空の兄弟〈前編〉

41/91ページ

前へ 次へ


 それから数日して、また雨が降った。

 出来る仕事がないので、鷹はもうひと眠りすることにした。

 悟はやることがなくて居間でふてくされていた。

 幸代は家の中で洗濯ものを干し始めた。

 鷹が再び夢に入った頃、悟は立ち上がり、洗濯を終えて食器洗いを始めた幸代の後ろに歩み寄って言った。

「なあ伯母さん、傘貸してほしいねんけど」

「ぼろいのしかないよ。ほら、鷹が悟くんを迎えに行った時に差してたやつさ」

「それでええわ、どこにあるのん」

「そこよ、流し台の横。どこか行くの? 一人で?」

 心配そうに幸代が言うと、

「雨ん中の散歩もたまにはええやろ。
 俺、まだこの村知り尽くしてないねん。せやから、これから冒険してくるわ。
 昼ごはんには帰ってきます」

 ぼろぼろの大きな番傘を両腕で抱えて、悟は言った。

「もしお昼まで帰ってこなかったら、鷹を迎えにいかせるからね」

 玄関先で傘を広げる悟に幸代が言った。

「いやや、あいつ来るの待っとったらろくなことあらへんもん」

 即刻嫌な顔で悟が答えると、幸代は大笑いした。

「それに、あいつ絶対俺を迎えになんか来いへんやろ。子供嫌いやねんからな」

「そんなこと言っちゃだめよ」

 幸代のこの言葉に悟は目を丸くした。意味が分からなかった、どうして拒否されたのか分からなかったのだ。

 すると、幸代はくすくすと笑って言った。

「あのねえ悟くん。あんたが来てからあの子変わったよ…いいや、元に戻ろうとしているんだ。
 子供嫌いだって言っているけれど、少なくとも悟くんは好きなのさ」

「うわ、それがほんまなら気色悪ぅ」

 そう言っている悟の顔は笑んでいた。





※よければこちらもどうぞ
紙に書き殴った時代・④





41/91ページ
スキ