。
目を見開いて自分を見つめている。
恐怖や蔑(さげす)みの視線でないだけマシではあったが、今度こそ自分達の関係が破綻してしまったことは間違いないだろう。
泣き出してしまいたかった。
けれども、ウラの許可無く泣くことは許されない。
己が化け物であることを告げた自分の前には、底知れぬ絶望しかなかった。
「俺の名前『山口 浦』って言うんだ
ソウちゃん、爺ちゃんのこと知ってたんだね…」
絶望しかあり得ないと思っていた自分には、ウラの言葉が何を意味しているのか気付くのに時間がかかってしまった。
「山…口…?」
それは、あのお方と共に思い出される懐かしい言葉。
あのお方亡き後自分を引き取ってくださった『ヤマさん』がその名で呼ばれていた。
『山口』と言う名字、嘱託警察犬訓練士であったと言うウラの『爺ちゃん』
この2つが意味するものは…
「ヤマさんの、お孫さん…!?」
ウラは自分の言葉に頷いて、名前の秘密を教えてくれた。
ウラの中にあのお方の名前が生きている、その事実は自分の胸を激しく震わせた。
ウラの身体を抱きしめながら、今、自分の腕の中には2人の飼い主が同時に存在してくれているのだと奇跡の煌めきを感じていた。
ウラは自分の髪を優しく撫でながら、泣くことを許可してくださった。
その言葉で、自分は胸の内の感情を涙と共に解放する。
あのお方を失った悲しみと、ウラに拒絶されなかった喜びを同時に涙する事が出来たのだ。
正体を明かした後も、ウラは自分を飼うと言ってくれた。
「ソウちゃん、俺のこと知ってて飼って欲しいって思ったの?
『ヤマさん』の孫だって、何か感じてた?」
不思議そうに問いかけてくるウラに、自分は首を振って否定の意を表した。
「何も知りませんでした
何も分からず、それでもどうしようもなく貴方に惹かれていたのです
自分達化生は、魂が飼い主を欲(ほっ)すると言われています
失ったものを補い合える相手を飼い主に選んでいるとも
いつの時代の誰に惹かれるかは、自分達にもわからないのです」
化生のこの感覚を言葉にするのは難しい。
飼って欲しい相手が居なかった頃には、自分でも理解できなかった気持ちであった。
「ヤマさんは関係ありません
ウラがウラであるからこそ惹かれたのだと思います」
自分の曖昧な説明に、それでもウラは嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
「俺も、過去のこととかソウちゃんに話した方が良いのかな…」
ウラは自分を見つめ、戸惑った顔になる。
「ウラが必要だと思ったのなら教えてください
無理に語ることはありません」
自分の言葉に、彼はホッとしたような表情になった。
「ごめん、まだ色々と伝える勇気無いや
ソウちゃんは、俺に見せてくれたのにね…
チャラ男でヘタレって、自分でも情けねーや」
少し自虐的な感じで言う彼に
「ウラは真面目な方です
出来なかったことを気にするのは、責任感の現れと思います」
自分はそう告げた。
「責任感って…、ソウちゃん、どんだけポジティブシンキングなの
俺のは問題を先送りにしてるだけ、単なる逃げだ
ほんと感覚ズレてるんだからって、これ、犬だから当たり前なのか
あーもう、俺、ソウちゃんの考えた『番犬プレイ』マジで超エロいとか思ってたのに
俺一人で盛り上がってただけかよ」
ウラは頭を抱えて考え込んでしまった。
自分の言葉の何が彼を考え込ませてしまっているのかわからず、オロオロするしかない自分が情けなかった。
「よし、本当に犬なんだから、首輪着けるの有りだよな
黒毛に黒い首輪は目立たないけど、身体は人間だから大丈夫か
鋲(びょう)が付いてるようなゴツいやつが似合いそう
リードだとムードでないから、やっぱ鎖だな」
ウラは何か呟いていたが頭を上げて
「ソウちゃん、今度からは『番犬プレイ』じゃなく『警察犬プレイ』に変更
『警察犬』って響きの方が背徳感あって燃えるじゃん
そのうち小道具そろえるから、着けてエッチして」
自分を見て頬を染め、艶めいた顔で命令する。
それが具体的にどのような命令なのか理解できなかったが
「ご期待に添えるよう頑張ります」
自分は張り切ってそう答えるのであった。
「色々考えてたら、したくなっちゃった
ソウちゃん、エッチしよ」
ウラが自分に抱きつきながら、甘い吐息を漏らす。
この身が化け物だと判明した後にだというのに、いつもと変わらず自分を求めてくれるウラに驚きと感動を覚えてしまう。
「ウラに触れても宜しいのですか」
オズオズと問いかける自分に
「飼い主とエッチするの嫌?
でも、ここはこんなになってるよ」
ウラは少し意地悪く笑いながら、自分の股間をなで上げてくる。
ウラに触れられている刺激で、自分の身体はとっくに反応を示していた。
「我々化生にとって、飼い主と契れることは何よりの誉れです
飼い主に受け入れてもらえることが、無情の喜びなのです」
ウラは自分の言った答えに満足したように微笑むと、唇を合わせてきた。
「ん…ソウちゃん…」
合わせた唇、絡めた舌の隙間から漏れる飼い主の呼びかけに
「ウラ…」
自分も返事を返す。
ベッドに移動して服を脱ぎ、彼の美しい肢体に舌を這わせると甘い悲鳴を上げながら自分の身体に爪を立ててくる。
いつもより激しく反応しているように見え、こちらも興奮が増してしまう。
今、自分達は身体だけではなく心も繋がっているのだと思うと、果てしない喜びがわき上がっていた。
自分の解放した熱い想いを受け、ウラも同じ反応を返してくれる。
欲望が尽きるまで何度も繋がりあい、熱い気持ちが落ち着いてきた時には、とっくに深夜を回っているのだった。
「すげー良かった、俺達、身体の相性良いよな」
ウラが腕の中で幸せそうに笑ってくれるので、自分も幸福な思いに包まれた。
「ウラのために、もっと頑張ります
飼い主と共にいる時が長い元同僚に、少し教えてもらおうかと
飼い主が居ないときは彼が何を言っているのか理解できなかったけれど、今なら分かる気がするので」
聞き飽きていた新郷の桜ちゃん自慢が、自分にとって現実味を帯びた話に感じられていた。
「そっか、化生って他にもけっこー居るのか
あ、黒谷もそうなの?ってことは飼い主は日野?
通りで偉そうにしてると思った」
ウラは納得した顔を見せる。
「以前焼き菓子を作ってきてくれたひろせも化生です」
「あの可愛い子?じゃあ、あのデカい彼氏が飼い主?
しっぽやって、化生が運営してるんだ
組織力在るなー」
驚いているウラに
「正式に貴方に飼っていただけたことを黒谷に報告します
それと、今後どのように生活していくか、一緒に考えていただけると嬉しいのですが」
自分は伺うように聞いてみた。
「今後の生活…」
ウラは眉根を寄せる。
「自分と共に暮らすのはご迷惑でしょうか」
困ったようなウラの顔を見て、胸に不安が広がっていった。
「そんなわけないじゃん、ソウちゃんと一緒にいたいよ
今度こそ、ちゃんと飼い犬の面倒みたいし
問題は俺なんだ
逃げてる場合じゃないっつーのは、分かってんだけどさ」
ウラは甘えるように、自分の胸に頬を押しつけてきた。
「少しずつ片付けていくしかないか
ソウちゃんと一緒なら、出来そうな気がする
でも、本当にゆっくりだけど」
何かを決心したように凛とした表情になるウラに
「自分に出来ることであれば、何なりとお申し付けください」
自分は真剣にそう伝える。
飼い主のために出来ることがあるかもしれないと思うだけで、胸には誇らかな喜びがわいてくるのであった。
ウラに番犬として飼っていただいてから数日、正体を明かしていない不安は緩やかに心に降り積もっていた。
いつものように夕飯を食べたの後、自分とウラはテレビを眺めていた。
いや、今回に限っては『見入っていた』と言っても良いだろう。
それは警察犬を目指し訓練するものの、試験に落ち続けている犬の特集番組であった。
自分はそれを見ながら、まだ警察犬だった頃のことを思い出していた。
懐かしさのあまり、つい、試験の事をウラに話してしまう。
ウラも自然に自分の話に答えてくれた。
違和感を感じさせない会話が、逆に自分の中に違和感をもたらした。
警察犬には警察が所有している『直轄警察犬』と、道府県の警察本部が実施している嘱託犬審査会に合格した『嘱託警察犬』がある。
自分が現役であった時代は、嘱託警察犬はあまり一般には馴染みが無かったように思われた。
あのお方は、よく警察官だと誤解されていたのだ。
今は、このような番組のおかげで嘱託警察犬の知識が広まっているのであろうか。
ウラは当たり前のことのように『嘱託警察犬』の事を言っていた。
しかしウラは「爺ちゃんが言っていた」と口にしている。
それは、身近に嘱託警察犬訓練士がいた事を意味していた。
過去を語らないウラの秘密を盗み見てしまったような居心地の悪さを感じてしまう。
ウラは自分が公認訓練士の資格を持っている人間であると思っている。
そんな彼に自分の過去を黙っているのは、既に限界に達していた。
「自分は警察犬でした」
ついに自分は過去を告白してしまう。
犬としてウラの側に居たいばかりに『番犬として飼って欲しい』と、当たり障りのない関係を頼んでしまった自分の浅ましさが嫌になっていた。
きっとウラは、嘘を付かれていたことに腹を立てるだろう。
怒って呆れて、自分の元から去ってしまうに違いない。
飼い主を失う喪失感で、テーブルに置いている拳が情けなく震えてしまった。
その拳にウラがそっと手を添えて、優しく唇を合わせてくれた。
「番犬でも警察犬でも、ソウちゃんはソウちゃんだよ」
ウラは信じられないようなことを口にし、再びキスをしてくれる。
拒絶されなかった驚愕に気が緩んでしまったとしか思えない。
それとも、本当はずっと伝えたかったのだろうか。
額にウラの額が触れた瞬間、自分は過去の転写をしてしまった。
激しく動揺しながらも、自分は記憶の中のあのお方の姿を消すことが出来ず、ウラと共に暫し時間を遡ってしまうのであった。
過去から現在に意識が戻ってくる。
自分の過去世を共に旅してきたウラの顔には、驚愕だけがあった。
目を見開いて自分を見つめている。
恐怖や蔑(さげす)みの視線でないだけマシではあったが、今度こそ自分達の関係が破綻してしまったことは間違いないだろう。
泣き出してしまいたかった。
けれども、ウラの許可無く泣くことは許されない。
己が化け物であることを告げた自分の前には、底知れぬ絶望しかなかった。
「俺の名前『山口 浦』って言うんだ
ソウちゃん、爺ちゃんのこと知ってたんだね…」
絶望しかあり得ないと思っていた自分には、ウラの言葉が何を意味しているのか気付くのに時間がかかってしまった。
「山…口…?」
それは、あのお方と共に思い出される懐かしい言葉。
あのお方亡き後自分を引き取ってくださった『ヤマさん』がその名で呼ばれていた。
『山口』と言う名字、嘱託警察犬訓練士であったと言うウラの『爺ちゃん』
この2つが意味するものは…
「ヤマさんの、お孫さん…!?」
ウラは自分の言葉に頷いて、名前の秘密を教えてくれた。
ウラの中にあのお方の名前が生きている、その事実は自分の胸を激しく震わせた。
ウラの身体を抱きしめながら、今、自分の腕の中には2人の飼い主が同時に存在してくれているのだと奇跡の煌めきを感じていた。
ウラは自分の髪を優しく撫でながら、泣くことを許可してくださった。
その言葉で、自分は胸の内の感情を涙と共に解放する。
あのお方を失った悲しみと、ウラに拒絶されなかった喜びを同時に涙する事が出来たのだ。
正体を明かした後も、ウラは自分を飼うと言ってくれた。
「ソウちゃん、俺のこと知ってて飼って欲しいって思ったの?
『ヤマさん』の孫だって、何か感じてた?」
不思議そうに問いかけてくるウラに、自分は首を振って否定の意を表した。
「何も知りませんでした
何も分からず、それでもどうしようもなく貴方に惹かれていたのです
自分達化生は、魂が飼い主を欲(ほっ)すると言われています
失ったものを補い合える相手を飼い主に選んでいるとも
いつの時代の誰に惹かれるかは、自分達にもわからないのです」
化生のこの感覚を言葉にするのは難しい。
飼って欲しい相手が居なかった頃には、自分でも理解できなかった気持ちであった。
「ヤマさんは関係ありません
ウラがウラであるからこそ惹かれたのだと思います」
自分の曖昧な説明に、それでもウラは嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
「俺も、過去のこととかソウちゃんに話した方が良いのかな…」
ウラは自分を見つめ、戸惑った顔になる。
「ウラが必要だと思ったのなら教えてください
無理に語ることはありません」
自分の言葉に、彼はホッとしたような表情になった。
「ごめん、まだ色々と伝える勇気無いや
ソウちゃんは、俺に見せてくれたのにね…
チャラ男でヘタレって、自分でも情けねーや」
少し自虐的な感じで言う彼に
「ウラは真面目な方です
出来なかったことを気にするのは、責任感の現れと思います」
自分はそう告げた。
「責任感って…、ソウちゃん、どんだけポジティブシンキングなの
俺のは問題を先送りにしてるだけ、単なる逃げだ
ほんと感覚ズレてるんだからって、これ、犬だから当たり前なのか
あーもう、俺、ソウちゃんの考えた『番犬プレイ』マジで超エロいとか思ってたのに
俺一人で盛り上がってただけかよ」
ウラは頭を抱えて考え込んでしまった。
自分の言葉の何が彼を考え込ませてしまっているのかわからず、オロオロするしかない自分が情けなかった。
「よし、本当に犬なんだから、首輪着けるの有りだよな
黒毛に黒い首輪は目立たないけど、身体は人間だから大丈夫か
鋲(びょう)が付いてるようなゴツいやつが似合いそう
リードだとムードでないから、やっぱ鎖だな」
ウラは何か呟いていたが頭を上げて
「ソウちゃん、今度からは『番犬プレイ』じゃなく『警察犬プレイ』に変更
『警察犬』って響きの方が背徳感あって燃えるじゃん
そのうち小道具そろえるから、着けてエッチして」
自分を見て頬を染め、艶めいた顔で命令する。
それが具体的にどのような命令なのか理解できなかったが
「ご期待に添えるよう頑張ります」
自分は張り切ってそう答えるのであった。
「色々考えてたら、したくなっちゃった
ソウちゃん、エッチしよ」
ウラが自分に抱きつきながら、甘い吐息を漏らす。
この身が化け物だと判明した後にだというのに、いつもと変わらず自分を求めてくれるウラに驚きと感動を覚えてしまう。
「ウラに触れても宜しいのですか」
オズオズと問いかける自分に
「飼い主とエッチするの嫌?
でも、ここはこんなになってるよ」
ウラは少し意地悪く笑いながら、自分の股間をなで上げてくる。
ウラに触れられている刺激で、自分の身体はとっくに反応を示していた。
「我々化生にとって、飼い主と契れることは何よりの誉れです
飼い主に受け入れてもらえることが、無情の喜びなのです」
ウラは自分の言った答えに満足したように微笑むと、唇を合わせてきた。
「ん…ソウちゃん…」
合わせた唇、絡めた舌の隙間から漏れる飼い主の呼びかけに
「ウラ…」
自分も返事を返す。
ベッドに移動して服を脱ぎ、彼の美しい肢体に舌を這わせると甘い悲鳴を上げながら自分の身体に爪を立ててくる。
いつもより激しく反応しているように見え、こちらも興奮が増してしまう。
今、自分達は身体だけではなく心も繋がっているのだと思うと、果てしない喜びがわき上がっていた。
自分の解放した熱い想いを受け、ウラも同じ反応を返してくれる。
欲望が尽きるまで何度も繋がりあい、熱い気持ちが落ち着いてきた時には、とっくに深夜を回っているのだった。
「すげー良かった、俺達、身体の相性良いよな」
ウラが腕の中で幸せそうに笑ってくれるので、自分も幸福な思いに包まれた。
「ウラのために、もっと頑張ります
飼い主と共にいる時が長い元同僚に、少し教えてもらおうかと
飼い主が居ないときは彼が何を言っているのか理解できなかったけれど、今なら分かる気がするので」
聞き飽きていた新郷の桜ちゃん自慢が、自分にとって現実味を帯びた話に感じられていた。
「そっか、化生って他にもけっこー居るのか
あ、黒谷もそうなの?ってことは飼い主は日野?
通りで偉そうにしてると思った」
ウラは納得した顔を見せる。
「以前焼き菓子を作ってきてくれたひろせも化生です」
「あの可愛い子?じゃあ、あのデカい彼氏が飼い主?
しっぽやって、化生が運営してるんだ
組織力在るなー」
驚いているウラに
「正式に貴方に飼っていただけたことを黒谷に報告します
それと、今後どのように生活していくか、一緒に考えていただけると嬉しいのですが」
自分は伺うように聞いてみた。
「今後の生活…」
ウラは眉根を寄せる。
「自分と共に暮らすのはご迷惑でしょうか」
困ったようなウラの顔を見て、胸に不安が広がっていった。
「そんなわけないじゃん、ソウちゃんと一緒にいたいよ
今度こそ、ちゃんと飼い犬の面倒みたいし
問題は俺なんだ
逃げてる場合じゃないっつーのは、分かってんだけどさ」
ウラは甘えるように、自分の胸に頬を押しつけてきた。
「少しずつ片付けていくしかないか
ソウちゃんと一緒なら、出来そうな気がする
でも、本当にゆっくりだけど」
何かを決心したように凛とした表情になるウラに
「自分に出来ることであれば、何なりとお申し付けください」
自分は真剣にそう伝える。
飼い主のために出来ることがあるかもしれないと思うだけで、胸には誇らかな喜びがわいてくるのであった。