レンズの向こう側
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「おじゃまします…って誰もいないか」
小屋の中は真っ暗で、開けた扉からと、ひとつだけある窓から外の明るみがうっすら差すだけ。
扉を閉めてしまうと、足下が分からなくなっちゃう。
スキー板を扉のそばに立て掛けて、 あたしがポーチの中からスマホを出して、液晶を明るくしようとすると、
「待ってせーちゃん、俺いいの持ってる」
ノブキが止めて、ミニザックから蛍光灯タイプの懐中電灯を取り出した。
それを灯すと、意外に強い光であたし達とその周りを照らした。
あたし達は狭い土間にいて、一段上がると15畳ほどの板間になっていた。
「なんでまた、そんな用意がいいの(笑)」
「言った事なかったっけ? 登山で遭難しかけたことあるって。
それ以来、軽いハイキングでも山に入る時は持ち歩くようにしてる(笑)」
ああ、そんな事言ってたかな。さすが元登山サークル。
「避難小屋かな…ハイシーズンでも無人小屋かな。あの棚の引戸、中見てもいいかな…」
ノブキはブツブツ言いながら、スキー靴を脱いで板間に上がった。
あたしも脱いで、やっとキチキチに固められた脚が解放された。
でも靴下も雨が染み込んでグチャグチャ、冷たいしきもちわるい。
「せーちゃん見て」
ノブキが声を上げる。
ノブキの傍に行ってみると、引戸の奥から1枚の大判の毛布を引っ張り出した。
「袋に入ってたから臭くはなさそうよ。せーちゃんウェア脱いで、これにくるまりな」
「う、ん、ありがと…ノブキは? 毛布、まだある?」
「ううん、それ1枚。
でも大丈夫、こんなのもあった」
ノブキがまた引戸の奥に手を入れて出したのは…七輪と、バーベキューとかで使われる炭の袋詰め、ブロックタイプの着火剤。
「でも、火なんてない」
「大丈夫、俺ライター持ってる」
だから、なんで。ノブキ、タバコ吸わないでしょーが。
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