しっぽや(No.85~101)
海に到着すると駐車スペースに車を停め、俺達は荷物を持って海の家に向かっていった。
「俺とナガトが荷物番してるから、学生組と月さん達は泳いでこいよ
俺はちょこーっと海に入れればそれで良いんだ」
「僕もそんなには泳げないし、日が高くなったら戻ってくるね
ゲンちゃんと交代しよう」
大人組が話を進めていき、適当な海の家に陣取ると
「皆、似合ってんじゃねーか」
ゲンさんは俺達を見回した。
白久にはブルー地に水色でイルカのシルエットが散っているハーフパンツタイプの海パンを履かせ、クリーム色のパーカーを羽織らせていた。
俺はグリーン地に黄緑で貝のシルエットが散っている海パンを履き、スカイブルーのパーカーを羽織っている。
ちょっと子供っぽいかな、と思ったけどゲンさんが『カワユイ海パン』とか言っていたからつい選んでしまったのだ。
日野は朱色から白にグラデーションいているシンプルなハーフパンツを履き、黒谷には同じタイプで群青から白にグラデーションしている物を履かせていた。
パーカーはお揃いで、薄いグレーだった。
「デカワンコちゃん達は青系でキメたのか」
ゲンさんの言葉で、図(はか)らずも飼い犬に似たような色を選んでしまった俺と日野は、顔を見合わせ照れ笑いを浮かべてしまう。
「タケぽんは、また、ベタなの選んだな」
その言葉につられタケぽんとひろせを見ると、色違いのお揃いの海パンを履いていた。
タケぽんがブルー系のボーダーで、ひろせは赤系のボーダーだ。
どちらもワンポイントに錨(いかり)のマークが刺繍されている。
パーカーは若草色だった。
「ひろせの毛色には、赤が似合うんです」
タケぽんはキッパリと言い切った。
確かに白混じりの淡いグレーの髪に、華やかな赤が映えている。
「うん、似合ってるよ
皆、飼い主に似合うもの選んでもらって、良かったな」
ゲンさんが笑うと、黒谷と白久、ひろせは幸せそうな笑顔で大きく頷いた。
「ひろせ、塩水でずぶ濡れになるとやっかいです
髪を纏めて行きなさい」
長瀞さんがひろせの長い髪を結っている。
「ほら、ビーチボール持ってきな
月さん、一応浮き輪も持ってってください」
「そうだね、人様の家の子を預かってるんだもんね
というか、浮き輪ないと僕自身がちょっと怖いかも」
最終準備を整えてパーカーを脱ぐと、俺達は海に向かって駆けだした。
南国の真っ青な海、にはほど遠い普通の海水浴場の少し濁っている海。
それでも塩の匂いと波の音で、海に来たという実感がわいてきて楽しい気分になってくる。
「これが、海ですか」
白久が驚いたように辺りを見回していた。
「海に来たの、初めて?」
俺が聞くと白久は恥ずかしそうに頷いた。
「今まで山の側とか町中ばかりで、海の側で暮らしたことがありませんでしたから
川では泳いだことがあるのですが、匂いが全然違いますね
足下は砂ばかりだし
新郷に話を聞いたり、移動中に遠目で見たり、写真やテレビで見たことはあっても、近くで見る実物の海は想像以上です」
「じゃあ、今日が白久の海デビューなんだ」
「また、荒木との『初めての思い出』が増えました」
白久の言葉と無邪気な笑顔が何だかくすぐったい。
「楽しんでいこう」
「はい」
俺達は並んで海に進んでいった。
「俺、この感触けっこー好き」
俺は裸足で波打ち際に佇んだ。
「波が来て引いていくとき、足の下の砂を残して周りの砂もサアっと引いてくんだ
でも、すぐ次の波が来てフワってなって、また引いていく」
白久も裸足で俺の隣に立った。
「不思議な感覚ですね、川では感じられないものです」
暫く波の感触を楽しみ、俺達はもう少し深いところに進んでいった。
海水を両手で掬(すく)うと、小さな生物もとれる。
「これ、プランクトンって奴なのかな?
ガキの頃はバケツに海水汲んで、砂で作った堤防の中に入れて自分メイドの池を作ろうと頑張ったっけ
本当は小魚が捕りたかったんだけど、バケツじゃ無理でさ」
俺は子供の時のことを思い出して笑ってしまう。
「面白い水ですね」
白久も興味深そうに海水を掬っていた。
「荒木ー、ビーチボールで遊ぼうぜ」
少し離れたところから、日野が手を振って声をかけてきた。
「行こうか」
俺は白久を促すと、日野の元に移動する。
日野も黒谷も濡れた髪をしていた。
2人とも、少し泳いだのかもしれない。
怖々と水に入るひろせを守るよう、タケぽんが寄り添っていた。
俺達は波打ち際でビーチボールを落とさないで何回連続でトス出来るか、チャレンジする。
「今の惜しかった!」
「30回越えると集中力切れてくんなー」
「50回以上目指してみようぜ」
単純だけど、けっこー燃えてしまった。
「そろそろ飯にしよーか、色々注文しといたからよ」
ゲンさんが呼びに来てくれる。
もう昼の時間になっていた。
「続きは腹を満たしてからだな、あー、急激に腹減ってきた」
「お前はいつだって腹減ってるだろ」
俺達は楽しい気分のまま、海の家に向かうのであった。
海の家の俺達が陣取っているテーブルの上には、所狭しと色んな物が置かれていた。
置ききれなくて、畳に直置きになっている物もある。
カレー、ラーメン、唐揚げ、フランクフルト、焼きそば、焼きトウモロコシ、サザエの壺焼き。
それが6皿ずつあるのだ。
サザエ以外はどこでも食べられるありきたりなメニューだが、ゲンさんが言っていたように外で食べると美味しさが3割増しな気がして、見るだけでお腹が鳴ってしまう。
「お店の人に『こんなに頼んで大丈夫なのか』って、散々念を押されたよ
て言うか、本当に大丈夫?」
岩月さんが怖々聞いてきた。
お店の人もチラチラとこちらを見ていたが、白久、黒谷、タケぽんを見て納得した様子だった。
『真の魔王は日野だと言うのに、甘いな』
何故か悪の参謀にでもなった気がして、俺は一人ほくそ笑んでしまった。
皆でワイワイ騒ぎながら白久と分け合って食べるランチは、美味しかった。
「俺、サザエって初めて食べた
グルグルしてるとこ、磯の香りがするね」
最後まで千切れないよう、白久が中身を取ってくれたのだ。
「荒木の初めてにご一緒できて、光栄です
新郷が釣りに行ったお土産に時々買ってきてくれるので、中身の取り方を研究したかいがありました
途中で千切れてしまうと、取り出せないんですよ」
「そうそう、キレイに取れるとやり遂げた感あるよね
日野、サザエもう1個食べますか?」
「うん」
日野の活躍により食べ終わった皿が積み上がっていく様は、いつ見ても圧巻であった。
岩月さんやジョンが呆気にとられたように日野を見ているのが面白い。
「黒谷、お前、飼い主養うの大変だぞ」
思わずもらしたジョンの呟きに
「節約メニューを研究してるよ」
黒谷は誇らかに答えていた。
それからデザートにかき氷を食べたりして少し休んだ後、俺達はまた海に向かう。
午後になって少し波が高くなってきたので泳ぐのは諦めて、ビーチボールで遊んだり波打ち際で波の感触を楽しんだりした。
「海って、楽しいですね」
「うん、ハワイとか行くと水が真っ青に見えるんだって
テレビで見ててもやらせっぽく感じちゃうけど
でも、沖縄はきれいだって、行ったことのある友達が言ってたっけ」
「きれいな海…いつか荒木と行ってみたいです」
白久は海の彼方を見つめながら呟いた。
「俺達の初めての『きれいな海』はどこになるかな」
俺達は未来の『初めて』に思いを馳せながら波打ち際を歩いていった。
「少年達、着いたぜ」
そんなゲンさんの言葉で意識が覚醒する。
俺達は遊び疲れて、帰りの車の中で爆睡してしまったようだ。
外はとっくに暗くなり、星が瞬いていた。
岩月さんの車から、荷物を持った白久や黒谷が下りてきて岩月さんとジョンにお礼を言っている。
俺達も慌てて駆け寄ってお礼を伝えた。
「僕も、久しぶりに海に行けて楽しかったよ
また、何かに混ぜてもらっても良いかい?」
「もちろんです、今度は狩りにでも行きましょう」
嬉しそうな笑顔を残し、岩月さんとジョンは帰っていった。
俺達も影森マンションの自分の化生の部屋に帰る。
「楽しかったー、でも、体が塩でベトベト」
「向こうでシャワーを使ってきたんですが、髪にまだ磯の香りが残っている気がします
長瀞が髪を濡らしたがらないはずだ」
白久も俺の言葉に頷いた。
俺達は一緒にシャワーを浴び直した。
いつも使っているボディーソープやシャンプーの香りに包まれて、やっとさっぱりした気持ちになれた。
今日は日差しが強かったせいだろう、バスタオルで体を拭いている白久を見ると肌が精悍な感じに焼けていた。
「焼けちゃったね」
白久の肌に指を走らせる。
「荒木も焼けていますよ、痛くないですか?」
白久も俺の肌にそっと触れた。
「今日、履かなかった海パン、履いて見せて」
ゾクゾクする気持ちを抑えながら俺が頼むと、白久は頷いてくれる。
白久に似合いそうだと思って買ったものの、デザインが大胆なので皆に見せる勇気が無かったのだ。
黒にアクセントで金が入っている、体にフィットするボクサーパンツタイプの海パン。
逞しい体躯の白久に、よく似合っていた。
健康的に焼けた肌が、さらに魅力的に見える。
「凄く格好いい
暫くは皆に見せないで、俺だけのために履いて」
俺が頼むと
「もちろんです
昼間の荒木も、とても可愛らしかったですよ
私も荒木の素肌を、あまり他の者には見せたくないと思ってしまいました」
白久はそっとキスをしてくれた。
帰りの車の中で寝ていたので、体力は回復している。
「しよっか」
「はい」
俺の言葉に白久は嬉しそうに頷いて、俺を抱きしめ体を密着させると、深く唇を合わせた。
海パン越しでも、その体の熱が伝わってくる。
俺達はベッドに移動して繋がりあい、想いを解放しあう。
こうして夏の最後のイベントは、大満足のまま幕を引くのであった。
「俺とナガトが荷物番してるから、学生組と月さん達は泳いでこいよ
俺はちょこーっと海に入れればそれで良いんだ」
「僕もそんなには泳げないし、日が高くなったら戻ってくるね
ゲンちゃんと交代しよう」
大人組が話を進めていき、適当な海の家に陣取ると
「皆、似合ってんじゃねーか」
ゲンさんは俺達を見回した。
白久にはブルー地に水色でイルカのシルエットが散っているハーフパンツタイプの海パンを履かせ、クリーム色のパーカーを羽織らせていた。
俺はグリーン地に黄緑で貝のシルエットが散っている海パンを履き、スカイブルーのパーカーを羽織っている。
ちょっと子供っぽいかな、と思ったけどゲンさんが『カワユイ海パン』とか言っていたからつい選んでしまったのだ。
日野は朱色から白にグラデーションいているシンプルなハーフパンツを履き、黒谷には同じタイプで群青から白にグラデーションしている物を履かせていた。
パーカーはお揃いで、薄いグレーだった。
「デカワンコちゃん達は青系でキメたのか」
ゲンさんの言葉で、図(はか)らずも飼い犬に似たような色を選んでしまった俺と日野は、顔を見合わせ照れ笑いを浮かべてしまう。
「タケぽんは、また、ベタなの選んだな」
その言葉につられタケぽんとひろせを見ると、色違いのお揃いの海パンを履いていた。
タケぽんがブルー系のボーダーで、ひろせは赤系のボーダーだ。
どちらもワンポイントに錨(いかり)のマークが刺繍されている。
パーカーは若草色だった。
「ひろせの毛色には、赤が似合うんです」
タケぽんはキッパリと言い切った。
確かに白混じりの淡いグレーの髪に、華やかな赤が映えている。
「うん、似合ってるよ
皆、飼い主に似合うもの選んでもらって、良かったな」
ゲンさんが笑うと、黒谷と白久、ひろせは幸せそうな笑顔で大きく頷いた。
「ひろせ、塩水でずぶ濡れになるとやっかいです
髪を纏めて行きなさい」
長瀞さんがひろせの長い髪を結っている。
「ほら、ビーチボール持ってきな
月さん、一応浮き輪も持ってってください」
「そうだね、人様の家の子を預かってるんだもんね
というか、浮き輪ないと僕自身がちょっと怖いかも」
最終準備を整えてパーカーを脱ぐと、俺達は海に向かって駆けだした。
南国の真っ青な海、にはほど遠い普通の海水浴場の少し濁っている海。
それでも塩の匂いと波の音で、海に来たという実感がわいてきて楽しい気分になってくる。
「これが、海ですか」
白久が驚いたように辺りを見回していた。
「海に来たの、初めて?」
俺が聞くと白久は恥ずかしそうに頷いた。
「今まで山の側とか町中ばかりで、海の側で暮らしたことがありませんでしたから
川では泳いだことがあるのですが、匂いが全然違いますね
足下は砂ばかりだし
新郷に話を聞いたり、移動中に遠目で見たり、写真やテレビで見たことはあっても、近くで見る実物の海は想像以上です」
「じゃあ、今日が白久の海デビューなんだ」
「また、荒木との『初めての思い出』が増えました」
白久の言葉と無邪気な笑顔が何だかくすぐったい。
「楽しんでいこう」
「はい」
俺達は並んで海に進んでいった。
「俺、この感触けっこー好き」
俺は裸足で波打ち際に佇んだ。
「波が来て引いていくとき、足の下の砂を残して周りの砂もサアっと引いてくんだ
でも、すぐ次の波が来てフワってなって、また引いていく」
白久も裸足で俺の隣に立った。
「不思議な感覚ですね、川では感じられないものです」
暫く波の感触を楽しみ、俺達はもう少し深いところに進んでいった。
海水を両手で掬(すく)うと、小さな生物もとれる。
「これ、プランクトンって奴なのかな?
ガキの頃はバケツに海水汲んで、砂で作った堤防の中に入れて自分メイドの池を作ろうと頑張ったっけ
本当は小魚が捕りたかったんだけど、バケツじゃ無理でさ」
俺は子供の時のことを思い出して笑ってしまう。
「面白い水ですね」
白久も興味深そうに海水を掬っていた。
「荒木ー、ビーチボールで遊ぼうぜ」
少し離れたところから、日野が手を振って声をかけてきた。
「行こうか」
俺は白久を促すと、日野の元に移動する。
日野も黒谷も濡れた髪をしていた。
2人とも、少し泳いだのかもしれない。
怖々と水に入るひろせを守るよう、タケぽんが寄り添っていた。
俺達は波打ち際でビーチボールを落とさないで何回連続でトス出来るか、チャレンジする。
「今の惜しかった!」
「30回越えると集中力切れてくんなー」
「50回以上目指してみようぜ」
単純だけど、けっこー燃えてしまった。
「そろそろ飯にしよーか、色々注文しといたからよ」
ゲンさんが呼びに来てくれる。
もう昼の時間になっていた。
「続きは腹を満たしてからだな、あー、急激に腹減ってきた」
「お前はいつだって腹減ってるだろ」
俺達は楽しい気分のまま、海の家に向かうのであった。
海の家の俺達が陣取っているテーブルの上には、所狭しと色んな物が置かれていた。
置ききれなくて、畳に直置きになっている物もある。
カレー、ラーメン、唐揚げ、フランクフルト、焼きそば、焼きトウモロコシ、サザエの壺焼き。
それが6皿ずつあるのだ。
サザエ以外はどこでも食べられるありきたりなメニューだが、ゲンさんが言っていたように外で食べると美味しさが3割増しな気がして、見るだけでお腹が鳴ってしまう。
「お店の人に『こんなに頼んで大丈夫なのか』って、散々念を押されたよ
て言うか、本当に大丈夫?」
岩月さんが怖々聞いてきた。
お店の人もチラチラとこちらを見ていたが、白久、黒谷、タケぽんを見て納得した様子だった。
『真の魔王は日野だと言うのに、甘いな』
何故か悪の参謀にでもなった気がして、俺は一人ほくそ笑んでしまった。
皆でワイワイ騒ぎながら白久と分け合って食べるランチは、美味しかった。
「俺、サザエって初めて食べた
グルグルしてるとこ、磯の香りがするね」
最後まで千切れないよう、白久が中身を取ってくれたのだ。
「荒木の初めてにご一緒できて、光栄です
新郷が釣りに行ったお土産に時々買ってきてくれるので、中身の取り方を研究したかいがありました
途中で千切れてしまうと、取り出せないんですよ」
「そうそう、キレイに取れるとやり遂げた感あるよね
日野、サザエもう1個食べますか?」
「うん」
日野の活躍により食べ終わった皿が積み上がっていく様は、いつ見ても圧巻であった。
岩月さんやジョンが呆気にとられたように日野を見ているのが面白い。
「黒谷、お前、飼い主養うの大変だぞ」
思わずもらしたジョンの呟きに
「節約メニューを研究してるよ」
黒谷は誇らかに答えていた。
それからデザートにかき氷を食べたりして少し休んだ後、俺達はまた海に向かう。
午後になって少し波が高くなってきたので泳ぐのは諦めて、ビーチボールで遊んだり波打ち際で波の感触を楽しんだりした。
「海って、楽しいですね」
「うん、ハワイとか行くと水が真っ青に見えるんだって
テレビで見ててもやらせっぽく感じちゃうけど
でも、沖縄はきれいだって、行ったことのある友達が言ってたっけ」
「きれいな海…いつか荒木と行ってみたいです」
白久は海の彼方を見つめながら呟いた。
「俺達の初めての『きれいな海』はどこになるかな」
俺達は未来の『初めて』に思いを馳せながら波打ち際を歩いていった。
「少年達、着いたぜ」
そんなゲンさんの言葉で意識が覚醒する。
俺達は遊び疲れて、帰りの車の中で爆睡してしまったようだ。
外はとっくに暗くなり、星が瞬いていた。
岩月さんの車から、荷物を持った白久や黒谷が下りてきて岩月さんとジョンにお礼を言っている。
俺達も慌てて駆け寄ってお礼を伝えた。
「僕も、久しぶりに海に行けて楽しかったよ
また、何かに混ぜてもらっても良いかい?」
「もちろんです、今度は狩りにでも行きましょう」
嬉しそうな笑顔を残し、岩月さんとジョンは帰っていった。
俺達も影森マンションの自分の化生の部屋に帰る。
「楽しかったー、でも、体が塩でベトベト」
「向こうでシャワーを使ってきたんですが、髪にまだ磯の香りが残っている気がします
長瀞が髪を濡らしたがらないはずだ」
白久も俺の言葉に頷いた。
俺達は一緒にシャワーを浴び直した。
いつも使っているボディーソープやシャンプーの香りに包まれて、やっとさっぱりした気持ちになれた。
今日は日差しが強かったせいだろう、バスタオルで体を拭いている白久を見ると肌が精悍な感じに焼けていた。
「焼けちゃったね」
白久の肌に指を走らせる。
「荒木も焼けていますよ、痛くないですか?」
白久も俺の肌にそっと触れた。
「今日、履かなかった海パン、履いて見せて」
ゾクゾクする気持ちを抑えながら俺が頼むと、白久は頷いてくれる。
白久に似合いそうだと思って買ったものの、デザインが大胆なので皆に見せる勇気が無かったのだ。
黒にアクセントで金が入っている、体にフィットするボクサーパンツタイプの海パン。
逞しい体躯の白久に、よく似合っていた。
健康的に焼けた肌が、さらに魅力的に見える。
「凄く格好いい
暫くは皆に見せないで、俺だけのために履いて」
俺が頼むと
「もちろんです
昼間の荒木も、とても可愛らしかったですよ
私も荒木の素肌を、あまり他の者には見せたくないと思ってしまいました」
白久はそっとキスをしてくれた。
帰りの車の中で寝ていたので、体力は回復している。
「しよっか」
「はい」
俺の言葉に白久は嬉しそうに頷いて、俺を抱きしめ体を密着させると、深く唇を合わせた。
海パン越しでも、その体の熱が伝わってくる。
俺達はベッドに移動して繋がりあい、想いを解放しあう。
こうして夏の最後のイベントは、大満足のまま幕を引くのであった。