ボーダーライン〈後編〉

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 ふぇ、と間抜けな声を出しそうになった。

 そんな…些細な事で僕、せーちゃんの気持ちを掴んだの?

 それの前の、せーちゃんの車でのアレコレには揺さぶられなかった?

 そんな僕の考えを汲み取ったのか、せーちゃんはジロッと僕を睨んで、

「あのね…言っとくけど、あたし、アレ、今だから言うけど本気で恐かったんだからね。ばーか」

 ぷいっと横を向いたから、僕は心底焦った。本当、馬鹿だ俺。

 拳一個分空いていた、僕とせーちゃんの隙間を迷いなく詰める。

「あっこらっ。勝手に詰め寄るんじゃないっ」

「俺もせーちゃんが好き」

 せーちゃんの言葉を遮って、せーちゃんの組まれた両手をそっと包みながら僕が言うと、せーちゃんは石みたいに固まった。

 でも、僕は構わず続けた。

「もう…あんな事は誓ってしないから…
 俺のこと、恐くないなら…



 俺と、付き合って下さい」

 なんでか感極まっちゃって、最後の方は掠れ声になってしまった。

 せーちゃんが何にも言わず僕をずっと見つめるから、頬に熱が集中して、早く何か言ってよと目で訴えた。

 せーちゃんはふっと軽く息を吐いて、背をもたれたまま、



「うん、

 恐くないよ…





 好きだよ、ノブキ…」

 せーちゃんも最後は掠れ声。

 気付けばお互いの顔が超至近距離、それで僕の理性は崩壊。

「ちゅーしていい?」

「へ? あ、待…っ」

 せーちゃんの返事を待たないで、唇をスタンプみたいに押し付けた。

 せーちゃんの唇、超やわらかい。

 ぼーっと頭がなりかけたところで、

「あー…コホン。
 ご注文のお品物でございます」

 と、席の後ろから遠慮がちにボーイさんが声を掛けたので、僕達は飛び上がるように離れた。

「どうぞ、ごゆっくり」

 ボーイさんは軽くウィンクをして去ったが、僕達はソファーの両端ギリギリまでに間を空けて、鼓動が収まるのを待った。

「…ばかノブキッ。
 何の罰ゲームよ、コレ」

 せーちゃんが向こうを向いたまま、僕の二の腕をばしっとはたいた。

 チラッと見ると、せーちゃん耳まで真っ赤。余計に羞恥を掻き立てた。

「ゴメン。ほんと、何の罰ゲームなんだか…」

 本当にせーちゃんの顔が見れなくて、そっぽを向いたままうなだれた。

 でも、ソファーの中央に無防備に置かれたせーちゃんの手をちゃっかり握っていた。

「あーあ…神さんに、報告に行かなきゃ、かな?」

 せーちゃんが向こうを向いたまま、僕の指を握ったり離したりしながら呟いたのを、

 僕は胸の高鳴りを感じながら黙って聞いていたのだった。





 僕とせーちゃんが始まるまでの長い長い話は、これで終わり。










ボーダーライン〈完〉





[リアルタイム執筆期間]
2015年11月25日~2016年3月30日

[改稿終了日]
2021年6月16日

[執筆BGM]
ハリネズミ / Something ELse
スピードにのって / Something ELse
パーティーを始めよう / Something ELse
DiDiDi / Something ELse
少年 / Something ELse






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