空の兄弟〈前編〉
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それから数日して、また雨が降った。
出来る仕事がないので、鷹はもうひと眠りすることにした。
悟はやることがなくて居間でふてくされていた。
幸代は家の中で洗濯ものを干し始めた。
鷹が再び夢に入った頃、悟は立ち上がり、洗濯を終えて食器洗いを始めた幸代の後ろに歩み寄って言った。
「なあ伯母さん、傘貸してほしいねんけど」
「ぼろいのしかないよ。ほら、鷹が悟くんを迎えに行った時に差してたやつさ」
「それでええわ、どこにあるのん」
「そこよ、流し台の横。どこか行くの? 一人で?」
心配そうに幸代が言うと、
「雨ん中の散歩もたまにはええやろ。
俺、まだこの村知り尽くしてないねん。せやから、これから冒険してくるわ。
昼ごはんには帰ってきます」
ぼろぼろの大きな番傘を両腕で抱えて、悟は言った。
「もしお昼まで帰ってこなかったら、鷹を迎えにいかせるからね」
玄関先で傘を広げる悟に幸代が言った。
「いやや、あいつ来るの待っとったらろくなことあらへんもん」
即刻嫌な顔で悟が答えると、幸代は大笑いした。
「それに、あいつ絶対俺を迎えになんか来いへんやろ。子供嫌いやねんからな」
「そんなこと言っちゃだめよ」
幸代のこの言葉に悟は目を丸くした。意味が分からなかった、どうして拒否されたのか分からなかったのだ。
すると、幸代はくすくすと笑って言った。
「あのねえ悟くん。あんたが来てからあの子変わったよ…いいや、元に戻ろうとしているんだ。
子供嫌いだって言っているけれど、少なくとも悟くんは好きなのさ」
「うわ、それがほんまなら気色悪ぅ」
そう言っている悟の顔は笑んでいた。
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