漆黒の王女〈前編〉

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 おかみさんの言葉に僕と親方は立ち上がって、ねえさんの部屋に戻った。

 連れてくる時は全然そんな様子なかったのに、黒髪の人ははあはあと呼吸が乱れて、額に脂汗を浮かべていた。

 親方は彼女の首に手を差し込むと、

「こりゃあ相当あるな…
 サザン、この家に氷はないな? うちから持ってきてやろう」

 足早に部屋を出ていった。

「サザン? おまえひとりでは難しいだろう、アタシも出来る限り看るからね。
 でも夜は帰らなくてはいけないから、それはおまえに任せてしまうけど、あとは普段通りに過ごしなさい」

 おかみさんがそう言ってくれて、僕は少し安心した。



 黒髪の人はその日一晩中高熱でうなされて…

 着替えさせるのはおかみさんじゃないと無理だから、僕はひたすらタオルで汗を拭ってやり、脱水しないように水を飲ませた。

 黒髪の人は時折、「ウゥ…ママ…パパ…」と寂しげに顔を歪めながら呼吸と共に零して、それを聞く度僕の心はギュウッと摘ままれた。

 早く、この人が苦しみから解放されますように。





 翌朝またおかみさんが来てくれたので着替えを頼んで、僕は親方と猟に出掛けた。

 帰ると、黒髪の人の熱が大分下がって、でもまだ目を覚まさなかった。

 おかみさんはごはんの支度をしてくれていて、目を覚ましたらすぐに食べさせられるようにって、黒髪の人の分も用意してくれていた。

 夜はまた僕ひとりで彼女を看る、悪い夢でも見ているんだろうか、いつも何かうわごとを言っていた。





 そんなのを何日か繰り返して…黒髪の人が目を覚ましたのは…家に連れてきてから4日後。

 猟から帰ってきて、僕と親方とおかみさんとでねえさんの部屋に集まっている時に、

「…ウゥ…」

 と呻きながらゆっくりと…目を半開きさせたのだ。

 親方とおかみさんが息を飲む、やはり同色の髪と瞳に驚きを隠せなかったみたい。

 黒髪の人はしばらく天井を見つめて、やがて僕達に視線を移した。

 彼女も驚いたんだろう、ぼんやりとした黒い瞳に白い光が入る程に、まぶたを上へ押し上げた。

「おじょうさん、具合はどうだ?
 どこから来なすった?
 名前は?」

 親方が優しい口調で彼女に問う。

 黒髪の人は順番に僕達を見ながら…小さな声で言った。



「あ…
 私…
 私…





 ………わからない………」



 …え…?





《Continued to another point of view…》






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【漆黒の王女】中間雑談・2





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