レンズの向こう側

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「う…わ」

 午前の晴天、先程の雨の湿気、そして山裾から吹き上がる風。

 そういった条件から発生したこの霧は、ホワイトアウトなんて大袈裟なものじゃないけど、あたし達を動揺させるには十分過ぎた。

 視界を遮られる恐怖を感じたあたし達は、数秒言葉を失った。

 スキーをして育ってきたあたしだけど、こんな事に遭遇した経験はない。

 霧が出たら動いたらダメな事は分かってる。けど。けど。

 こんな林のど真ん中でどの位待ったらいいのか?

 いっそ真っ白になってしまう前に滑り降りたらいいんじゃないのか?

 何がいい判断なのか分からない…

 そうだノブキ、ノブキに不安を見せたらいけない。

 そう思ってノブキを見ると、ちょうどノブキもあたしを見て、視線が絡んだ。

 何か言葉を掛ける前に、ノブキはあたしの手を握った。

「せーちゃん?
 …落ち着いて」

 何を言ってるの。あたし、そんなカオしてる?

 とか思ってたら、握った手を引き寄せてノブキはあたしを抱きしめた。

「───」

 あたし、震えてる。抱きしめられて初めて気付いた。

 ノブキは腕を緩めて、少し上の方を見上げて言った。

「こんな所で霧が晴れるのなんて待ってられないよ。
 あのね俺、滑ってる途中で山小屋があるのを見たんだ。
 すぐそこだから、板外してそこまで歩こう。ね?」

 あたしは頷くしかなかった。あたし、全然気付かなかった。ノブキよく見つけたな、すごい。

 あたし達は急いでスキー板を外して、スティックと一緒に担ぎながらそこを目指した。



 ノブキの言う通り、コースから少し外れた所に拓けた場所があって、そこに山小屋が一軒建っていた。

 ここに着くまでにあたし達は、ウェアがずぶ濡れで、重たくて、ウェアの下に着込んでいる服にも水分が染み込んで…

 身体がすっかり冷えてしまっていた。





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