レンズの向こう側

20/48ページ

前へ 次へ


 ノブキは…まだ見えない。

 待ち始めてからたいして経ってないけど…まさか、何かあった?

「ノブキーっ、来てるーっ?」

 あたしが叫んだこの声さえ飲み込んでしまったかのような、静寂。今たったひとりである事を否応なしに感じさせる。

 離れるなと説いたクセに結局ひとりで滑って来てしまった、後悔をひしひしと感じた頃に、

「…せーちゃん…止ま…てるの…ごめ…今…くから…」

 遠くからノブキの叫ぶのが聞こえて、心底ほっとした。

 ノブキの姿が見えるのを今か今かと待ち焦がれる。

 その時、ぽつ、目のすぐ下に冷たい感触。

 ついに雪が降り出したと思ったのだけど、雪にしては強い当たりだった。

 上を見上げると、それはあたしの顔をポツポツと打ってきた。

「え、雨…!?」

 すぐ雪に変わるはず、なんて安易な考えと反比例して、雨足はどんどん強まる。

 あたしの顔はあっという間に濡れ、防水スプレーをかけているスキーウェアもどんどん水気を含んで重たさを感じ始めた。ウェアの中が蒸して汗も出る。

 グローブをしたままの手で顔を擦ると、

「せーちゃん!」

 ノブキの声が大きく聞こえた。ノブキが滑って来るのが視界に入る。

「ノブキ、気を付けて」

 雨に打たれて若干ベチャ雪、スキーヤーにはよろしくないコンディションでハラハラする。

 でもノブキはちゃんと丁寧に滑って、あたしの所まで辿り着いてくれた。

「ごめんせーちゃん、キツネが親子で歩いてるの見たからちょっと写真撮ってた…雨、降ってきちゃったね」

「うん…ノブキ、早く降りた方がよさそう。ほら、ちょっと雨足弱まったから今の内に」

「そうだね…俺達、今どの辺だろう?」

「コース沿いに一定間隔で木の幹に番号が打ってあるんだよ…あ、あそこに13番…
 ノブキ、マップ見せて…ありがと…林を抜けるまでに25あるから、一応半分は過ぎたんだ。
 あと少しだから…行っちゃおう」

「…待って、せーちゃん、これヤバイ…」

 あたし達がそこまで喋った所で、またひとつマズイ展開を迎えてしまった。





「…霧が出てきた…」





20/48ページ
スキ