レンズの向こう側
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ノブキは…まだ見えない。
待ち始めてからたいして経ってないけど…まさか、何かあった?
「ノブキーっ、来てるーっ?」
あたしが叫んだこの声さえ飲み込んでしまったかのような、静寂。今たったひとりである事を否応なしに感じさせる。
離れるなと説いたクセに結局ひとりで滑って来てしまった、後悔をひしひしと感じた頃に、
「…せーちゃん…止ま…てるの…ごめ…今…くから…」
遠くからノブキの叫ぶのが聞こえて、心底ほっとした。
ノブキの姿が見えるのを今か今かと待ち焦がれる。
その時、ぽつ、目のすぐ下に冷たい感触。
ついに雪が降り出したと思ったのだけど、雪にしては強い当たりだった。
上を見上げると、それはあたしの顔をポツポツと打ってきた。
「え、雨…!?」
すぐ雪に変わるはず、なんて安易な考えと反比例して、雨足はどんどん強まる。
あたしの顔はあっという間に濡れ、防水スプレーをかけているスキーウェアもどんどん水気を含んで重たさを感じ始めた。ウェアの中が蒸して汗も出る。
グローブをしたままの手で顔を擦ると、
「せーちゃん!」
ノブキの声が大きく聞こえた。ノブキが滑って来るのが視界に入る。
「ノブキ、気を付けて」
雨に打たれて若干ベチャ雪、スキーヤーにはよろしくないコンディションでハラハラする。
でもノブキはちゃんと丁寧に滑って、あたしの所まで辿り着いてくれた。
「ごめんせーちゃん、キツネが親子で歩いてるの見たからちょっと写真撮ってた…雨、降ってきちゃったね」
「うん…ノブキ、早く降りた方がよさそう。ほら、ちょっと雨足弱まったから今の内に」
「そうだね…俺達、今どの辺だろう?」
「コース沿いに一定間隔で木の幹に番号が打ってあるんだよ…あ、あそこに13番…
ノブキ、マップ見せて…ありがと…林を抜けるまでに25あるから、一応半分は過ぎたんだ。
あと少しだから…行っちゃおう」
「…待って、せーちゃん、これヤバイ…」
あたし達がそこまで喋った所で、またひとつマズイ展開を迎えてしまった。
「…霧が出てきた…」
…