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しっぽや(No.85~101)

「そろそろ撤収準備すんぞー」
そんなゲン様の声に促され、私達は海の家にある水シャワーで体に付いた砂や塩を洗い流した。
しかし、水のシャワーであったため長時間浴びるには冷たいし、石鹸の類を持って行かなかったので、何となく体からは潮の香りがする状態であった。
それでも濡れた水着をビニール袋にまとめ、持ってきていた新しい服に着替えるとサッパリした気分になった。

荷物を車に積み込んだ後、私達は1時間くらい土産物屋を物色することにした。
「漁港の方が良い物があるんですが」
と言いながら、長瀞が干物や瓶詰めを吟味している。
ひろせもそれにならい、タケぽんと一緒に干物を見て回っていた。

「懐かしー、こんなん、今も売ってるんだ
 貝で出来たプードル
 婆ちゃんの部屋のケースに飾ってあるのと一緒じゃん
 星の砂もある、この辺で取れたんじゃないよな
 海の物なら何でも有りか」
「貝で出来た蛙もありますよ
 桜貝の貝殻が入った小瓶とか
 これ、新郷に『桜ちゃん土産』として何個も貰ったなー」
黒谷と日野様はお土産物コーナーを物色していた。

荒木と私も店を見て回る。
「俺も家の土産に、干物くらい買ってこうかな」
「荒木、明日の朝ご飯用の干物を買いましょうか?」
店内を歩く私たちの目に、大振りな貝殻コーナーが飛び込んできた。
日本で採れたものではなさそうな巻き貝が何個か置いてある中に『ツメタガイ』とシールが貼られた茶色の巻き貝も混じっていた。
「これ、岩月さん達が探してた奴だ」
荒木がそれを手にとって、物目面しそうに眺めている。
「日本でも採れる貝なので、値段はあまり高くないですね」
私も興味深く貝をのぞき込んだ。
「買ってみましょうか、今日の思い出に部屋に飾っておきたいです」
私が言うと、荒木も嬉しそうに頷いた。
「初めて白久と行った海の思い出
 どうせなら岩月さん達みたく2人で探してみれば良かったなー」
残念そうな荒木に
「2人でお土産物屋さんで見つけたので良しとしましょう」
私は微笑みかけた。
私達は干物、塩蔵わかめ、貝殻といった海のお土産物を買い込んで、車に戻っていった。


帰りの車の中
「どう?飼い主と行った初めての海は楽しかった?」
岩月様がそう聞いてくれた。
「はい、とっても
 水着の日野の可愛いことといったらもう
 僕も新しい水着を誉めてもらえたし大満足です
 しかし、海って言うのは不思議な場所だね」
「あの波は、どこから来るんでしょうか
 何だか、まだ身体が波に揺られている気分ですよ」
私は海に入っている感触を思い出していた。
「波に優しく揺られていると、少しだけゲンに抱かれている感触を思い出します」
長瀞がクスッと笑った。

「飼い主との思い出が増えるのは、良いことだよ
 ね、ジョン」
「ああ、俺も何を見ても岩月と一緒だったことを思い出せるぜ
 俺達満月が辿った軌跡だ、なんてさ」
助手席のジョンに言われ
「キザだなー、そんな言葉どこで覚えてくるんだか」
岩月様は照れた笑顔をみせていた。



影森マンションに帰り着いた頃にはすっかり夜になり、空には星が瞬いていた。
「今日は本当にお世話になりました
 とても楽しい1日を過ごせました」
頭を下げる私に
「朝ご飯ごちそうさま、僕たちも楽しかったよ
 また、何かあったら混ぜてね」
岩月様とジョンは笑顔で答え、帰って行った。

その後、私は荒木と一緒にマンションの自分の部屋に戻る。
濡れている物を洗濯機に入れ、買ってきたおみやげ物を仕舞っていく。
ツメタガイはテレビが置いてある棚に飾ってみた。
荒木がそれを手にとって耳に当てている。
「うーん?何かサーサーって音が聞こえる気がするけど…
 岩月さんが言ってたみたいに、血が流れてる音なのかな」
首を傾げる荒木から私も貝を受け取って耳に当ててみた。
「そうですね、自分の血流の音っぽい気がします
 でも、荒木と行った海の記憶が蘇る音です
 これが、私にとっての波の音ですね」
私は嬉しくなって思わず微笑んだ。
「そっか、俺達の波の音だ」
荒木も再び、貝を耳に当てて音を聞いていた。

それから2人でシャワーを浴び直す。
「サッパリしたー
 このシャンプーやボディーソープの香りがすると『白久のとこに来た』って思うんだ」
荒木はバスタオルで髪をこすりながらにっこり笑う。
私も潮の香りが消え、同じように感じていた。
「焼けちゃったね」
荒木の指が、私の胸を移動していく。
荒木の指が走った後は、日焼けとは違う肌の火照りが感じられた。
「荒木も焼けていますよ、痛くないですか」
私も割れ物を触るように、そっと荒木の胸に触れていく。
胸の突起を優しく摘むと、荒木の身体が可愛らしく震える。

私達はこれからの行為を思い、息を荒くしていった。


「今日、履かなかった海パン、履いて見せて」
荒木が艶やかに潤む瞳を私に向けてくる。
私は頷いて大事に仕舞っておいた水着を持ってくると、荒木の前でそれを身につけた。
海で履いていたものとは違い身体にフィットするデザインなので、荒木に反応している私自身がかなり目立ってしまってる。
それでも荒木は『格好良い』と私を誉めてくださった。
昼間の水着の可愛らしい荒木を思い出し、私はあふれる想いを押さえきれず彼にキスをする。
「しよっか」
飼い主からのお許しの言葉に
「はい」
私は頷くと想いのすべてを込めて荒木を抱きしめ、深く唇を合わせた。
密着し合っている腰は、今にも想いを解放してしまいそうなほど堅く張りつめていた。

私は荒木を抱き上げてベッドに移動する。
貪るようなキスの後、唇を頬や首筋に這わせていく。
いつものように甘噛みをしたかったけれど、焼けた荒木の肌に歯を立てることははばかられたので、私は舌で荒木の身体を堪能した。
鎖骨から胸へ舌を這わせ、胸の突起を吸い上げると荒木から可愛らしい悲鳴が上がる。
私自身、限界に近かったため、荒木の顔を見ながらそのまま繋がりあった。

私に貫かれた荒木が大きく喉を仰け反らせ、甘い吐息を唇からもらした。
頬を染め、潤んだ瞳を細めて私の肩にすがりついてくる。
私の動きに合わせ、荒木も怪しく腰を揺らめかせていた。
「ん…くっ…、白…久、白久…」
甘い声で名前を呼ばれるたび、私の気持ちも高ぶっていった。
「荒木、荒木…愛しております…」
私は飼い主の耳元で愛を囁くと、そのまま想いを解放した。
荒木も直ぐに同じ反応を見せてくれる。
想いを解放した後も私達は荒い息を吐きながら、しっかりと抱き合った。

「もっと、してくれる?」
少し恥ずかしそうに私を見上げながら聞いてくる荒木に
「もちろんです」
私はそう答えて、愛しい飼い主と唇を合わせる。
荒木に痛いほど締め付けられている私自身が、再び熱を帯びてきているのが感じられた。
私達はその後も何度も繋がりあった。
愛に応えてくれる飼い主がいる幸せに酔いしれ、私は荒木を抱きながら穏やかな眠りに落ちていくのであった。



ザ…ン……ザザ…ン
ザ…ン……ザザ…ン

規則正しい波の音と、波に揺られている微かな感触がよみがえる。
『まだ、海にいるのでしたっけ…』
私は夢うつつの中、確かなものを感じようと腕の中の飼い主を抱きしめた。
夢ではない荒木のしっかりとした身体の感触に、徐々に意識がはっきりとしてきた。

ザ…ン……ザザ…ン
す…ぅ……すぅすぅ……
す…ぅ……すぅすぅ……

波の音だと思っていたものは、荒木の安らかな寝息であった。
身体に触れる微かな振動は、荒木の脈だ。
激しく繋がり合っている時には感じなかった、凪いだ海のような荒木の身体に何だか感動してしまう。

「んん…、まだ海にいるんだっけ…?」
少し寝ぼけたような声と共に、荒木がうっすらと目を開いた。
「あれ…?白久…?」
荒木は焦点の合わない瞳で見つめてきた後、そのまま私の胸に頬を押しつけた。
「白久…白久だ」
やがてはっきりした言葉を発すると、嬉しそうに笑う。
「波の音がするなって思ってたけど、白久の心臓の音だった
 こうやってると、鼓動が波みたいに感じるんだ
 貝を耳に当てるより、白久の身体の方がよっぽど海みたいだよ」
私の胸に頬を押しつけながら、荒木はうっとりとした顔を見せた。

「私も、荒木のお体は海のようだと思っておりました」
同じことを考えていたのが嬉しくて、私は荒木の髪をそっと撫でる。
「俺の心音、聞いてみる?
 いつも、俺ばっかり白久の鼓動を聞いてるからさ」
起きあがった荒木に促され、私はその胸に頬を押し当て感触を楽しんだ後耳をつけてみた。

とくん…とくん…とくん…

規則正しい心音と耳に触れる確かな鼓動。
私にとっても荒木の鼓動は波を思い出させ、海を感じられるものであった。
荒木は私の頭を胸に抱き、優しく髪を撫でてくれる。
「また、一緒に海に行きたいね」
髪を撫でていた荒木の指が、私の頬に移動した。
「青い海、と言うものを見てみたいです」
私は頬を撫でる荒木の指にキスをして、そのまま舌を這わせ口に含んだ。
「沖縄の、青い海に行こう
 白い砂浜を走ったり、キレイな貝殻を拾えるような海に」
荒木の指が、誘うように動いている。
私は荒木の胸に顔を埋めながら、その愛らしい突起に舌を絡ませた。
吸い上げて、こねるように舌を動かすたびに荒木の身体がビクンと跳ねる。

「あっ…白久…、仕事行く前に、1回だけして…」
息を荒くした飼い主に優しく髪をまさぐられ、私も息が上がってくる。
もはや2人の身体は凪いだ海ではなくなっていた。

「はい、荒木の望みのままに」

私達は息を荒くして、情熱の海に身を投じるのであった。
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