しっぽや(No.85～101)
side＜KUROYA＞
『誕生日』
そんな日が自分におとずれるなど、今まで思いもしなかった。
けれども今年は違う。
飼い主が出来た日を誕生日にした白久を真似て、僕も日野に飼っていただけることになった日を誕生日にしたのだ。
それは奇（く）しくも以前の飼い主『和銅(わどう)』が命を落とすことになった、太平洋戦争の終戦と同じ日であった。
誕生日に合わせ８月１３日～１５日の３日間、日野と僕はしっぽやの休みをもらう。
お盆休みであり、夏休みであり、誕生日休みであった。
しっぽや事務所を構えてから、夏に３日も連続して休むなど初めてのことかもしれない。
「クロは頑張りすぎですよ、せっかく飼い主や誕生日が出来たのだから、今年はゆっくり休んでください
クロがいない間は、私と荒木で頑張りますので」
長年の友人でもある白久の言葉に甘え、僕は飼い主との休みを満喫することにした。
夏休み初日
朝から日野がマンションまで来てくれた。
これから３日間、泊まっていってくれるのだ。
飼い主と共にいられる３日間は、僕にとっての初めての誕生日、初めての夏休みでもある。
僕は朝から楽しみでしかたなかった。
「何をしましょうか」
僕は３日間、飼い主の命令を守るため、どんな事態にも対応しようと心に決めていた。
「とりあえず、イチャイチャする」
日野はそう言って甘えるように僕の胸に顔を埋めてくる。
最近は夜中にうなされることは無くなっていたが、日野は時々、和銅であったときの不安定な気分を引きずっているようであった。
僕は彼を抱きしめながらクッションに座る。
ぴったりと身を寄せてくる飼い主のことが、愛おしくてたまらなかった。
日野は僕に誕生日に欲しい物はないか聞いてくれた。
こうして抱き合っているだけでも十分幸せであったが、もう少し、彼に甘えたかった。
「頭を撫でて、誉めてもらってもよろしいでしょうか」
僕がオズオズと切り出すと、膝立ちになった日野が優しく髪を撫でて、いっぱい誉めてくれる。
僕は、飼い主とこんなにゆっくり触れ合いながら愛してもらえたことが無かったことに気が付いた。
今までだって飼い主に愛されて、幸せな思いを感じてはいた。
しかしそれはどこか忙しなく、時代に翻弄されていたのだ。
やっと、心からくつろげる安らぎの時間がもてるようになっていた。
お互いの熱を感じながら密着していた僕達は、気分が高まってきて自然に繋がり合った。
しなやかな日野の身体に舌を這わせ、甘く名前を呼ばれるたびに、自分が興奮していくのがわかる。
僕達は高ぶった気持ちのまま、想いを解放した。
飼い主を胸に抱き、幸せの余韻を噛みしめていた僕に
「黒谷、明日は一緒に出かけてもらって良い？」
日野がそう問いかけてくる。
もちろん僕に否（いな）はなかった。
むしろ、飼い主と一緒に出かけられることに喜びを感じていた。
日野は僕に何かやって欲しいことがあるようだ。
僕の答えに満足そうな顔になった日野が
「じゃあ、今日は心おきなくイチャイチャしよう」
そう宣言したので、その日は１日中触れ合ったり繋がりあったりしながら幸せを感じて過ごすのであった。
夏休み２日め
朝食を食べていた日野が『学校としっぽやに付き合って欲しい』と言い出した。
空が日野のボディーガードとして共に学校に行く機会が減っているため、何か困ったことになっているようであった。
『強面に見える格好で』との頼みだったけれど、自分ではどんな服装をすればよいかさっぱり分からない。
日野が選んでくれたコーディネートは、何というか、あまり柄が良くない人間が好むものであったので僕は不安になってしまった。
以前ゲンに『黒谷は存外迫力あるから、外を歩くときはきちんとした格好の方が良い』と助言されていたからだ。
けれども日野は僕の服装を『格好良い』と誉めてくださった。
飼い主に誉められたことで嬉しくなり、エコバッグを詰め込んだアタッシュケースを持つと、日野と共に颯爽と街を歩いていった。
僕の姿を怖がる人間もいたが、何故だか微笑みながら見ている人がいることに僕は気が付いた。
軽く会釈すると、向こうも返してくれる。
飼い主がいなかったときには、体験したことのない出来事に驚いてしまう。
「何だか、すれ違う人の反応がいつもと違うような…
サングラスのせいでしょうか
そういえば以前は秩父先生が似たようなものをかけていたので、お医者様に見えるのかな？」
不思議がる僕に
「ね、俺と一緒に歩いてれば大丈夫でしょ
黒谷は格好良くて最高の飼い犬なんだから
後半は道行く犬好きを、ギャップ萌えでキュン死させてやるぜ」
日野が誇らしげな顔で言うので、僕はますます嬉しくなってしまった。
飼い主と散歩できる自分は幸せであると強く感じるのであった。
僕達は電車に乗り、日野の通う高校までやってきた。
白久は羽生の飼い主捜索の手伝い、空は日野のボディガードとしてここに来ている。
僕はそれが羨ましかったので、日野と一緒に学校に来れて誇らしい気分を感じていた。
『失礼の無いよう努（つと）めなければ』
僕はそう気合いを入れた。
建物に入る前に、日野の後輩らしき人間が話しかけてくる。
すると、その彼を守るような犬の想念が感じられた。
飼い主が出来てから気が付いたのだが、通じ合っている犬と飼い主には絆があるのだ。
彼に会釈すると、彼も好意的な瞳を向けてくれた。
日野は部室とやらに向かいながら、誰かを探しているようであった。
目的の人物達をみつけると、日野の体が緊張する。
探してはいたが、良い感情を持っている相手ではないことが伺えた。
彼らからも、こちらに対する侮りや蔑（さげすみ）みといった、良くない感情の動きが感じられた。
守るように寄り添う僕に
『こいつら、空より黒谷の方が格下だって思ってんだ
格上だってみせつけてやって』
日野は小声でそう命令する。
空と比べられているという事実に、僕はかちんと来てしまった。
「君たちには、言っておかなければいけないことがあるようだね」
サングラスを取り相手を睨みながら、あまり激高した声にならないように話しかける。
しかし彼らは、僕の話の途中で逃げるように走って行ってしまった。
空より僕の方が賢いという１番大事なことを伝え損なってしまい、胸のモヤモヤが収まらなかった。
しかし日野は
「ありがとう黒谷、よくやってくれたね
空より黒谷の方が強いし賢いの、俺はちゃんと分かってるから
これで、学校の用事は終わり」
そう言って晴れやかな笑顔を見せてくれた。
そして、頭を撫でてくれる。
それだけで僕は機嫌が直り、飼い主に誉められた誇りがわいてきた。
帰りがけ、学校の先生に見つかってしまった。
先生からは先ほどの後輩よりもハッキリとした、馴染みある犬の気配が感じられる。
『この方を守っているのは和犬だ』
僕が敬意を持って頭を下げると、先生の視線が好意的な物に変わっていった。
それから一頻（ひとしき）り、日野と先生は話を交わす。
犬の首輪の色について話しているらしく、僕にはシルバーの首輪（今は人間用のアクセサリーを身に付けている）が似合うと日野に自慢げに語られて嬉しくなった。
こうして、僕の初めての『飼い主との学校』体験は、誇らかな気分のまま終了した。
それから僕達は駅の側にあるパン屋に向かった。
日野はここでパンを買って、しっぽやで皆でランチがしたいらしい。
『ここは俺の奢りだから』
そう語る日野の顔には、何かキッパリとした決意のような物が感じられる。
「黒谷も好きなの選んで、ここ、何でも美味しいよ」
「はい」
僕はその言葉に甘えることにした。
自分が食べたいと思うもの、他の者が好みそうな物、それらを大量にトレイに積み上げていく。
かなりの荷物になってしまいそうだった。
「それで、エコバッグが大量に必要だったんですね
せめて、荷物は僕に持たせてください」
そう頼むと
「うん、実は黒谷に持ってもらおうと思ってたんだ」
日野は可愛らしく舌を出す。
飼い主に頼られている状況が嬉しくて
「お任せください！」
僕は胸を張って答えた。
香ばしく良い匂いのパンが詰まったエコバッグを何個も持ち、僕達はしっぽや最寄り駅に移動する。
途中のコンビニで、今度は大量に飲み物を買い込んだ。
大荷物を抱えた僕達が事務所に顔を出すと、驚いた顔の白久と荒木が出迎えてくれる。
「クロ、こちらは大丈夫だから、日野様と出かけて飼い主との時を楽しんできてください」
白久が苦笑を見せた。
事務所内にいる化生の気配で、今日はあまり依頼が来ていないことはすぐに分かった。
「日野が、ここで皆でランチをしたいと言うのでね
お勧めのパン屋で、パンをいっぱい買ってきたよ
皆で食べよう」
僕はエコバッグを掲げて見せた。
日野は同じくパンの詰まった袋を開けて、荒木と話し込んでいる。
『そうか、あの事件から１年経ったんだ
それで日野は、荒木と話をしたかったのか』
悪霊と化した飼い主が飼い犬を求め他人に憑依する、亡くなった飼い主が転生し再び飼い犬の元に戻る。
それは『新たな飼い主を探す』という僕達化生の根幹（こんかん）を揺るがしかねない大事件だったのだ。
それでも、その事件のおかげで僕は日野と巡り会えた。
和銅は死ぬ前に僕の所に再び帰ってくると約束してくれたため、転生しても少なからず記憶が残っていたのだろう。
元々の和銅の素質もあったかもしれない。
普通の人間が死した後再び転生し、化生した飼い犬や飼い猫の元に帰ってくることは不可能だ。
和銅には『化生の飼い主』と言う自覚があったため、このような奇跡が起こったのであった。
『誕生日』
そんな日が自分におとずれるなど、今まで思いもしなかった。
けれども今年は違う。
飼い主が出来た日を誕生日にした白久を真似て、僕も日野に飼っていただけることになった日を誕生日にしたのだ。
それは奇（く）しくも以前の飼い主『和銅(わどう)』が命を落とすことになった、太平洋戦争の終戦と同じ日であった。
誕生日に合わせ８月１３日～１５日の３日間、日野と僕はしっぽやの休みをもらう。
お盆休みであり、夏休みであり、誕生日休みであった。
しっぽや事務所を構えてから、夏に３日も連続して休むなど初めてのことかもしれない。
「クロは頑張りすぎですよ、せっかく飼い主や誕生日が出来たのだから、今年はゆっくり休んでください
クロがいない間は、私と荒木で頑張りますので」
長年の友人でもある白久の言葉に甘え、僕は飼い主との休みを満喫することにした。
夏休み初日
朝から日野がマンションまで来てくれた。
これから３日間、泊まっていってくれるのだ。
飼い主と共にいられる３日間は、僕にとっての初めての誕生日、初めての夏休みでもある。
僕は朝から楽しみでしかたなかった。
「何をしましょうか」
僕は３日間、飼い主の命令を守るため、どんな事態にも対応しようと心に決めていた。
「とりあえず、イチャイチャする」
日野はそう言って甘えるように僕の胸に顔を埋めてくる。
最近は夜中にうなされることは無くなっていたが、日野は時々、和銅であったときの不安定な気分を引きずっているようであった。
僕は彼を抱きしめながらクッションに座る。
ぴったりと身を寄せてくる飼い主のことが、愛おしくてたまらなかった。
日野は僕に誕生日に欲しい物はないか聞いてくれた。
こうして抱き合っているだけでも十分幸せであったが、もう少し、彼に甘えたかった。
「頭を撫でて、誉めてもらってもよろしいでしょうか」
僕がオズオズと切り出すと、膝立ちになった日野が優しく髪を撫でて、いっぱい誉めてくれる。
僕は、飼い主とこんなにゆっくり触れ合いながら愛してもらえたことが無かったことに気が付いた。
今までだって飼い主に愛されて、幸せな思いを感じてはいた。
しかしそれはどこか忙しなく、時代に翻弄されていたのだ。
やっと、心からくつろげる安らぎの時間がもてるようになっていた。
お互いの熱を感じながら密着していた僕達は、気分が高まってきて自然に繋がり合った。
しなやかな日野の身体に舌を這わせ、甘く名前を呼ばれるたびに、自分が興奮していくのがわかる。
僕達は高ぶった気持ちのまま、想いを解放した。
飼い主を胸に抱き、幸せの余韻を噛みしめていた僕に
「黒谷、明日は一緒に出かけてもらって良い？」
日野がそう問いかけてくる。
もちろん僕に否（いな）はなかった。
むしろ、飼い主と一緒に出かけられることに喜びを感じていた。
日野は僕に何かやって欲しいことがあるようだ。
僕の答えに満足そうな顔になった日野が
「じゃあ、今日は心おきなくイチャイチャしよう」
そう宣言したので、その日は１日中触れ合ったり繋がりあったりしながら幸せを感じて過ごすのであった。
夏休み２日め
朝食を食べていた日野が『学校としっぽやに付き合って欲しい』と言い出した。
空が日野のボディーガードとして共に学校に行く機会が減っているため、何か困ったことになっているようであった。
『強面に見える格好で』との頼みだったけれど、自分ではどんな服装をすればよいかさっぱり分からない。
日野が選んでくれたコーディネートは、何というか、あまり柄が良くない人間が好むものであったので僕は不安になってしまった。
以前ゲンに『黒谷は存外迫力あるから、外を歩くときはきちんとした格好の方が良い』と助言されていたからだ。
けれども日野は僕の服装を『格好良い』と誉めてくださった。
飼い主に誉められたことで嬉しくなり、エコバッグを詰め込んだアタッシュケースを持つと、日野と共に颯爽と街を歩いていった。
僕の姿を怖がる人間もいたが、何故だか微笑みながら見ている人がいることに僕は気が付いた。
軽く会釈すると、向こうも返してくれる。
飼い主がいなかったときには、体験したことのない出来事に驚いてしまう。
「何だか、すれ違う人の反応がいつもと違うような…
サングラスのせいでしょうか
そういえば以前は秩父先生が似たようなものをかけていたので、お医者様に見えるのかな？」
不思議がる僕に
「ね、俺と一緒に歩いてれば大丈夫でしょ
黒谷は格好良くて最高の飼い犬なんだから
後半は道行く犬好きを、ギャップ萌えでキュン死させてやるぜ」
日野が誇らしげな顔で言うので、僕はますます嬉しくなってしまった。
飼い主と散歩できる自分は幸せであると強く感じるのであった。
僕達は電車に乗り、日野の通う高校までやってきた。
白久は羽生の飼い主捜索の手伝い、空は日野のボディガードとしてここに来ている。
僕はそれが羨ましかったので、日野と一緒に学校に来れて誇らしい気分を感じていた。
『失礼の無いよう努（つと）めなければ』
僕はそう気合いを入れた。
建物に入る前に、日野の後輩らしき人間が話しかけてくる。
すると、その彼を守るような犬の想念が感じられた。
飼い主が出来てから気が付いたのだが、通じ合っている犬と飼い主には絆があるのだ。
彼に会釈すると、彼も好意的な瞳を向けてくれた。
日野は部室とやらに向かいながら、誰かを探しているようであった。
目的の人物達をみつけると、日野の体が緊張する。
探してはいたが、良い感情を持っている相手ではないことが伺えた。
彼らからも、こちらに対する侮りや蔑（さげすみ）みといった、良くない感情の動きが感じられた。
守るように寄り添う僕に
『こいつら、空より黒谷の方が格下だって思ってんだ
格上だってみせつけてやって』
日野は小声でそう命令する。
空と比べられているという事実に、僕はかちんと来てしまった。
「君たちには、言っておかなければいけないことがあるようだね」
サングラスを取り相手を睨みながら、あまり激高した声にならないように話しかける。
しかし彼らは、僕の話の途中で逃げるように走って行ってしまった。
空より僕の方が賢いという１番大事なことを伝え損なってしまい、胸のモヤモヤが収まらなかった。
しかし日野は
「ありがとう黒谷、よくやってくれたね
空より黒谷の方が強いし賢いの、俺はちゃんと分かってるから
これで、学校の用事は終わり」
そう言って晴れやかな笑顔を見せてくれた。
そして、頭を撫でてくれる。
それだけで僕は機嫌が直り、飼い主に誉められた誇りがわいてきた。
帰りがけ、学校の先生に見つかってしまった。
先生からは先ほどの後輩よりもハッキリとした、馴染みある犬の気配が感じられる。
『この方を守っているのは和犬だ』
僕が敬意を持って頭を下げると、先生の視線が好意的な物に変わっていった。
それから一頻（ひとしき）り、日野と先生は話を交わす。
犬の首輪の色について話しているらしく、僕にはシルバーの首輪（今は人間用のアクセサリーを身に付けている）が似合うと日野に自慢げに語られて嬉しくなった。
こうして、僕の初めての『飼い主との学校』体験は、誇らかな気分のまま終了した。
それから僕達は駅の側にあるパン屋に向かった。
日野はここでパンを買って、しっぽやで皆でランチがしたいらしい。
『ここは俺の奢りだから』
そう語る日野の顔には、何かキッパリとした決意のような物が感じられる。
「黒谷も好きなの選んで、ここ、何でも美味しいよ」
「はい」
僕はその言葉に甘えることにした。
自分が食べたいと思うもの、他の者が好みそうな物、それらを大量にトレイに積み上げていく。
かなりの荷物になってしまいそうだった。
「それで、エコバッグが大量に必要だったんですね
せめて、荷物は僕に持たせてください」
そう頼むと
「うん、実は黒谷に持ってもらおうと思ってたんだ」
日野は可愛らしく舌を出す。
飼い主に頼られている状況が嬉しくて
「お任せください！」
僕は胸を張って答えた。
香ばしく良い匂いのパンが詰まったエコバッグを何個も持ち、僕達はしっぽや最寄り駅に移動する。
途中のコンビニで、今度は大量に飲み物を買い込んだ。
大荷物を抱えた僕達が事務所に顔を出すと、驚いた顔の白久と荒木が出迎えてくれる。
「クロ、こちらは大丈夫だから、日野様と出かけて飼い主との時を楽しんできてください」
白久が苦笑を見せた。
事務所内にいる化生の気配で、今日はあまり依頼が来ていないことはすぐに分かった。
「日野が、ここで皆でランチをしたいと言うのでね
お勧めのパン屋で、パンをいっぱい買ってきたよ
皆で食べよう」
僕はエコバッグを掲げて見せた。
日野は同じくパンの詰まった袋を開けて、荒木と話し込んでいる。
『そうか、あの事件から１年経ったんだ
それで日野は、荒木と話をしたかったのか』
悪霊と化した飼い主が飼い犬を求め他人に憑依する、亡くなった飼い主が転生し再び飼い犬の元に戻る。
それは『新たな飼い主を探す』という僕達化生の根幹（こんかん）を揺るがしかねない大事件だったのだ。
それでも、その事件のおかげで僕は日野と巡り会えた。
和銅は死ぬ前に僕の所に再び帰ってくると約束してくれたため、転生しても少なからず記憶が残っていたのだろう。
元々の和銅の素質もあったかもしれない。
普通の人間が死した後再び転生し、化生した飼い犬や飼い猫の元に帰ってくることは不可能だ。
和銅には『化生の飼い主』と言う自覚があったため、このような奇跡が起こったのであった。
